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子どもはなぜCOVID-19にかかりにくいのか

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210202

原文:Nature (2020-12-10) | doi: 10.1038/d41586-020-03496-7 | How kids’ immune systems can evade COVID

Bianca Nogrady

子どもの未成熟な免疫細胞やその他の要因がSARS-CoV-2の排除に重要な役割を果たしているらしい。

子どもがCOVID-19の症状を呈することは滅多にない。 | 拡大する

THOMAS LOHNES/GETTY

幼児が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者に占める割合は非常に少ない。科学者たちはこの傾向を不思議に感じていたが、最近、その理由を示唆する証拠が増えてきている。大人に比べて子どもでは、重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)を排除する免疫系の能力が高いらしいのだ。

「子どもは新しいウイルスに応答する能力が非常に高いのです」と、コロンビア大学(米国ニューヨーク)の免疫学者Donna Farberは話す。そのため、仮にSARS-CoV-2に感染したとしても、子どもは軽症もしくは無症状で済むことが多いという。

子どものウイルスに対する応答が大人とは異なることを示唆するもう1つの手掛かりは、COVID-19を発症した子どもは、SARS-CoV-2に対する特異抗体を産生していても、RT-PCRという技術を用いた標準的な検査法では陽性とならないことだ。ある研究1では、同じ家庭の3人の子どもが抗SARS-CoV-2抗体を発現し、うち2人は軽度の症状も呈していたが、RT-PCR検査で陽性となった両親と濃厚接触を保ちながら28日間に11回の検査を受けたにもかかわらず、陽性の結果を示した子どもは1人もいなかった。

この研究を行ったマードック小児研究所(オーストラリア・メルボルン)の免疫学者Melanie Neelandは、「子どもの免疫系は、ウイルスを見つけると極めて迅速に効果的な免疫応答を引き起こしてそれを排除するため、ウイルスがPCR検査で陽性となるレベルまで増殖する時間がないのです」と話す。

SARS-CoV-2に感染して多臓器系炎症性症候群と呼ばれる重篤だが稀な合併症を起こした子どもでさえも、RT-PCR検査での陽性率は50%以下と報告されている2

子どもが産生している抗体の種類は、何が起こっているかについての手掛かりを与えてくれるとFarberは言う。彼女たちは大人32人と18歳以下の子ども47人を対象とした研究3で、子どもではSARS-CoV-2のスパイクタンパク質に対する抗体が主に産生されていることを見いだした。一方、大人ではスパイクタンパク質に対する抗体のほか、ウイルスの複製に不可欠なヌクレオカプシドタンパク質に対する抗体も産生されていた。Farberによると、ヌクレオカプシドタンパク質が大量に放出されるのは通常、ウイルスが体内に蔓延したときだという。

ヌクレオカプシドタンパク質に対する特異抗体が検出されないということは、子どもが重度の感染症には罹患していないことを示しているとFarberは話す。子どもの免疫応答は体内に蔓延する前にウイルスを排除できるようだと、彼女は説明している。

適応免疫と自然免疫

子どもがウイルスを効率的に無力化できるのは、T細胞が比較的ナイーブ(未成熟)だからではないかとFarberは指摘する。T細胞は適応免疫系の一部であり、遭遇した病原体を認識するために生涯にわたって学習を続けている。子どものT細胞はまだほとんど訓練されていないため、新しいウイルスに対して免疫応答を起こす能力が高いのかもしれないとFarberは言う。

しかし、話がそれほど単純ではないことを示す研究結果もある。COVID-19患者(子どもと24歳以下の若者65人、大人60人)の研究4では、子どもや若者と比較して大人では、ウイルスのスパイクタンパク質に対するT細胞の応答が強いことが分かった。ただし、Farberの指摘によれば、この研究ではナイーブT細胞ではなく、子どもではまだ発達していない記憶T細胞の応答を測定しているという。

子どもがウイルスを無力化する能力には、生まれながらに備わっている強力な「自然免疫」も関係しているかもしれないと、サウサンプトン大学病院(英国)で小児感染症を研究しているAlasdair Munroは言う。ただ、自然免疫の影響は研究が難しく、また、子どもの病気を引き起こす他のウイルスではその影響がなぜ見られないのかという点が疑問として残る、とも指摘する。

子どもはまた、風邪の原因となる季節性コロナウイルスの主要なリザーバーである。季節性コロナウイルスに対する抗体が、SARS-CoV-2に対して何らかの保護効果を発揮しているのではないかと考えている研究者もいるが、研究結果はまちまちだとMunroは言う。

一方、大人と比べて子どもの鼻には、ウイルスが細胞に侵入する際に使用するACE2受容体の数が少ないため、同じ数のウイルスに曝露されても体内に侵入するウイルスの数が少ないという研究結果がある。それが子どもにはCOVID-19の罹患が少ない理由かもしれないと考えている研究者もいる。

子どもが大人よりもCOVID-19にかかりにくい理由がたった1つだけだとは考えにくいとMunroは言う。「生物学はそれほど単純ではありません」。

(翻訳:藤山与一)

参考文献

  1. Tosif, S. et al. Nature Commun. 11, 5703 (2020).
  2. Whittaker, E. D. et al. J. Am. Med. Assoc. 324, 259–269 (2020).
  3. Weisberg, S. P. et al. Nature Immunol. https://doi.org/10.1038/s41590-020-00826-9 (2020).
  4. Pierce, C. A. et al. Sci. Transl. Med. 564, eabd5487 (2020).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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