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2021年ノーベル医学生理学賞は感覚の生物学的基盤を発見した2人に

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2021.211202

原文:Nature (2021-10-14) | doi: 10.1038/d41586-021-01283-6 | Medicine Nobel goes to scientists who discovered biology of senses

Heidi Ledford & Ewen Callaway

細胞が温度や接触を感知する仕組みを解明したデビッド・ジュリアスとアーデム・パタプティアンが、2021年のノーベル医学生理学賞を共同受賞した。

2021年のノーベル医学生理学賞の受賞者、アーデム・パタプティアン(左)とデビッド・ジュリアス(右)。 | 拡大する

SCRIPPS RESEARCH; NOAH BERGER

ヒトが温度や接触を感知できる分子基盤を発見した2人の研究者に2021年のノーベル医学生理学賞が贈られることが、同年10月4日に発表された。

カリフォルニア大学サンフランシスコ校(米国)の生理学者デビッド・ジュリアス(David Julius)は、唐辛子の辛味成分であるカプサイシンを用いて、痛みを伴う熱に応答するTRPV1と呼ばれるタンパク質を突き止めた。また、スクリプス研究所(米国カリフォルニア州ラホヤ)の分子神経生物学者アーデム・パタプティアン(Ardem Patapoutian)は、皮膚をはじめとする器官において、接触や圧力によって生じる力など、機械的な力に応答する受容体を特定した。

これらの知見は、感覚の生物学的基盤の解明に加えて、医療に応用できる可能性がある。例えば、慢性的な痛みに対処するために、ジュリアスとパタプティアンが発見したタンパク質のうちのいくつかを標的とする化合物が探索されている。

感覚を理解する

この2人の研究により、温度や接触などの外部刺激と、神経系の応答を引き起こす電気シグナルとの間に重要な結び付きがあることが示された。

例えば、カプサイシンは疼痛反応を引き起こすことが知られていたが、その仕組みは分かっていなかった。ジュリアスらは1990年代に、痛み、熱、接触に応答して発現する遺伝子を探索していて、カプサイシンに応答すると考えられる遺伝子を見いだし、これがTRPV1をコードする遺伝子であることを明らかにした。TRPV1は細胞膜でチャネルを形成するタンパク質で、活性化されると細胞内に陽イオンが流入する1

一方、パタプティアンらは、機械的な力によって活性化するようになる分子を探していた。そして、つつかれると電気シグナルを発する細胞を特定し、この応答を制御すると考えられる遺伝子を探索した。その結果、圧力によって活性化される、さらに2つのイオンチャネルが発見され、Piezo1およびPiezo2と名付けられた2(2020年4月号「『フォース』を感知するタンパク質を求めて」参照)。なお、Piezo(ピエゾ)という単語は、ギリシャ語の「絞る、押す」という言葉が語源となっている。

ジュリアスもパタプティアンも、独自にメントール(冷感を生じる化合物)を用いて、細胞が寒さに応答する仕組みを研究していた。これらの研究は、寒さによって活性化されるTRPM8という別のイオンチャネルの発見につながった3

「デビッドもアーデムも、感覚生物学の理解を大きく変化させました。今回の受賞決定は素晴らしいと思います」と、ジョンズホプキンス大学医学系大学院(米国メリーランド州ボルティモア)の神経科学者で、ジュリアスの研究室でカプサイシンを感知するTRPV1チャネルを特定したチームの一員であるMichael Caterinaは言う。

TRPV1をはじめとする痛みを感知するタンパク質の特定は、痛みの分子基盤を理解し、新たな治療法を探索するのに役立つ。「このようなタンパク質の特定によって痛みのいくつかの面を説明できれば、医学的に重要な可能性があると思っていました」とCaterinaは言う。

「アーデムとデビッドの受賞は当然のことであり、私も非常にうれしく思っています」と、清華大学(中国・北京)の生化学者で、かつてパタプティアンの研究室でポスドクをしていたBailong Xiao(肖百龍)は言う。「パタプティアンが発見したPiezo1とPiezo2は、他の既知のイオンチャネルとの共通点がほとんどないため、特に重要であり、世界中の研究室に研究の新たな道を開きました」とXiaoは言う(2013年8月号「かゆみの引き金となる分子を発見」、2014年3月号「電子顕微鏡でイオンチャネルの構造を決定」参照)。

ノーベル委員会の医学生理学賞の委員長Nils-Göran Larssonは、受賞者の発表時に、「痛みを伴う健康問題は数多くあり、これらの受容体は、今後、確実に創薬標的になるでしょう」と述べている。

(翻訳:三谷祐貴子)

参考文献

  1. Caterina, M. et al. Nature 389, 816–824 (1997).
  2. Coste, B. et al. Science 330, 55–60 (2010).
  3. McKemy, D. D., Neuhausser, W. M. & Julius, D. Nature 416, 52–58 (2002).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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