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+1.5℃に抑えるには、埋蔵化石燃料の採掘はもはや不可!

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2021.211210

原文:Nature (2021-09-08) | doi: 10.1038/d41586-021-02444-3 | Most fossil-fuel reserves must remain untapped to hit 1.5 °C warming goal

Bianca Nogrady

世界が1.5℃の温暖化抑制目標を達成しようとするなら、現在計画されている 石炭、石油、天然ガスの採掘プロジェクトの多くは、実現不可能になる。

中国・銅陵市の石炭火力発電所。 | 拡大する

QILAI SHEN/BLOOMBERG/GETTY

国際的に合意された温暖化抑制目標を達成できる確率が50%になるようにするだけでも、採掘の採算が合う世界の埋蔵石炭の約90%を地中に残しておかなければならなくなる。それが、このほどNature に発表された、化石燃料採掘の上限に関する最新のモデルの結論である1

2015年のパリ協定では、2つの温暖化抑制目標が設定された。世界の平均気温上昇を産業革命以前に比べて2℃よりも十分低く保ち、できれば1.5℃に抑えるというものだ(2016年3月号「地球温暖化の抑制へ歴史的合意」、2019年1月号「1.5℃の壁を越えないために人類がなすべきこと」、2021年7月号「米国が温室効果ガスの大幅削減を公約」参照)。この論文では、より厳しい目標である「1.5℃」を達成する確率を50%にするためには、世界は2100年までに580ギガトン(10億t)以上の二酸化炭素を排出してはならないと報告している。このシナリオでは、「採掘しないままにすべき」埋蔵化石燃料は、石炭埋蔵量の89%、石油埋蔵量の58%、天然ガス埋蔵量の59%になると計算している(「採掘してはいけない資源」参照)。

採掘してはいけない資源
2015年の研究では、地球の気温上昇を2℃未満にとどめるためには、埋蔵されている石油の3分の1、天然ガスの半分、石炭の80%は採掘せずに地中にとどめておかねばならないと結論していた。今回発表された、1.5℃以上の危険な温暖化を回避するための最新のモデル研究では、採掘せずに残さねばならない化石燃料の量はさらに多いことが示された。 | 拡大する

D. WELSBY ET AL. NATURE 597, 230–234 (2021)

この研究結果を発表したのは、ロンドン大学ユニバーシティカレッジ(英国)の環境・エネルギー経済学者Dan Welsbyが率いる研究チームである。彼らは、このシナリオは世界の化石燃料産業にとって十分厳しいものであるが、平均気温上昇を1.5℃に抑えられる可能性を高めるためには、さらに厳しい採掘制限が必要になると強調している。

オーストラリア国立大学(キャンベラ)の環境・気候変動経済学者であるFrank Jotzoは、「今回の研究は、基本的に、採掘の採算が合う既知の埋蔵化石燃料の大半が利用できなくなることを示しています」と説明する。

手を出せない資源

今回の研究は、世界の平均気温の上昇を産業革命以前に比べて2℃までに抑えるためには、どれだけの化石燃料を使わずに残さなければならないかを検証した、2015年のモデルを基にしている2

モデルの更新が重要だったのは、今ではどんな議論でも「2℃もの温度上昇は許容できない」とされているからだとWelsbyは言う。「実際、2℃の温暖化は非常に大きいのです」。

Welsbyらの研究チームは、このモデルに化石燃料、バイオマス、原子力、再生可能エネルギーなど、主要な一次エネルギー源を組み込んだ。さらに、大気中からのCO2除去技術をはじめとする「ネガティブエミッション技術」も組み込んである(2016年1月号「炭素を大気から取り出す技術が事業化目前」、2020年10月号「岩石の風化で大気中のCO2が除去される」参照)。そして、需要や経済的要因、資源と排出量の地理的分布も考慮し、これらが時間とともにどのように変化するかも調べた。

Welsbyらは、石油と天然ガスの生産量は、今から2050年まで毎年3%ずつ減らしていかなければならないと計算している。これは、ほとんどの地域の化石燃料の生産量が今から10年以内にピークに達しなければならず、進行中および計画中の化石燃料プロジェクトの大半が実施不可能であることを意味する。

地域差

ただし、化石燃料採掘の上限には大きな地域差があることも、資源ごとの炭素強度と採掘コストに基づいた今回の調査で明らかになった。このモデルによると、カナダのオイルサンドの83%と北極地方の未開発の石油および天然ガス資源は、手付かずのままにしておく必要がある。また、オーストラリアは石炭の95%を採掘してはならず、ロシアと米国は埋蔵石炭の97%を放棄しなければならない。

グローバルコモンズと気候変動に関するメルカトル研究所(ドイツ・ベルリン)の経済学者Michael Jakobは、「新しいモデルでは、最も安価に採掘できる埋蔵化石燃料だけが、採掘を続けられることになります。それ以外の埋蔵化石燃料、例えばカナダのタールサンドなどは、完全に競争力を失います。この地域で石油を生産しようとしてもコストがかかり過ぎて採算が取れないからです」と言う。

また、このモデルは、CO2の除去や炭素の回収や貯留を大規模に実施することを前提としている。これらを考慮しない場合や、小規模にしか実施しないと仮定した場合には「目標達成が不可能になってしまうからです」とWelsby。

このアプローチは、2021年8月に発表された気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の大規模な報告書(go.nature.com/3iu12nn)のアプローチと同じである。CSIRO気候科学センター(オーストラリア・キャンベラ)の主任研究員で、IPCCの評価報告書の作成にも関わったPep Canadellは、ネガティブエミッション技術を含めることで、温室効果ガスの排出量が40%増加しても気温上昇を1.5℃未満に抑えることが可能になったとしている。

Canadellは、たとえ私たちが「炭素予算(地球温暖化を一定のレベルに抑える場合に想定される温室効果ガスの累積排出量の上限値)をオーバーしてしまった」としても、大気中から十分な量のCO2を除去することで、産業革命以前からの気温の上昇を1.5℃以下に抑えられるかもしれないと考えている。

しかし、国際応用システム分析研究所(オーストリア・ウィーン)の元最高責任者であるエネルギー経済学者のNebojsa Nakicenovicは、この戦略はリスクを伴うと言う。

彼は、排出目標をオーバーしてから大気中の炭素を除去することは、問題を今世紀後半に先送りしているだけだと指摘し、CO2除去技術がそれなりの規模で実施できるようになるまでの道のりはまだまだ遠いと言う。

今回のモデル研究の結論などから、温暖化を1.5℃未満に抑えるために必要な化石燃料からの温室効果ガス排出の大幅な削減は「非常に困難な課題」であり、解決に向けて直ちに動き出さなければならないことがはっきりしたとNakicenovicは言う。「2050年に向けて約束をするだけでは不十分です」。

(翻訳:三枝小夜子)

参考文献

  1. Welsby, D., Price, J., Pye, S. & Ekins, P. Nature 597 230–234 (2021).
  2. McGlade, C. & Ekins, P. Nature 517, 187–190 (2015).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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