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気候モデル研究者とシステム理論研究者にノーベル物理学賞

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2021.211203

原文:Nature (2021-10-14) | doi: 10.1038/d41586-021-02703-3 | Climate modellers and theorist of complex systems share physics Nobel

Davide Castelvecchi & Nisha Gaind

複雑系の分野で大きな業績を上げた真鍋淑郎、クラウス・ハッセルマン、ジョルジョ・パリージの3氏がノーベル物理学賞を受賞した。

2021年ノーベル物理学賞を受賞した真鍋淑郎氏、クラウス・ハッセルマン氏、ジョルジョ・パリージ氏。 | 拡大する

JONATHAN NACKSTRAND/Contributor/Getty

2021年のノーベル物理学賞は、複雑な物理システムの記述に関する研究が評価された3人の研究者に贈られる。受賞の理由となった研究には、地球の気候の先駆的な数理モデルを構築し、大気中の二酸化炭素濃度の増加が地球の気温を上昇させることを予測した基礎的な研究も含まれる。

このモデルを構築した真鍋淑郎とクラウス・ハッセルマン(Klaus Hasselmann)は、賞の半分を共同で受賞する。賞の残り半分は、複雑系理論に貢献したローマ・ラ・サピエンツァ大学(イタリア)の理論物理学者ジョルジョ・パリージ(Giorgio Parisi)が受賞する。ノーベル委員会によると、パリージの研究は、神経科学から粉粒体の充填の仕方まで、多くの領域に影響を与えているという。

ノーベル物理学委員会のメンバーであるHans Hanssonは、「賞は2つの別々の研究に贈られますが、そこには共通のテーマがあります。それは、こうした秩序とゆらぎから、私たちが理解し、予測できるものが生み出され得るということです」と説明した。「例えば、カオス的な気象をコード化する方法さえ分かれば、将来、気候に何が起こるか予測することができるのです」。

気候モデル

現在プリンストン大学(米国ニュージャージー州)に籍を置く真鍋は、大気中の二酸化炭素濃度の増加が地表の温度上昇につながる仕組みを1960年代に明らかにし、地球の気候に関する初期の数理モデルを開発した(2021年4月号「科学を変えた10のコンピューターコード」参照)。その約10年後、マックス・プランク気象学研究所(ドイツ・ハンブルク)のハッセルマンが、真鍋の研究に基づいて気象と気候を結び付けるモデルを構築した。

エディンバラ大学(英国)の気候モデル研究者で、ポスドク研究者時代にハッセルマンと共に研究したことがあるGabriele Hegerlは、ハッセルマンは「ファンタスティックな」恩師にして指導教員であり、アイデアと熱意に溢れていたと振り返る。

彼女はまた、「スーキー(真鍋の愛称)とクラウスが一緒に受賞したことを本当にうれしく思います。それぞれ非常に大きな貢献をされていますし、どちらも気候科学界の巨人ですから」と言う。

エール大学(米国コネチカット州ニューヘイブン)の地球惑星科学者で、ノーベル物理学委員会のメンバーでもあるJohn Wettlauferは、受賞を知らされた真鍋は「呆然としていました」と打ち明ける。「『私はただの気候学者なのに』と言っていました」。

隠れた秩序

パリージは素粒子物理学者としてキャリアをスタートさせたが、その後は、他の多くのサブフィールドの研究に関わってきた。1970年代後半、彼は複雑系の理論に目を向け、多くの物体の相互作用の中に、直観に反するような隠れた秩序を発見した(G. J. Parisi Phys. A. Math. Gen. 13, 1101; 1980)。ある種の系(磁性体など)では、原子は隣り合う原子と平行に並ぶ傾向があるが、複雑系では予測可能性は低くなる。しかしパリージは、個々の原子がさまざまなスケールでどのように配列しているかを比較することで初めて気付けるようなタイプの対称性を満たしていることを発見した、とローマ・ラ・サピエンツァ大学の物理学者Federico Ricci-Tersenghiは解説する。

パリージの教え子で、長年の共同研究者でもあるRicci-Tersenghiは、「彼は、それまで見過ごされていた複雑な現象を、見て、解釈する方法を編み出したのです」と語る。この理論は、ガラスの構造のように、一見すると完全に無秩序に見える系にも適用できることが分かったという。

Wettlauferは、パリージの研究は根底にある無秩序やゆらぎに注目して創発的な挙動を予測するものであり、真鍋やハッセルマンの研究との間には、ゆらぎが予測可能性のカギとなっているという共通点があると説明する。「創発的な現象について予測するためには、個々の複雑な物理的機構を調べ尽くし、それらを結び付けなければならないことがあるのです」。

Ricci-Tersenghiは、パリージは研究グループのために「楽しい環境」を作り出し、若手研究者を指導する際には常に好奇心や知的関心に従うように促すと言う。

ノーベル賞受賞の知らせを受けたパリージは、記者団に対して「とてもうれしいです。自分が受賞するとは思っていませんでした」と語り、こう続けた。「とはいえ、ひょっとしたらとは思っていたので、電話から離れないようにしていました」。

3氏への授賞は、気候に関する重要な会議を控えたタイミングで発表された。2021年11月に英国グラスゴーで開催される国連気候変動枠組み条約第26回締約国会議(COP26)である。

これはノーベル委員会から世界の指導者へのメッセージなのかと尋ねられたスウェーデン王立科学アカデミー(ストックホルム)事務総長Göran Hanssonは、次のように答えた。「私たちが言いたいのは、気候のモデル化は、物理理論と確かな物理学に基づいているということです。地球温暖化は確かな科学に立脚しています。それがメッセージです」。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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