Advances

昔のイヌの食生活

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2021.211218a

糞石の古DNAから進化を探る。

現代のイヌ。 | 拡大する

DAISUKE MORITA/MOMENT/GETTY

狩猟採集生活から農耕へのシフトは人間の進化を変えた。そして人類最良の友であるイヌの進化も変えた。糞石(化石化した糞)は、食生活がそうした変化にどう影響したかを現象的に語る素晴らしい情報源だと、オックスフォード大学(英国)の考古学者Greger Larsonは言う。「糞石は腸内のスナップショットだ」。

青銅器時代のイヌの糞石13個を解析した最近の研究によって、穀物中心の食事への変化がイヌの腸内微生物に与えた影響が明らかになった。この変化が、イヌの家畜化に一役買った可能性がある。

消化酵素の不足を腸内細菌がカバー?

ボローニャ大学(イタリア)の研究チームは、イタリア北東部にある古代の農耕集落の遺跡から見つかった3600~3450年前の糞石からDNAを取り出し、その塩基配列を解析した。糞石に含まれていたイヌのDNAでは、腸内でデンプンを分解する酵素であるアミラーゼをコードする遺伝子のコピー数が、現在の大半のイヌよりも少なかった。オオカミの多くはこの遺伝子を全く持っておらず、この違いは飼い犬の食べ物がかつての肉中心の食事から穀物に富むものに変わったためだと考えられている。

だが、食物の消化は動物自身が作り出す消化酵素だけによるのではなく、腸内細菌も寄与している。糞石に含まれていた細菌の残存DNAを解析した結果、大量のアミラーゼを作り出す細菌の証拠が見つかった。イヌ自身のゲノムは飼い主の農耕民が食べる穀物中心の食事を消化できるまで進化していなかったので「微生物に助けてもらっていたのです」と、iScienceに掲載された論文の責任著者であるボローニャ大学の微生物学者Marco Candelaは言う。

こうした糞石中の微生物はオオカミからイヌに変わる中間段階に光を当てたものの、家畜化は、単純な直線的プロセスではないと、この研究には関与していないダラム大学(英国)の動物考古学者Angela Perriは言う。「家畜化がXからY、YからZへと進む単純で分かりやすいプロセスならよいのですが」、野生のイヌと飼い犬の交配は常に起こっていたので、事が複雑になっていると彼女は言う。さらにLarson(彼もこの研究には加わっていない)は、現代のイヌ同士を比較してもアミラーゼ遺伝子のコピー数にはばらつきがあると指摘する。それでもPerriは、イヌ自身のゲノムでは足りないところを細菌が補っていた可能性を示したのは重要だと言う。同じ現象が、ヒトの食事が狩猟採集食から農耕食にシフトした際に人間の腸でも起こっていたかもしれない。Candelaらは現在、この可能性を調べている。

人間集落の遺跡で見つかった動物の糞石はこれまで未利用のまま評価されてこなかったが、今回の研究はそこからいかに多くのことを知り得るかを如実に物語っているとPerriは言う。「通常、考古学では人間が残したものを手に入れるのは困難です。ですがイヌの糞が奪い合いになることはありません」。

(翻訳協力:粟木瑞穂)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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