Editorial

世間の目にさらされたCOVID研究者を守れ

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2021.211245

原文:Nature (2021-10-14) | doi: 10.1038/d41586-021-02757-3 | COVID scientists in the public eye need protection from threats

COVID-19パンデミックの際に忌憚なく意見を述べた研究者たちが、ハラスメントに直面している。所属機関は、こうした研究者を支援する施策の充実を図らなければならない。

英国政府の最高医療責任者を務めるクリス・ウィッティ(Chris Whitty)氏も、実世界とオンラインで、殺害の脅迫を含む嫌がらせを経験した科学者の1人だ。 | 拡大する

JUSTIN TALLIS/Contributor/AFP/Getty

新型コロナウイルス感染症(COVID-19;SARS-CoV-2が引き起こす感染症)のパンデミック(世界的大流行)では、公の場に登場した科学者の数が普段よりも多かった。その多くは、初めての登場で、日々、メディアの取材を受けたり、政策立案者に助言をしたり、ソーシャルメディアに投稿したりしている。また、最新のコロナウイルスのデータについて考察し、新しい研究を説明、解釈し、政府の政策にコメントする者もいて、タレントとして認知されるようになった者までいる。

パンデミックにおいては、科学者が一般市民に向けて明快かつ正確に情報を発信することが不可欠だ。しかし、一般市民の注目が集まったことで、少数とはいえ無視できない数の研究者に不幸な結果がもたらされた。Nature では、COVID-19に関してメディアで発言した研究者の一部を対象に調査を行い、全回答者(321人)の約15%に当たる47人が殺害の脅迫を受け取り、72人が身体的暴力や性的暴力を告知する脅迫を受けたことが明らかになった(Nature 2021年10月14日号250ページ参照)。また、他の質問では、ネット上での荒らしや個人攻撃の被害を受ける頻度が最も高かった研究者の方が、その後メディアで発言する意欲が揺らいだと回答する確率が高いことが分かった。

この結果は、無作為に抽出された研究者に対する調査の結果ではなく、Nature の調査に回答する意思を持った研究者に対する調査の結果だ。この調査内容は、科学者をジャーナリストに引き合わせる役割を果たしているオーストラリア科学メディアセンターが実施した意識調査がベースになっている。英国、カナダ、台湾、ニュージーランド、ドイツの研究者に対しては、世界中の科学メディアセンターがNature の調査票を送付し、アメリカとブラジルの研究者に対しては、Nature が調査票を送付した。脅迫を受けたことのある者の方が調査票に回答する意欲が高いと考えられるため、科学者全体における嫌がらせを受けた者の割合は、今回の調査結果よりも低くなる可能性がある。

とはいえ、この調査結果は衝撃的だ。脅迫は、程度のいかんを問わず、決して許されるものではなく、この調査によって得られた知見は、科学者の健康と安全を気遣う全ての人々にとって懸念すべきものといえる。また、脅迫行為は、研究者が公の場で議論に貢献しようとする意欲を失わせる危険がある。研究者の専門知識を考えれば、脅迫行為はパンデミックの際には大きな損失を生じさせると考えられる。

あらゆるレベルの機関が、科学者を保護し、擁護し、脅迫行為を非難するための取り組みを強化しなければならない。殺害の脅迫を受けたことを雇用主に通報した調査回答者(全員が通報したわけではなかった)のうち、約20%は雇用主が全く協力的でなかったと回答している。ネット上での荒らしや個人攻撃を受けたことがある研究者の場合でも、その割合は同程度だったが、この場合は、回答者が雇用主に通報する可能性がもともと低かった。殺害の脅迫を受けたことがある人の80%以上が雇用主に通報したのに対し、ネット上での荒らしや個人攻撃を受けたことがある人の場合、それは50%強にとどまった。「学会、研究助成機関、政府がこの問題を議論し、攻撃行為を非難すべき」とは、当然の回答である。

調査回答者の大部分は欧州と米国の研究者だったが、脅迫行為は、全世界の研究者に対して行われている。加害者は、個人の場合と、組織的な反科学運動や反ワクチン運動の参加者の場合がある。今回の調査で得られた知見は、世間の目にさらされた科学者に対する支援と保護、そして研修の強化が必要であることを示している。

この他にも、世間の注目を集めている気候変動や動物研究などの分野の研究者の中には、長年にわたってハラスメントや嫌がらせに対処せざるを得なかった者もいる(その一例はNature 2018年10月18日号449~450ページ参照)。こうした状況が一因となって、彼らが所属する機関では、科学者の支援方法に関する理解をある程度深めることができた。科学メディアセンター(英国ロンドン)は、ハラスメントを受けている人に対して、評論家と関わるべきかどうかに関する助言、関わるべきであれば、その時期と関わり方に関する助言や、誰に支援を求めるべきかに関する助言を書籍としてまとめ、出版した組織の1つだ(go.nature.com/3lyyqlj)。支援や情報は、他の分野からも得ることができる。ジャーナリズムやスポーツなどの分野に属する人々も、ネット上での脅迫や、時には現実世界で攻撃の対象となっているからだ。

ハラスメントに直面した科学者を支援する行動は、公開の場での健全な批判や議論を封じることではない。COVID-19のパンデミックでは、新しいデータが発表されるたびに意見の対立や見解の変更が多く見られ、どのような政策を採用すべきかについても見解の相違が見られた。科学者と保健当局者は、自分たちの研究が疑問視されたり、異議を唱えられたりすることを想定し、批判的なフィードバックが誠実に提起されたものであれば積極的に受け止めるべきだ。しかし、暴力に訴える脅迫やネット上での過激な嫌がらせは、議論を促進しない。それどころか、科学コミュニケーションがかつてなく重要視されている今、その弱体化をもたらす危険をはらんでいる。

(翻訳:菊川要)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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