Where I Work

Wanda Diaz Merced

Credit: ENRICO SACCHETTI

私は重力波検出器Virgo(バーゴ)の前に立っています。Virgoはイタリアのピサの近郊にあり、私はここでコンピューター科学者兼天体物理学者として働いています。私の前に伸びているのは、Virgoの直交する2本のアームのうちの1本です。長さ3kmのアームの中にはパイプが通っていて、2枚の鏡の間をレーザー光線が往復しています。宇宙の彼方で発生した重力波が地球に到達すると、時空(3次元の空間に1次元の時間を加えて4次元としたモデル)がわずかに歪みます。アームは、この歪みを捉えます。

宇宙で大質量星の爆発などが起こると、あらゆる方向に伝播する時空のさざ波である「重力波」と、普通の光学望遠鏡やX線望遠鏡で検出できる「放射」が発生します。放射には、それを発生させた事象の起源である重力に関する情報が含まれています。

私はプエルトリコ出身で、20代のときに糖尿病性網膜症の悪化によって失明しているので、こんなふうに音を使って重力波の測定値を調べています。天体観測データを音に変換して分析するソフトウエアツールを開発できるように、グラスゴー大学(英国)でコンピューターサイエンスの博士号を取得しました。私は数学を「聴く」ことで、Virgoが検出する重力波と同時に発生したと考えられるX線を特定したいのです。

ブラックホール同士の衝突によって発生した重力波のデータは 「チャープ(さえずり)」と呼ばれています。データを音に変換すると、鳥のさえずりのように聞こえるからです。

Virgoは現在アップグレードのために停止していて、再稼働は2022年6月以降になる予定です。その間、私は同僚と一緒に「欧州市民のための研究インフラ(REsearch INfrastructures FOR Citizens in Europe;REINFORCE)」の仕事をしています。住んでいる場所や障害の有無にかかわらず、どんな人でも多感覚データを作成して研究に貢献することができるようなソフトウエアを開発するつもりです。

Virgoの大きさを実感するため、アームの先端まで歩いて往復することがあります。私は集中するために歩きながら歌うのが好きなのですが、Virgoが再稼働して感度が上がると、私の歌声まで拾ってしまうかもしれません。ですから制御室の人からはときどき「歩きながら歌ってはだめだよ」と言われます。

翻訳:三枝小夜子

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 11

DOI: 10.1038/ndigest.2021.211152

原文

Using sound to explore events of the Universe
  • Nature (2021-08-30) | DOI: 10.1038/d41586-021-02347-3
  • DAVIDE CASTELVECCHI
  • Wanda Diaz Mercedは、Virgo(イタリア・ピサ近郊)を用いるコンピューター科学者・天体物理学者。