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民主主義と専門知識をつなぐ市民会議

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2021.211132

原文:Nature (2021-08-26) | doi: 10.1038/d41586-021-02006-7 | A bridge across the democracy–expertise divide

Mark E. Warren

市民会議を構成する代表人をより公正に選択するための 革新的なアルゴリズムが報告された。そのように選出された人々からなるグループは、民主主義と専門知識の間のギャップを埋める助けになりそうだ。

専門家と市民の間の隔たりはますます広がりつつある。科学への不信感が高まっており、証拠に基づく意思決定に異議を唱える陰謀説も増えている。民主的な社会やプロセスのための専門知識を提供する機関(行政機関、大学、研究機関)に対するポピュリスト(大衆主義者)の攻撃は、ソーシャルメディアにあおられて、増加している。専門知識を統治に利用できるようにしつつ、民主主義を強化することはできるだろうか? カーネギー・メロン大学(米国ペンシルベニア州ピッツバーグ)のBailey Flaniganら1は、Nature 2021年8月26日号548ページで、政治と専門知識を組み合わせることが多い問題について助言する任務を負った市民の代表グループを、公平かつ民主的に選択する方法を提示している。このように選ばれた市民代表グループは、従来の選挙民主主義制度を補完するものとして、民主主義と専門知識の隔たりを埋める有望な手段である。

Flaniganらが使用している「市民会議(Citizens’ assemblies)」という言葉は、私が本稿で使用する用語「審議ミニパブリック(deliberative minipublic)」の1つの形式である。これは、20〜500人の一般市民の集団が、抽選によりほぼランダムに選択されて、学び、審議し、意思決定者や、場合によってはより幅広い一般市民に提言するという仕組みだ(図1)。審議ミニパブリックは、よりなじみ深い制度である民主主義政治では達成できない3つのことを可能にする2

図1 気候変動に関する市民会議であるClimate Assembly UKのメンバー
市民会議は審議ミニパブリックの一形態であり、より幅広い公衆を人口統計学的に代表する20〜500人の個人がほぼランダムに選ばれて、特定のトピックについて学び、審議し、推奨事項を提示する。Flaniganら1は、市民会議のために個人を公平に選び、会議が人口統計学的な代表者で構成されることを保証するアルゴリズムを考案した。 | 拡大する

FABIO DE PAOLA/ALAMY

第一に、審議ミニパブリックのメンバーは、関連している公衆を反映するように選択される、すなわち、代表メンバーの構成は、代表されている公衆を人口統計学的に反映している(例えば、年齢構成が同じになっているとか、民族の割合が同じであるなど)ため、代表している集団のためにより良い仕事を行うことができる。これに対し、国会など選挙で選ばれた集団や、公聴会や請願、ロビー活動など参加者が自選するプロセスでは、代表性が低い傾向にある。第二に、少数の一般市民が他の市民の代表として活動しているため、市民はこうした集団に好感を持ち、信頼する傾向がある。おそらく彼らはエリート主義者ではなく、政治家に献金していないと考えられるからだ。第三に、審議ミニパブリックは専門知識を統合することができる。なぜならメンバーには、問題について学び、専門家や支持者から意見を聞いてから、推奨事項について審議することが課されているためだ。

適切に設計されたプロセスで支えられている場合、一般市民は専門知識を、道徳的で価値に基づく政治的考慮に統合できることが、豊富な証拠3,4で示されている。関心の的になっている問題(中絶、気候変動、英国の欧州連合離脱など)については、審議ミニパブリックは人口統計学的に市民を代表するサンプル集団であることから、特定の支持者や選挙で選ばれた代表者よりも二極化が少ない傾向にある。これは、この選択プロセスが、「動機付けされた理論家」(つまり先入観にとらわれた立場を支えるために情報を選択する人々)を多く代表にしないことも要因の1つとなっている。

Flaniganらは、審議ミニパブリックの構成に焦点を合わせている。彼らは、選択の確率を等しくすることによって、メンバーを選択する際の公平性を最大化するアルゴリズムを提案し、試験している。なぜこれが大切なのか? 審議ミニパブリックが、民主主義と専門知識の溝を埋めるには、政治的実体として、より幅広い市民から正当な代表機関と見なされなければならないからだ。研究結果はまだ一様ではないが5、より幅広い一般市民に認識されているように、彼らの正当性は「私たちのような(普通の)」人々を代表することによって高まることを証拠は示唆しており、このような記述的代表制の政治的価値が強調される。

人々が審議ミニパブリックを好むのは、1つには彼らが政治的議題を持つエリートではなく、一般市民を代表しているからだと、現状、私たちは理解している。そのため、人々が得られた結果を信頼する可能性は高くなる5。さらに、これらの市民会議によって提示された推奨事項は、専門家によって提供される同じ情報よりも、一般市民に大きな影響を与えることが多い4。こういった正当性を達成するために、審議ミニパブリックを組織する人々は、選択プロセスの信頼性を確実にしなければならない。

しかし、これは口で言うほど簡単ではない。審議ミニパブリックは、多くの場合、2段階のプロセスで構成される。まず、特定の数の人々に依頼状が送られる。通常、投票者リストなどからおおよそランダムに選択される。しかし、Flaniganらが指摘するように、依頼に応じる人々は、より幅広い市民の代表ではない。彼らは通常、年齢や教育程度が高く、その地域の主要言語を話すか主要な民族集団に属している場合が多く、安定した住居を持っている可能性が高い。従って、このグループからランダムに選択しても、記述的代表集団にはならない。

このため、ミニパブリックの組織者は通常、ボランティアの候補者集団から代表者を選択するときに特定のカテゴリーに人口統計学的割り当てを課し、より幅広い公衆の代表に見える集団を作成できるようにする。ここで、Flaniganらが設計したアルゴリズムが役立つ。アルゴリズムはゲーム理論における「公平分割」の分野のアイデアを使用して、候補者集団における偏りを修正するために必要な割り当ての制限があっても、誰かが任務を果たすために選ばれる可能性を等しくする。これを行うことで、選択プロセスを不公平にすることなく、集団がより幅広い公衆のように見える可能性を最大化する。

「市民会議」の提言が信頼を得るには、そのメンバーが人口統計学的に公衆を代表するように選択され、かつ選択プロセスが公平であることが宝くじのように目に見える形で示される必要がある。 | 拡大する

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課題は残っている。より幅広い公衆、特に不信感を持つ市民の割合が高い公衆を、それでもまだ、使用される選択プロセスが公平だと納得させる必要があり、また、選択アルゴリズム自体を理解できるような人もほとんどいないだろう。従って、組織者の信頼性と、選択アルゴリズムを直感的に理解できる、目に見える透明なプロセスに変えられる組織者の能力に大きく依存することになる。例えば、アルゴリズムが宝くじのように公平に機能することを示したりするのだ。組織者は、偏りを取り除くための割り当てによって、プロセスが「不正に操作される」という認識を持たれないようにする必要がある。そして、審議ミニパブリックを信頼しなければならないのは市民だけでなく、政治エリートも、だ。政治エリートたちは、トピックを理解する市民の能力は、無知を利用するポピュリスト政治家たちによって影響されかねないと考えているからだ。

これらの難題にもかかわらず、審議ミニパブリックは、民主主義と専門知識の間の拡大し続けるギャップを減らすための最も有望な方法の1つとなっている。そして、審議ミニパブリックは有用性と有効性を増しつつある。このようなイニシアチブの信頼できる国勢調査はないが、クラウドソーシングWebサイトParticipedia.nethttps://participedia.net)で、「random sampling(ランダムサンプリング)」または「stratified random sampling(層化ランダムサンプリング)」と「deliberative and dialogic process(審議および対話型プロセス)」を組み合わせて検索すると、世界中でランダムに選択されたグループが学習して審議する520を超えるイベントが結果として表示される。昨年、経済協力開発機構(OECD)から発表された報告には、OECD諸国における290の「代表審議」プロセスが記載されている。その中には、1990年代に始まったものも含まれているが、ほとんどは過去10年以内に組織されたものだ。

審議ミニパブリックがより広く使われるようになるにつれて、市民と政治エリートがそれらを信頼でき合法的だと見なすことが重要になる。Flaniganらの選択アルゴリズムは重要な前進であり、この有望な民主的革新を後押しするための世界的な基準になる可能性がある。

(翻訳:古川奈々子)

ブリティッシュ・コロンビア大学(カナダ・バンクーバー)に所属

参考文献

  1. Flanigan, B., Gölz, P., Gupta, A., Hennig, B. & Procaccia, A. D. Nature 596, 548–552 (2021).
  2. Setälä, M. & Smith, G. in The Oxford Handbook of Deliberative Democracy (eds Bächtiger, A., Dryzek, J. S., Mansbridge, J. & Warren, M. E.) 300–314 (Oxford Univ. Press, 2018).
  3. Fishkin, J. S. Democracy When the People are Thinking: Revitalizing Our Politics Through Public Deliberation (Oxford Univ. Press, 2018).
  4. Gastil, J. & Knobloch, K. Hope for Democracy: How Citizens Can Bring Reason Back into Politics (Oxford Univ. Press, 2020).
  5. Warren, M. E. & Gastil, J. J. Polit. 77, 562–574 (2015).
  6. OECD. Innovative Citizen Participation and New Democratic Institutions: Catching the Deliberative Wave (OECD, 2020).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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