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学術界サバイバル術入門 — 助成金を申請する③:研究課題の準備(前編)

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2021.211126

申請書の作成に当たり、「研究課題」と「目的」を練り上げていきましょう。あなたの申請書が審査委員の目に留まるものになるための、重要なポイントをお話しします。

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Intpro/iStock/Getty

学術界サバイバル術入門
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助成金の申請に関するこのシリーズの第1回と第2回では、科研費の構造と、自分の分野の最新情報に精通し続けることの重要性を確認しました。今回は、申請書の作成に必要な「研究課題」と、それに付随する「目的」を練り上げ、あなたの申請が審査委員から(前向きな)関心を勝ち取れるようにする方法を説明します。

助成金申請のための研究課題と目的を決定する際に、考慮すべき点がいくつかあります。研究課題では、新規性と関連性を明文化する作業に取り組む必要があります。一方、目的に関しては、自分の専門知識とリソースを考慮しなければなりません。これらの重要なポイントをさらに詳しく見ていきましょう。

研究課題:新規性

前回詳しく説明しましたが、新規性は重要なので、もう一度確認しましょう。前に強調したように、提案に目新しさがない場合、採択されないでしょう。しかし、必要なのは新規性だけではありません。併せて創造性があることも、採択の重要な要素となります。つまり、(1)この課題はまだ手が付けられたことがないタイプであり、(2)解決すべき非常に興味深い/重要な問題だと、審査委員をうならせる必要があります。私たちだって、論文を読んだときに、「この課題は非常に重要だ……なぜこれまで研究されたことがなかったのだろう」と考えることが、しばしばありますよね。

もちろん、人をうならせるような課題を思い付くのは簡単ではありませんし、準備が整うまでに何度も検討を繰り返す必要があるでしょう。ではここで、戦略をもう一度確認しましょう。まず、前回お話ししたように、論文で最新情報を把握したら、論文の最後で著者たちが問いかけている疑問を検討してください。多くの場合、著者たちは自分たちの研究をさらに発展させるための次なるステップを明示しています。1つの論文から得た1つの手掛かりのみでは、あまり役に立ちませんが、あなたが読んだ多くの論文/プレプリントから得た、複数の手掛かりは役に立ちます。この分野で今後、何に取り組む必要があるかについて、これらの論文からパターンまたは傾向を特定しましょう。これは非常に良い出発点になります。

この時点で、あなたの分野の研究者から得た「一般に共有されている考え方」を書き留めて、同僚と話し合ってください。活発な議論とユニークな視点は、これらの問題への取り組みに関連する研究課題を練り上げるのに役立ちます。ここで、創造性を考慮することも重要になります。その分野の他の研究者たちから提起された課題に対処しているだけなら、他の多くの助成金申請に埋もれてしまうでしょう。

そうならないために、課題が出来上がったら、あなただけがもたらすことのできる「ユニークな価値」について検討してください。練り上げた課題に対し、あなたはどのような特別な専門知識を持っているかを考えましょう。その特別な専門知識によって、(1)課題がよりユニークになるだけでなく、(2)あなたが研究の適任者であることを示せますか? 審査委員は、「この提案の作成者は、この課題に対処するのに適切な人物だろうか?」と自問します。答えが「いいえ」の場合、あなたの提案は採択されません。従って、あなたが提案する研究課題が、あなたの特定の専門知識に基礎を置いたものであることを確実にすれば、あなたの助成金申請のユニークさだけでなく、その評価も向上します。

例えば、水道水から汚染物質を除去するのに使える可能性のある、新しいナノポーラス材料(ナノ多孔質材料)が最近開発されたとします。この用途を検討するための提案を単に準備するだけでは創造性に欠け、評価中の他の多くの提案と似たようなものになる可能性があります。ただし、あなたが材料の表面改質に関する特定の専門知識を持っているなら、それを生かすことをお勧めします。

従って、より適切な研究課題は、「水処理の効率を改善するために、これらの材料のさまざまな表面改質を評価すること」となります。

派生的な研究課題を避けることも重要です。例えば、最近のいくつかの研究によって、このナノポーラス膜が廃水からカドミウム汚染を除去するのに効果的であることが示されているとします。このナノポーラス膜が水から別の重金属を除去するのにも効果的であるかどうかを調べるという提案は、この分野にほとんど価値をもたらさないでしょう。これは派生的な研究課題です。提案の新規性を高めるためには、このナノポーラス材料を改善する(上記の表面改質など)、あるいはこれまで検討されていなかった、この膜の新しい用途を検討するなどとするのがよいでしょう。

研究課題:関連性

「新規性」が不可欠であるように、「関連性」も不可欠です。助成金配分機関は通常公的資金で運営されているため、社会に幅広い利益をもたらす提案に資金を提供したいと考えていることを忘れないでください。従って、研究課題の「波及効果」を考慮する必要があります。恩恵を受けるのは誰ですか? 学術界にとって価値があることも大切ですが、政策立案者や産業界、あるいは一般市民などの非学術界にとっても重要な提案は、インパクトが限定的な提案よりも好評価を得ることが多いのです。

例えば、次の研究課題について考えてみましょう。

広島の都市部の廃水からカドミウム汚染を除去するためにナノポーラス膜を使用できるか?

これは非常に限定的で、ナノポーラス膜の幅広いインパクトを狭めています。なぜカドミウムに限定するのでしょうか? そして、なぜ広島の都市部のみで? 科研費の配分機関が、少数の人々にしか利益をもたらさない提案に資金を提供したいと考えるわけはないですよね。

研究課題を次のように書き直すといいでしょう。

「日本の都市部の廃水から重金属汚染を除去するためにナノポーラス膜を使用できるか?」

こうすることで、疑問の解明によって恩恵を受ける人々の数が増え、科研費のような国家の資金配分機関にとって、より魅力的なものになるでしょう。

ここで、一歩下がって全体像を見ることが重要になります。あなたの研究からどんな人が恩恵を受けるかを考えてみてください。彼らは直接の受益者ではないかもしれませんが、あなたがもたらす進歩に基づく将来の研究が、この先彼らに利益をもたらすかもしれません。生命科学、材料科学、化学、環境科学、社会科学、またはコンピューター科学の分野の研究者にとっては、このようなつながりを確立するのは難しいことではありません。しかし、天文学や理論物理学の研究者からは、これは簡単ではないと不満を言われたことがあります。分野によって違いがあることを忘れないでください! 天文学や理論物理学の審査委員は、あなたの研究が社会にすぐに適用されることを望んではいませんから、科研費の申請では、研究課題はより狭いものとなります。しかし、先に挙げた分野では、研究課題が学界を超えて私たちが住んでいる世界を改善するのにどのように役立つかを考えるのは、はるかに容易なのです。従って、これを念頭に置いて研究課題を書き上げるとよいでしょう。第4回で説明しますが、これらの幅広いメリットを伝えることは、審査の際にあなたの申請を採択してもらう上で重要になります。

研究課題が明確に確立できたら、次は目的の決定に取り掛かります。

次回は、2022年1月号の予定です。

(翻訳:古川奈々子)

ジェフリー・ローベンズ(Jeffrey Robens)

Nature Research Academies 筆頭講師。自然科学分野で多数の論文発表と受賞の経験を持つ研究者でもある。


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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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