Editorial

世界の「ブルー」フードシステムを利用して飢餓に終止符を打つ

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2021.211144

原文:Nature (2021-09-15) | doi: 10.1038/d41586-021-02476-9 | Harness the world’s aquatic ‘blue’ food systems to help end hunger

水生生物性食料は、食料安全保障にさまざまな寄与をしてきたが、これまで研究者や政策当局者に顧みられてこなかった。今こそ、正しく認識されるべきだ。

遠海魚は、鶏肉や牛肉、羊肉、豚肉よりも、ビタミンやミネラルなどの栄養素の含有量が高いことが分かった。 | 拡大する

Aaron Bull/iStock/Getty Images Plus

世界各国のリーダーが参加する国連食料システムサミットが、2021年9月23日に開催された。このサミットは、国連事務総長のアントニオ・グテーレスが主催し、国連の最重点目標である「持続可能な開発目標(SDGs)」の達成を再び軌道に乗せる取り組みに、大きな弾みをつけることを目的としている。

SDGsの1つが、2030年までに飢餓をなくすことだ。世界人口の約9%に当たる約7億人が飢餓状態にあるとされ、世界食糧計画(WFP)は、約2億5千万人が飢餓状態に陥る寸前にあると推定している。飢餓に終止符を打つという目標達成への進捗は、COVID-19が流行する前からあまり芳しくない。今回のサミットに参加する各国の代表が協調して思い切った行動を起こさなければ、2030年までに8億4000万人が飢餓に苦しむことになるだろう。

水生生物性食料システム(「ブルーフード」とも呼ばれる)が、いかにして飢餓を終わらせ、真に持続可能な世界の食料システムの構築を加速できるかに焦点を置いた論文が、Nature 2021年9月16日号をはじめとするNature Portfolioの複数誌に一挙に掲載された(go.nature.com/3nw8qbf)。

100人以上の研究者が関与する共同研究「ブルーフード・アセスメント(Blue Food Assessment;BFA)」の一環で行われたこれらの研究は、水生生物性食料が食料安全保障にどのように寄与しているかを初めて系統的に評価したものである。世界の食料システムは、農業による食料だけにとどまらない。これらの研究は、その全体像を把握する上で役立つ。

ブルーフードは、魚介類の他、河川や海や大洋で捕獲または収穫された多様な動植物類および藻類を含み、32億人以上にタンパク質などの貴重な栄養素をもたらしている。

ハーバードT.H.チャン公衆衛生大学院(米国マサチューセッツ州ボストン)のChristopher Goldenらの研究グループは、水生生物性食料の栄養価をさらに詳しく解明するため、3753種類の水生生物性食料(魚類、甲殻類、頭足類を含む)の栄養プロフィールをまとめた。その結果、水生生物性食料のいくつかのカテゴリー(外洋由来の魚介類を含む)は、牛肉や羊肉、鶏肉、豚肉よりも評価対象の7栄養素(オメガ3系長鎖多価不飽和脂肪酸、ビタミンAとビタミンB12、カルシウム、ヨウ素、鉄、亜鉛)の含有量が平均して多いことが判明した1

ブルーフードが環境に優しくなるとき

世界の温室効果ガス排出量の4分の1は、食料生産を発生源とする。ところが、アメリカン大学(米国ワシントンD.C.)のJessica Gephartらの研究グループ2は、養殖された水生生物性食料の一部は、野生の状態で収穫、捕獲した場合よりも温室効果ガス排出量が少ないことを明らかにした。例えば、養殖された二枚貝類(ハマグリやカキなど)とエビは、野生の状態で捕獲されたものよりも温室効果ガスの平均排出量が少なかった。

世界の10億人分の食料は、小規模な漁業や養殖業によって支えられている。こうした小規模な漁業や養殖業は、独立系企業や孤立した地域社会の1億人の雇用を支えており、世界の漁獲量の半分以上を占め、人々が口にする水生生物性食料の3分の2を生産している。

しかし、ストックホルム・レジリエンスセンター(ストックホルム)のRebecca Shortらの論文3で報告されているように、こうした地域社会は、科学と政策立案において直視されてこなかった。既にNature 2020年10月15日号の社説で指摘されているが、個人事業主や小規模な協同組合で働く人々が政府や政策過程に参画しない傾向があり、こうした人々に関する研究も十分に行われていない(2021年1月号「飢餓をなくすには科学研究の重点の置き方を変えねばならない」参照)。Shortらの論文には、ブルーフードが小規模に生産されている実態を示した世界各国の事例研究(70件)が紹介されている。そこには、自家消費漁業、ネットワーク(協同組合など)に参加している零細漁業などが含まれている。

沿岸域の地域社会は、それぞれの国で最も貧しく、気候変動やグローバル経済の変化に対して最も脆弱な地域に位置していることが多い。スタンフォード大学オーシャンソリューションズセンター(米国カリフォルニア州)のMichelle Tigchelaarらは、219の国と地域の気候ハザード、気候への曝露、気候に対する脆弱性に関するデータを統合し、最も大きな気候変動のリスクにさらされている水生生物性食料システムが、アフリカや南アジア、東南アジア、インド太平洋地域に存在していることを明らかにした4

沿岸域の地域社会にとってのさらなるリスクは、魚類の需要が急に高まっていることだ。21世紀初頭と比べて需要は倍増しており、スタンフォード大学のRosamond Naylorら5が報告しているように、需要は21世紀半ばまでにさらに2倍近く増加する。このことは、一部の人々の収入が増えるという利点がある。しかし、地元で取れる魚を食べたり買ったりしにくくなれば、その地域の人々のタンパク質消費量が減る可能性もある。

1996年に開催された世界食料サミットでは、約200カ国から集まった1万人近くの参加者が、飢餓をなくすことを誓い、2015年までに栄養不良の人々を半減させることを当面の目標とした。しかし、この目標は達成されなかった。それ以前の1974年にローマで開催された世界食糧会議では、人間が「飢えと栄養不良から解放される不可侵の権利」を有するという大胆な宣言が発表された。こうした言葉は、人々の心を揺さぶるものだったが、意味のある行動は取られなかった。

国連食料システムサミットに参加する各国代表は、歴史を繰り返さないために行動する貴重な機会を得たのだから、ブルーフードには飢餓に終止符を打ち、世界を持続可能な食料システムに移行させる上で役立つ可能性があることを認識しなければならない。

(翻訳:菊川要)

参考文献

  1. Golden, C. D. et al. Nature 598, 315–320 (2021).
  2. Gephart, J. A. et al. Nature 597, 360–365 (2021).
  3. Short, R. E. et al. Nature Food 2, 733–741 (2021).
  4. Tigchelaar, M. et al. Nature Food 2, 673–682 (2021).
  5. Naylor, R. L. et al. Nature Commun. 12, 5413 (2021).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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