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DARPAの模倣組織は成功するか

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2021.211010

原文:Nature (2021-07-08) | doi: 10.1038/d41586-021-01878-z | The rise of ‘ARPA-everything’ and what it means for science

Jeff Tollefson

米国の国防高等研究計画局(DARPA)をまねた科学研究政府組織が次々に作られつつあるが、うまくいくかは不透明だ。

2014年5月、グアム島の米軍基地を離陸して青森県の三沢飛行場に着陸しようとする無人航空機グローバルホーク。グローバルホークもDARPAの投資で開発された。航空自衛隊にも3機が配備される計画だ。 | 拡大する

US AIR FORCE PHOTO/ALAMY

米国国防総省の国防高等研究計画局(Defense Advanced Research Projects Agency;DARPA)は、1960年代末に現在のインターネットの原型となるコンピューターネットワーク「ARPANET」を開発したことで名高い。そのDARPAをまねた、ハイリスクだが影響力の大きい研究に助成を与える科学研究政府組織が、米国の他、英国、ドイツなどにも作られつつある。しかし、科学政策の専門家らは、そうした組織が確実に成功するとはいえないと指摘する。

米国国防総省は1958年、DARPAを設立した。ソビエト連邦が世界初の人工衛星スプートニク1号を打ち上げた1年後で、米国が技術開発における世界のリーダーであり続けることが目的だった。DARPAは、初期のコンピューター研究や、GPSや無人航空機などの技術開発に貢献してきた(2008年4月号「 DARPAの今日的意義を考える」参照)。

米国は、DARPAをまねた組織として、2002年に国土安全保障高等研究計画局(Homeland Security ARPA;HSARPA)を、2007年にエネルギー高等研究計画局(ARPA-Energy;ARPA-E)を設置した。

さらにジョー・バイデン米大統領は、地球温暖化と闘う技術開発を促進するため、気候高等研究計画局(ARPA-Climate;ARPA-C)の設置を大統領選挙の公約として掲げた。ARPA-Cの予算は5億ドル(約550億円)とされている。2021年4月には、医療分野の技術革新を加速するため、医療高等研究計画局(ARPA-Health;ARPA-H)の設置を表明し、2022年度予算に65億ドル(約7000億円)を要望した。2021年6月、ARPA-Hの新たな詳細が公表された1

英国は2020年、DARPAの英国版である「高等研究発明局」(ARIA)を設置して4年間で8億ポンド(約1200億円)の予算を充てる計画を発表した(2020年6月号「英国版DARPAの夢は現実に根差したものであるべき」参照)。ドイツは2019年、「破壊的イノベーション連邦機関」(SPRIN-D)を10年間で約10億ユーロ(約1300億円)の予算で立ち上げた。日本は2018年、DARPAを参考に5年間で1000億円の研究開発費を助成する「ムーンショット型研究開発制度」をスタートさせた(2015年8月号「軍の接近を懸念する日本の研究者たち」、2020年4月号「若手研究者支援について日欧で意見交換」参照)。

DARPAとその模倣組織の歩み
2000年代初めから、米国やその他の国も米国の国防高等研究計画局(DARPA)をま ねた科学研究政府組織を立ち上げ始めた。
1958年 米国はその後にDARPA になる組織を設立した。当初は、宇宙、ミサイル防衛、核兵器の検知が主な研究開発テーマだった。
1963年 DARPAは衛星測位システム「トランシット」を構成する衛星の打ち上げに成功した。トランシットは米海軍の艦船に正確な位置情報を提供し、その後のGPSの基礎を築いた。
1966年 DARPAは、離れたコンピューター同士を安全に接続する取り組みとしてARPANET計画を始めた。この計画は後にインターネットにつながった。
1988年 DARPAと米海軍の共同計画で最初の長距離無人航空機アンバーが開発された。アンバーは38時間以上、連続飛行できた。
2002年 米国議会は最初のDARPAクローン組織、国土安全保障ARPAの設置を決めた。
2007年 ジョージ・W・ブッシュ大統領は、低炭素技術の開発を目指すエネルギーARPA(ARPA-E)の創設を盛り込んだ米国競争力法に署名した。この2年後、バラク・オバマ大統領はARPA-Eを正式に発足させた。
2013年 DARPAは、モデルナ社(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)とファイザー社(米国ニューヨーク市)などの企業にメッセンジャーRNAワクチンの開発を支援する助成金を与え、COVID-19パンデミックで使われている予防接種ワクチンの基礎研究を後押しした。
2018年 日本はDARPAを参考に、5年間で1000億円の研究開発費を助成する「ムーンショット型研究開発制度」をスタートさせた。
2019年 ドイツは「破壊的イノベーション連邦機関」(SPRIN-D)を10年間で約10億ユーロ(約1300億円)の予算で立ち上げた。
2020年 英国はDARPAの英国版である「高等研究発明局」(ARIA)を設置して4年間で8億ポンド(約1200億円)の予算を充てる計画を発表した。
2021年 ジョー・バイデン米大統領は、医療ARPA(ARPA-H)と気候ARPA(ARPA-C)の創設を最初の予算要望に盛り込んだ。

DARPAのレシピ

研究者たちは、DARPAの実戦的でハイリスク・ハイリターンのやり方を再現して成功させることは簡単ではないと警告する。ケンブリッジ大学(英国)のケンブリッジ環境・エネルギー・天然資源管理センターでセンター長を努めるLaura Diaz Anadonは、「高等研究計画局(ARPA)モデルは成功し、私たちは多くを学びました。しかし、ARPAモデルは何にでも応用できる特効薬ではありません」と話す。

DARPAは、他の主要な米国の科学研究資金助成機関とは働きが異なり、予算額は年間35億ドル(約4000億円)と少ない。DARPAには学術界や産業界出身の約100人のプログラムマネジャーがいて、任期は3~5年だ。マネジャーは何に研究資金を出すかについて幅広い自由を持ち、各研究チームと積極的に関わり、野心的な締め切りを設け、研究の進捗を監視する。一方、米国の国立衛生研究所(NIH;メリーランド州ベセスダ)などが資金を出す研究プロジェクトの場合、プログラムマネジャーと、彼らが資金を出した研究者との関わりは、年1回の進捗報告書を除いて通常はほとんどない。DARPAを研究した、マサチューセッツ工科大学(米国同州ケンブリッジ)の政策研究者William Bonvillianは、「NIHなどが資金を提供した研究プロジェクトは、成功しそうなものである傾向があり、そうした研究は一般的に少しずつ進むものであることが多いのです」と話す。

DARPAモデル(ARPAモデルと同義)を研究した科学者たちは、DARPAモデルは、それが有効な課題にきちんと応用されるなら機能する、と話す。しかし、DARPAのレシピを再現することは簡単ではない。助成プログラムを作って運営するマネジャーに、研究チームを集めて、有望な分野ではあるがリスクのあるアイデアを追究する自由を持たせなければならない。そうしたアイデアは、産業界の従来の研究開発プログラムは通常無視してきたものだ。「ARPA-H、ARPA-C、ARIAが今後どのようにやっていくのかはまだ見えない」との批判がある。

またBonvillianは、「DARPAモデルは、プログラムマネジャーが失敗する余地を与えられていない場合は、うまく働きません」と指摘する。米国政府が、DARPAモデルをHSARPAという形で国防技術開発に応用したときの問題点がこの点だったと彼は話す。HSARPAは、結局は失敗に終わり、近年は事実上、機能していないという。「計画の初日にこの(失敗してもよいという)文化を正しく理解しないと、問題を抱えることになります」とBonvillianは話す。

研究者たちは、成功する高等研究計画局には、開発する技術を利用する「顧客」が必要だとも指摘する。DARPAの場合、米軍は多くの有望な発明を購入する用意があった。ARPA-Eは、バラク・オバマ元大統領の下で低炭素エネルギー技術を進めるために立ち上げられ、技術の顧客の課題に対処するため、助成金を受ける研究の商品化計画作成を当初から支援した。

ARPA-Eはうまく機能するために必要な独立性も備えていたと、研究者たちは話す。ARPA-Eは現在も存続していて、米国エネルギー省(DOE)の組織内にあり、1200件近い研究プロジェクトに28億ドル(約3100億円)を投資した。これらのプロジェクトは民間部門からも54億ドル(約5900億円)の投資を呼び込み、92社の企業の創設につながった。

新技術が商業的・社会的な影響をもたらすまでには数十年かかる場合があるため、ARPA-Eがエネルギー産業を変革するかどうかはまだ分からない。しかし科学者たちは、特許権の取得、成果の出版、ARPA-Eが資金を出した技術にベンチャーキャピタルを引き付けたことなどから評価して、成功の兆しがあると報告した2,3

ARPA-Eの有効性を分析したマサチューセッツ大学アマースト校(米国)のエネルギー研究者Anna Goldsteinは、「ARPAモデルが機能したかと言えば、答えはイエスです。少なくともARPA-Eの場合は機能しました。だからといって、このモデルが全ての問題を解決することは意味しません」と話す。

研究者たちは、新たな高等研究計画局を設置するというバイデン大統領の計画に不安を感じている。一部の科学者たちは、ARPA-Eを拡大するのではなく、新たにARPA-Cを作る必要性に疑問を呈した。エネルギー省長官Jennifer Granholmは、ARPA-EとARPA-Cの役割は重複しないと述べたが、研究者らは、この2組織の役割は似ていると指摘する。ARPA-Cは、計画によれば、小型のモジュール式原子炉や低エネルギー消費ビルなど、エネルギー問題と地球温暖化の現状を一変させるような解決策の育成を目指すという。しかし、こうした技術はARPA-Eの担当範囲でもある。

医療のDARPA

ARPA-Hに関しても多くの疑問がある。バイデン政権は、ARPA-HをNIHの組織内に設けるとしているが、それでは技術革新が実現できない可能性があるとの批判が出ている。

Science に発表された寄稿論説の中で1、NIH所長のFrancis Collinsや政府高官は、NIHが、市場を変えるかもしれない大胆な新技術を目指す研究にではなく、段階的に進む研究に資金を与える傾向があることを認めた。その上で彼らは、「ARPA-Hは、大きな潜在的影響力を持つ大胆な目標を評価する文化を持たなければならない」と述べた。

しかし、Bonvillianは、ARPA-Hが、生物医学研究の巨大組織であるNIHの中で機能するために必要な独立性や権威を備えることができるか、という点には懸念を抱いている。彼は、「NIHは、DARPAやARPA-Eなどでの技術開発において根本的に重要だった学際研究の価値を認める必要があります。もしも、NIHのように常に生物学ばかりが対象のARPAを作るなら、その有効性を極端に限定してしまうことになるでしょう」と話す。

太陽電池製造会社、1366テクノロジーズ社(現在のCubicPV社)の実証工場で、太陽電池パネルを見せる技術者。同社は、ARPA-Eから400万ドルの助成金を得て低コストの製造技術を開発した。2013年1月、米国マサチューセッツ州ベッドフォードで。 | 拡大する

Pat Greenhouse/The Boston Globe via Getty Images

ARPA-Hの使命の範囲が広過ぎると心配する人たちもいる。健康管理は巨大な分野だ。Goldsteinは、「蔓延している病気の新薬や新しい治療法には、民間から既に多くの投資があり、ARPA-Hは、貧困状態の人々を苦しめている『顧みられない病気』に取り組む方がいいかもしれません」と話す。そうした分野の研究には、他からの資金提供がほとんどないからだ。

Eric Tooneは、ARPA-Eの立ち上げを手伝った化学者で、現在はベンチャーキャピタル会社「ブレークスルー・エネルギー・ベンチャーズ」(米国ワシントン州カークランド)で働いている。Tooneは、「成功の秘訣は、プログラムマネジャーが自由に考え、自分の直感を頼りに行動できるように、研究活動の範囲を十分に広く設定すること、ただし、実現不可能なことをしようとしてしまうほどには広く設定しないことです」と話す。研究活動の範囲の問題は、英国のARIAが抱える懸念でもあり、ARIAの研究の範囲はまだ決まっていない、という。

Tooneは、新しい組織を小さく始め、時間と共に大きくすることも勧めている。「使えるお金が多過ぎると、人々の期待は変な方向にいってしまいがちです」と彼は話す。

(翻訳:新庄直樹)

参考文献

  1. Collins, F. S., Schwetz, T. A., Tabak, L. A. & Lander, E. S. Science https://doi.org/10.1126/science.abj8547 (2021).
  2. Goldstein, A. P. & Narayanamurti, V. Res. Policy 47, 1505–1512 (2018).
  3. Goldstein, A., Doblinger, C., Baker, E. & Díaz Anadón, L. Nature Energy 5, 803–810 (2020).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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