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我が州が誇る青カビ

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2021.211015a

米国イリノイ州がペニシリン産生菌を「州の公式微生物」に選定。

Penicillium属の菌類。 | 拡大する

ED RESCHKE/STONE/GETTY

米国の各州は昔から、花や鳥、哺乳動物など、その州を代表するシンボルを指定して、地元への愛着や誇りを高揚してきた。最近、イリノイ州議会が次の段階に踏み込んだ。ペニシリンを作り出す青カビであるPenicillium rubensを、州の微生物として採択したのだ。

ペニシリンとイリノイ州の縁

英国スコットランドの微生物学者Alexander Flemingは1928年に、Penicillium notatumという菌類がペニシリンを作り出すことを発見し、ペニシリンは世界で広く使われる初の有効な抗生物質となった。だが、この菌類はペニシリンを大量生産できなかった。第二次世界大戦が勃発してペニシリンの量産が急務となったため、英国オックスフォード大学の研究者たちはイリノイ州ピオリアにある米国農務省の北部地域研究所〔現在は国立農業利用研究センター(NCAUR)に改称〕に支援を求めた。同研究所の微生物学者Andrew Moyerがその課題に取り組んだ。

Moyerの同僚Mary Huntがピオリアの市場でカビの生えたメロンを見つけ、分析のため研究室に持ち帰ったと、農業利用研究センターの生化学者で今回の州による微生物指定を支援したNeil Priceは言う。当時の女性研究者の多くと同様、Huntがそのカビ(後にPenicillium rubensと判明)を見つけて調べた貢献も矮小化された。Moyerが1944年に発表したPenicillium rubensに関する論文でHuntは謝辞に記載されただけで、新聞各紙はHuntを「Moldy Mary(カビのメアリー)」と呼んだ(訳注:moldyには「取るに足らない」の意味もある)。

Penicillium rubensは新たな発酵プロセスに耐えることができ、それまで研究されていた菌株に比べて数百倍のペニシリンを短時間で作り出して、連合国の抗生物質生産を大幅に高めた。この菌株は現在もペニシリン製造に使われているとPriceは言う。「ピオリアの果物市場にあったカビの生えたメロンが医療分野に大変革をもたらし、数え切れない人々を救ったのです」と、州下院議員で下院に上程されたペニシリウム・ルーベンス法案の共同発起人となったStephanie Kifowitは言う。

超党派の全会一致で可決

PriceはPenicillium rubensを州の微生物に指定するアイデアを州上院議員のDavid Koehlerに話し、Koehlerが最終的に上院向けの法案を起草した。「州の鳥が定められているのですから、州の微生物があってもいいのではないかと思いました」とPriceは言う。イリノイ州はこの段階に進んだ3番目の州で、オレゴン州(出芽酵母Saccharomyces cerevisiaeを指定)とニュージャージー州(やはり抗生物質を作るStreptomyces griseusを指定)に次ぐ。

(翻訳協力:粟木瑞穂)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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