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カイロウドウケツを通る水の流れ

カイロウドウケツ(Euplectella aspergillum)は、「ビーナスの花籠(Venus’ flower basket)」の英語名を持つ深海の海綿動物で、複雑なガラス骨格を有することで知られる。この骨格構造は、優れた機械的支持特性を持つことから、高強度で軽量な橋梁や超高層ビルの設計に着想を与えてきた1。カイロウドウケツの体壁には無数の小孔があり、内部は空洞(胃腔)になっていて、海水が小孔から胃腔内に絶えず流入・流出することで、食物粒子の濾過やガスの交換が行われている。カイロウドウケツの骨格の機械的特性については研究が進んでいるのに対し、その周囲や内部における水の流れの詳細は、まだほとんど分かっていない。今回、ローマ・トルヴェルガータ大学(イタリア)のGiacomo Falcucciら2は、最先端の流体力学シミュレーションを用いてカイロウドウケツ内外の水の流れを調べ、その独特な骨格構造が、体全体にかかる流体力学的な力を軽減するとともに、摂餌や有性生殖に使われている可能性のある、内部の循環パターンを生み出していることを明らかにした。この成果は、Nature 2021年7月22号537ページで報告された。

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翻訳:藤野正美

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 10

DOI: 10.1038/ndigest.2021.211044

原文

Fluid flow through a deep-sea sponge could inspire engineering designs
  • Nature (2021-07-22) | DOI: 10.1038/d41586-021-01891-2
  • Laura A. Miller
  • Laura A. Millerは、アリゾナ大学(米国トゥーソン)に所属。

参考文献

  1. Fernandes, M. C., Aizenberg, J., Weaver, J. C. & Bertoldi, K. Nature Mater. 20, 237–241 (2021).
  2. Falcucci, G. et al. Nature 595, 537–541 (2021).
  3. Weaver, J. C. et al. J. Struct. Biol. 158, 93–106 (2007).
  4. Succi, S. The Lattice Boltzmann Equation: For Complex States of Flowing Matter (Oxford Univ. Press, 2018).
  5. Tritton, D. J. J. Fluid Mech. 6, 547–567 (1959).
  6. Yahel, G., Whitney, F., Reiswig, H. M., Eerkes-Medrano, D. I. & Leys, S. P. Limnol. Oceanogr. 52, 428–440 (2007).
  7. Monismith, S. G. Annu. Rev. Fluid Mech. 39, 37–55 (2007).
  8. Niklas, K. J. Bot. Rev. 51, 328 (1985).