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DNA組換えのDループの謎を解く

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210135

原文:Nature (2020-10-29) | doi: 10.1038/d41586-020-02831-2 | Demystifying the D-loop during DNA recombination

Upasana Roy & Eric C. Greene

相同組換えは、DNA分子間の遺伝情報の交換を可能にするDNA修復機構だ。RecAというタンパク質がその過程を取り仕切る様子が、構造解析で明らかにされた。

DNAの二本鎖が共に切断された場合、どんな塩基が欠失したのか分からないため、修復に工夫が必要になる。それを担うのが相同組換え機構だ。その初期段階の過程が、中間体の構造から明らかになった。 | 拡大する

Firstsignal/iStock/Getty

我々生物の染色体は、常に、ゲノムの完全性が損なわれかねないようなDNA損傷を与える、紫外線や化学物質などの連続砲火にさらされている1,2。相同組換えは進化的に保存されたDNA修復法で、DNA分子の鎖が2本とも切れるという、特に危険な種類の損傷を直すことができる3,4。相同組換えが必要不可欠であることは、BRCA1やBRCA2といった組換え機構で機能するタンパク質の欠損と関係する、がんや好発がん性の症候群からもよく分かる5。このほど、スローン・ケタリング記念がんセンター(米国ニューヨーク)のHaijuan Yangらは、Nature 2020年10月29日号801ページに論文6を発表し、RecAというタンパク質が細菌の相同組換え過程初期の重要な段階を進める機構を明らかにする構造データを報告した。

相同組換えに際し(図1a)、二本鎖の切断が起こった部位のDNAは酵素による処理を受け、3′末端が一本鎖になった突出末端が生じる(シナプス前一本鎖DNA)。すると、この一本鎖DNAは二本鎖DNA分子の同一部分(相同DNAと呼ばれる)に「侵入」して対応する相補鎖と対合し、二本鎖DNAの非相補鎖との置換が起こる3,4。この対合事象は鎖交換と呼ばれ、置換ループ(Dループ)と称するDNA構造を生じる。これは、DNA修復を誘導する事象に必要とされる重要な中間体構造だ。Yangらは、Dループ構造の詳細なデータを示し、相同組換えの機序に関する新たな知見をもたらした。

組換え中に起こるDNAの複雑な処理は、組換え酵素であるRecAファミリー酵素によるものだ。その過程で、RecAタンパク質は、修復が必要なシナプス前一本鎖DNA上に長いフィラメント(シナプス前フィラメント)を形成する。すると、RecAに結合したこの一本鎖DNAは二本鎖DNA分子に侵入し、二本鎖を開裂させる(シナプスフィラメントの形成)。そして、その開裂したDNAがRecAで覆われたDNAの配列と相補性があるかどうかが判定される。この作業は極めて迅速に行われる必要がある。なぜなら、正しく対応する二本鎖DNA配列が見つかるまで、場合によっては多くの配列を評価しなければならないためだ。

RecA酵素が形成するシナプス前フィラメントでは、この一本鎖DNAは通常よりも50%ほど長く伸ばされている7。しかし、DNAは一様に伸ばされているわけではない。RecAのいわゆる第一のDNA結合部位(primary DNA-binding site)内に結合したDNAはヌクレオチド塩基のトリプレットに編成され(RecA分子1個につきトリプレット1組)、それは通常の二本鎖DNAの寸法を維持している。一方、こうしたトリプレット同士の間のDNA骨格(糖とリン酸基の鎖)は、通常の状態よりも大きく引き伸ばされている7,8

DNA相補鎖は、RecAに覆われたシナプス前一本鎖DNAと対合すると、同じく引き伸ばされたコンホメーションを取り、主として一本鎖DNAとの塩基対合相互作用によって安定化する。この方法により、ヌクレオチドが正しく対合して相互作用する配列の組み合わせが見いだされる7。しかし、この過程は多くの点が不明だった。特に、RecAと結合した一本鎖DNAがまずどのように相同性のある二本鎖DNA分子と相互作用し、次にどうやってそれを開裂させてDループを形成するのか、構造についての知見が得られていなかったのだ。

Yangらは、高分解能の低温電子顕微鏡を用いて、Dループ中間体の構造を明らかにした。RecAは構造研究が難しいことで知られていた。それは、DNAと結合して形成されるフィラメントの長さが場合によって異なるためだ。この問題を打破するため、YangらはRecAタンパク質9個を融合させ、その「ミニフィラメント」の末端のアミノ酸残基を変異させて、RecA分子がそれ以上つながらないようにした。こうして明確に定義された短いRecAミニフィラメントを用いることにより、組換えの過程に関して知られていなかったいくつかの重要な情報が得られることになった。そして得られた知見から、RecAがDループを形成させるときに生じるタンパク質–DNA相互作用の流れが明らかになった。

構造データから、Dループの形成過程が開始されるに当たっては(図1b)、まず二本鎖DNAがRecAのカルボキシ末端ドメイン(CTD)と結合し、次にRecAと一本鎖DNAが結合したフィラメントの中心付近にある第一のDNA結合部位の方へ導かれることが示唆された。この部位で、二本鎖DNAは、ある小さなタンパク質ループの働きによって開裂する。開裂すると、置換されて外れた非相補鎖は、RecA–DNAフィラメントの表面上にある第二のDNA結合部位(secondary DNA-binding site)と呼ばれる領域に結合する。この部位の存在は既に知られていたが、タンパク質表面上の位置は完全には特定されていなかった。置換されない相補鎖DNAは、シナプス前一本鎖DNAと対合することができる位置に置かれる。

図1 DNAのDループの構造
a 切断されたDNAの修復は、同一の(相同な)二本鎖DNA分子を鋳型として用いることによって行われる。切断されたDNAは、3’末端が一本鎖になった突出末端ができるように加工される。3′突出末端は相同なDNAに侵入して相補鎖(淡青色)と対合し、非相補鎖(濃青色)と置き換わる。この鎖交換事象によって置換ループ(Dループ)構造が生じる。そしてDNA合成が行われ、DNAが修復される。
b Yangら6は、Dループ形成の初期の事象を表す構造データを示している。RecAタンパク質は3′末端が一本鎖になったDNAと結合し、一本鎖DNAとRecAのフィラメント(シナプス前フィラメント)を形成する。二本鎖DNAは、まずRecAのカルボキシ末端ドメイン(CTD)に結合する。そしてフィラメントの中心に向かってさらに内部へ導かれ、DNAの2本の鎖は開裂する。相補鎖はRecAの第一のDNA結合部位で一本鎖DNAと対合し(3組の対合ヌクレオチドがそこで保持される)、非相補鎖はRecAの第二のDNA結合部位に結合する(そこには非対合の5ヌクレオチドが結合する)。第一の部位のDNA配列が互いに対合できるものである場合、二本鎖DNAは開裂を続け、シナプス前DNAの3′から5′の向きと同じ方向に向かってDループが拡大する。 | 拡大する

その後に続く二本鎖DNAの開裂は、シナプス前一本鎖DNAの向きで3′から5′の方向に選択的に進む。しかし、新たに相互作用する鎖が対合するものでない場合、その先のそれぞれのRecAタンパク質で二本鎖DNAがさらに開裂する確率は大幅に低下する。相互作用する鎖が対合するものであるとき、Dループは拡大を続ける。この場合、その構造は、相補鎖とシナプス前一本鎖DNAとの塩基対合相互作用に加えて、置換されて外れた鎖が第二のDNA結合部位に結合することによってさらに安定化する。

Yangらはその過程に意外な特徴があることも発見した。それは、第一のDNA結合部位と第二のDNA結合部位でDNAの相互作用に非対称性があるということだ。第一の結合部位内では、伸ばされた一本鎖DNAの3ヌクレオチドが各RecAタンパク質に固定されるが、第二の結合部位では各RecAタンパク質は非相補鎖DNAの5ヌクレオチドと結合しているのだ。

この結合の非対称性の機能的目的は明らかにされていない。考えられる利点の1つは、一本鎖の相補的DNA内にいくらかの柔軟性を持たせることにより、その5塩基がほどけた場合に(3塩基だけの場合とは異なり)、ほどけた相補的一本鎖DNAの並びが、原理的に、異なる3通りのはまり方で第一の結合部位に収まることができる。つまり、修復が必要なシナプス前一本鎖DNAと複数の塩基対合相互作用を試せるということだ。これは、確実に第一のDNA結合部位で最適な塩基対合相互作用が迅速に形成されるために、役立っている可能性がある。また、結合の非対称性は、正しい配列の組み合わせが見つかったときに、十分な二本鎖DNAをさらに開裂させて、フィラメント内の次のRecAタンパク質が関係する塩基対合の確立を支援し、鎖の侵入の伝播を促進している可能性がある。今回の研究成果により、相同組換えの機序に関して、我々の知見は大きく広がる。

だが、Yangらの研究がもたらした目覚ましい知見をもってしても、多くの大事な問題が残されている。シナプス前一本鎖DNAに対応しない非相同的な配列は、どのようにすばやくチェックされ、はねつけられているのだろうか。非相同的な配列は相同的な配列よりも圧倒的に数が多く、対応しない配列の評価に時間を取られ過ぎると、相同組換えはうまくいかない可能性がある。安定的な対合相互作用が起こるためには、ヌクレオチド配列間にどれだけの相補性が必要なのだろうか。そして、配列が完全に対合しない場合はどうなるのだろうか。こうした相互作用の性質が正確に分かれば、ある配列がRecAを介した組換えを支持するのに十分相同であるのかどうかを決めている要因が明らかになるかもしれない。

真核生物(細胞内に核を有する生物)でRecAに相当するものは、Rad51として知られている。真核生物における組換えを理解するには、同じく組換えに関与する他の付属タンパク質が利用する構造や機序の解明が必要だろう。なぜなら、Rad51はそうしたタンパク質補因子に大きく依存しているためだ9,10。複雑な組換え中間体の高分解能構造を明らかにするツールとしてクライオ電子顕微鏡が現れたことで、相同組換えに関するこうした問題や、その他多数の興味深い謎に対処できる可能性が生まれている。

(翻訳:小林盛方)

Upasana Roy & Eric C. Greeneは、ともにコロンビア大学(米国ニューヨーク)に所属。

参考文献

  1. Hoeijmakers, J. H. J. Nature 411, 366–374 (2001).
  2. Hoeijmakers, J. H. J. N. Engl. J. Med. 361, 1475–1485 (2009).
  3. Mehta, A. & Haber, J. E. Cold Spring Harb. Perspect. Biol. 6, a016428 (2014).
  4. Kowalczykowski, S. C. Cold Spring Harb. Perspect. Biol. 7, a016410 (2015).
  5. Prakash, R., Zhang, Y., Feng, W. & Jasin, M. Cold Spring Harb. Perspect. Biol. 7, a016600 (2015).
  6. Yang, H., Zhou, C., Dhar, A. & Pavletich, N. P. Nature 586, 801–806 (2020).
  7. Chen, Z., Yang, H. & Pavletich, N. P. Nature 453, 489–494 (2008).
  8. Xu, J. et al. Nature Struct. Mol. Biol. 24, 40–46 (2017).
  9. San Filippo, J., Sung, P. & Klein, H. Annu. Rev. Biochem. 77, 229–257 (2008).
  10. Heyer, W.-D. Cold Spring Harb. Perspect. Biol. 7, a016501 (2015).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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