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科学を自由に語れない―雇用主からの圧力の実態

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210109

原文:Nature (2020-09-21) | doi: 10.1038/d41586-020-02669-8 | Censored: Australian scientists say suppression of environment research is getting worse

Dyani Lewis

オーストラリアの環境科学者たちは、さまざまな科学コミュニケーションにおいて制約を受けており、公の場で発言しにくくなっていることが、調査で明らかになった。

オーストラリアの絶滅危惧種、アカハラワカバインコ(Neophema chrysogaster)。 | 拡大する

Margot Kiesskalt/iStock/Getty

オーストラリアの環境科学者たちは、研究結果のコミュニケーションに際して、雇用主から内容の矮小化を求められたり、研究結果の公表自体をやめるよう圧力をかけられたりしており、そうした状況は悪化しているとの調査結果が、2020年9月にConservation Letters で報告された(D. A. Driscoll et al. Conserv. Lett. e12757; 2020)。オンラインで行われた今回の調査では、回答者の半数以上が、絶滅危惧種や都市開発、採鉱、森林伐採、気候変動などの問題を公の場で話すことへの制約が、近年ますます厳しくなっていると答えたという。

この結果は、オーストラリアにおいて環境政策に関する議論がいかに政治問題化されているかを反映している、と指摘するのは、オーストラリア国立大学(キャンベラ)の環境科学者Saul Cunninghamだ。「研究に基づく独立した声の重要性について、公的研究機関はもっと強く擁護すべきです」。

科学への干渉や研究内容の矮小化を強いる雇用主(特に政府機関)からの圧力を訴えているのは、オーストラリアの科学者だけではない。米国、カナダ、そしてブラジルの科学者たちも、過去10年間に同種の介入があったと報告している。

今回の調査は、オーストラリア生態学会(ESA)が企画し、2018年10月〜2019年2月に同国全土の生態学や保全学の広範な分野の科学者を対象として行われたもので、計220人が回答した。この中には、政府機関で働く研究者やその他の職員、大学に所属する研究者、環境コンサルティング会社や非政府組織などで働く産業界の科学者が含まれる(「沈黙を強いられる科学者たち」参照)。

沈黙を強いられる科学者たち
環境科学者の約4分の1は研究結果の内容を雇用主に変えられたことがあり、3分の1はその公表自体を禁じられた経験を持つ。 | 拡大する

SOURCE: D. A. DRISCOLL ET AL. CONSERV. LETT. 2020, E12757 (2020)

調査の結果、雇用主から課される制約が大きいのは、大学よりも政府機関や産業界であることが分かった。研究内容を公の場で話すことを禁じられたことのある研究者の割合は、政府機関では約半数に上り、産業界では38%、大学では9%だった。また回答者の4分の3は、何らかの自己検閲を行ったことがあると答えた。

雇用主や上司による研究結果の変更に関しては、政府機関職員の34%、産業界科学者の30%が経験していた。これらは特に、森林伐採や採鉱といったテーマで多く、環境への影響を矮小化したり、世間を欺いたりするように手が加えられたという。

政府機関でのこうした「不当な変更」は、メディア向けの研究発表や内部コミュニケーション用の研究結果報告で最も多かったが、学会発表や学術誌への投稿論文でも行われていることが示された。2013年にカナダで行われた4000人を超える政府機関科学者を対象とした調査でも、24%の回答者が、科学とは無関係な理由でメディア向けの情報が変更または削除されたと答えていた(go.nature.com/3o8eioi参照)。オーストラリアでは、公的な発言への制約が最も多かったテーマは、絶滅危惧種関連の問題に関するものだった。ある回答者は、「一般市民は多くの場合、生物種の実際の状況や傾向に関して全く見当もついていない」と答えている。

今回の研究を率いたディーキン大学メルボルン・バーウッド校(オーストラリア)の生態学者Don Driscollは、政府の部局間などで共有される情報を管理職が変更しているのが特に問題だと指摘する。これは、採鉱や開墾の環境への影響といった物議を醸すような問題において、「情報が政策決定者までまっすぐ届いていない」ことを示唆しているからだ。

大学では、研究結果のコミュニケーションで制約を課されたと訴えた科学者はさほど多くなかったが、だからといって大学の研究者も、そうした圧力と無関係でいられるわけではないとCunninghamは話す。「私の大学の多くの著名な研究者が、研究テーマが理由で脅迫を受けています」とCunningham。「当然、精神衛生上よくないですよね。論争を引き起こすような問題について公の場で話そうという気持ちまでも左右されかねません」。

回答者の半数弱は、正々堂々と意見を述べたことに対して、嫌がらせや批判を受けたことがあると答えた。こうした状況を受け、ESAは同学会のサイト内に、「科学の抑圧」の事案を匿名で報告できるページを用意した。

こうした一連の圧力の結果として懸念される影響は、既得権益者たちが公の議論を支配するようになって人々を欺きかねないこと、そして重要なデータが政策の情報源として使われなくなることだと、多くの科学者たちは考えている。

Driscollは、雇用主による干渉を減らし、透明性を高める方法の1つは、政策助言を行う独立した環境委員会を設置し、その資金を保証することだと語る。責任者である委員長には「選挙のたびに解雇されることのないよう」終身在職権の保証も必要だろうとDriscollは言う。これには理由がある。オーストラリアでは2013年、6年ぶりに政権を奪回した保守連合政府が、2011年に設置されたばかりの気候委員会を解体したからだ。一方、隣国ニュージーランドでは、1986年に「議会環境コミッショナー」という役職が設けられ(任期は5年)、政府の影響を受けることなく、環境問題の調査と議会への助言を行っている。

Driscollはまた、「政府機関では、科学コミュニケーションの在り方について方針を定めることも、そこで働く科学者たちの助けになるでしょう」と話す。カナダでは2018年、圧力や干渉のない科学コミュニケーションを保証すべく、科学的公正性に関する方針の規定が科学研究を行う全ての政府関連機関に義務付けられた。

「簡単な解決策はないでしょう」とCunninghamは言う。「ですが、科学者たちの意見が少しでも守られるよう、こうした制度や方針の変更を進めていくことは重要です」。

(翻訳:小林盛方)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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