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新型コロナウイルス研究注目の論文(12月)

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210114

原文:Nature (2020-05-22) | doi: 10.1038/d41586-020-00502-w | Coronavirus research updates

重症急性呼吸器症候群コロナウイルス2(SARS-CoV-2)とその感染症(COVID-19)に関する文献で重要なものをNature が精査し、まとめた(2020年12月)。11月分はこちら

12月21日

フランスのCOVID患者の90%が検出されなかった理由

フランスが最初のロックダウンを解除してからの数週間、全国でサーベイランスプログラムが実施されていたにもかかわらず、住民1人がCOVID-19と確認される毎に9人の割合で有症状者が見逃されていた。

フランスは2020年5月に最初のロックダウンを解除し、コロナウイルスの広がりを抑えるために、検査、濃厚接触者の追跡、患者の隔離を実施する戦略を採用した。その成果を評価するため、ピエール・ルイ疫学・公衆衛生研究所(パリ)のVittoria Colizzaらは、5月中旬〜6月下旬にかけての、フランス国内でのCOVID-19の伝播をモデル化した。その結果、フランスの検査作戦は、国内の感染者が減少していた時期に症状があったCOVID-19患者約9万人を見逃していたことが明らかになった(G. Pullano et al. Nature https://doi.org/fn9k; 2020)。

この知見は、検査陽性率が低くても捕捉率が高いとは限らないことを示している。また、COVID-19の症状があった多くの人が、病院を受診したり検査を受けようとしたりしなかったことも示唆している。

研究者らは、パンデミックとの戦いにおいてサーベイランスを有用なツールとするためには、各国は、感染が疑われる人々の検査をより積極的かつ効率よく実施する必要があると指摘する。

ロンドンでのCOVID-19患者の急増に歯止めをかけるための方策の一環として、レストランやパブが閉鎖された。 | 拡大する

Kate Green/Anadolu Agency/Getty

12月18日

自宅待機命令はCOVIDの抑制にはあまり効果はない

41カ国のCOVID-19のデータを分析した結果、ウイルスの伝播を大幅に減少させる感染防止対策が3つ明らかになった。1つ目は学校や大学の閉鎖、2つ目は集会の人数を10人までに制限すること、3つ目は営業の禁止である。しかし、これらの対策に自宅待機命令を追加しても、その効果はごくわずかだった。

SARS-CoV-2の広がりを抑制するための個々の対策の相対的な有効性を巡っては、いまだに疑問が残っている。最も有効な対策を特定するため、オックスフォード大学(英国)のJan Braunerらは、2020年1月22日〜5月30日、または最初の制限が解除されるまでの期間について、41カ国の新規感染者数をモデル化した(J. M. Brauner et al. Science https://doi.org/ghp2p7; 2020)。また、各国が一般的な7つの感染防止対策を実施した時期も調べた。

研究チームは2つのデータセットを組み合わせることで、学校や大学を閉鎖することがウイルスの広がりを抑制する上で「大きな効果」があることを明らかにした。ただ、ほとんどの国では学校や大学の閉鎖を続けざまに実施したため、それぞれの閉鎖の効果を解きほぐすことはできなかった。

学校を閉鎖し、営業を禁止し、集会を制限した国々では、自宅待機命令を追加してもウイルスの伝播をそれ以上減らす効果はほとんどなかったことも明らかになった。

12月16日

自分自身を攻撃する抗体は重症COVIDと関連している

免疫系が作る抗体は感染を撃退するのが普通だが、時折、自身の臓器や免疫系自体を攻撃する抗体を作ってしまうことがある。新たな研究は、一部の人々がSARS-CoV-2の感染に対して重篤な反応を示す理由が、こうした「自己抗体」によって説明できる可能性があることを示している。

エール大学医学系大学院(米国コネチカット州ニューヘイブン)の岩崎明子とAaron Ringらが194人のCOVID-19患者を調べたところ、最も重症の人々は自己抗体活性が高いことが分かった(E.Y. Wang et al. Preprint at medRxiv https://doi.org/fnkt; 2020)。一部の自己抗体は体内の免疫細胞を攻撃し、感染を撃退する能力を阻害していた。中枢神経系、心臓、肝臓、結合組織を攻撃する自己抗体もあった。

COVID-19患者と非感染者の識別に使用できるほど一般的な自己抗体はなかった。著者らは、自己抗体の多様性がCOVID-19に続くさまざまな病態を説明できる可能性があると言う。

SARS-CoV-2の粒子(紫;人工着色)が、ヒト細胞の表面を覆っている。 | 拡大する

NIAID-RML

12月14日

重症COVID患者に有効な併用療法

バリシチニブとレムデシビルの併用療法により、COVID-19入院患者の回復が1日早まることが明らかになった。

国立衛生研究所(NIH;米国メリーランド州ベセスダ)は、一部のCOVID-19患者の治療薬としてレムデシビルを推奨している。しかし、レムデシビルの有効性には疑問が残っており、世界保健機関(WHO)はその使用を推奨しないとするコメントを出している。

ネブラスカ大学医療センター(米国オマハ)のAndre Kalilらは、レムデシビルを取り入れた併用療法の効果を検証するため、中等症または重症のCOVID-19入院患者約500人にレムデシビルと抗炎症薬のバリシチニブを投与した(A. C. Kalil et al. N. Engl. J. Med. https://doi.org/ghpbd2; 2020)。対照群の約500人にはレムデシビルとプラセボを投与した。研究チームは、参加者が持続的な医療を受ける必要がなくなるまで回復するのにどのくらいの日数を要したかをモニターした。

回復までの日数の中央値は、レムデシビルとバリシチニブを両方投与された患者で7日であったのに対し、レムデシビルのみを投与された患者では8日であった。しかし、侵襲的換気が必要かどうかのぎりぎりの状態だった患者が回復するのに要した日数の中央値は、レムデシビルのみを投与された患者では18日だったのに対し、両方を投与された患者ではわずか10日であった。

12月11日

COVIDワクチンが不足しているときに最も多くの人命を救う方法

COVID-19ワクチンの供給量が限られている場合、最前線で働く医療従事者がおそらく最初に接種を受けることになるだろう。だが、次に接種を受けるべき人は誰だろう? モデルは、それが高齢者であることを示唆している。

コロラド大学ボールダー校(米国)のKate BubarとDaniel Larremoreらは、さまざまな年齢層を優先した場合のワクチン接種開始の効果をモデル化した(K. M. Bubar et al. Preprint at medRxiv https://doi.org/ghj6xw; 2020)。研究者らは、集団内におけるウイルスの伝播速度、ワクチン接種開始のペース、ワクチンがもたらす防御の有効性についても検討した。

研究チームは、ほとんどのシナリオにおいて、60歳以上の人々への接種を他の年齢層よりも先に実施することで、最も多くの人命を救えることを発見した。しかし、感染の拡大を最小限に抑えるためには、国は若い年齢層を優先すべきであることを、その分析結果は示している。

研究者らは、SARS-CoV-2に感染したことのない人々にワクチンを接種することで、被害の大きい地域での死亡者数や感染者数をさらに減らすことができるかもしれないと言う。これは、最近の感染歴を示すSARS-CoV-2に対する抗体を検査することで達成できる可能性がある。なお、この知見はまだ査読を受けていない。

12月8日

持続的な効果を示す新型コロナワクチン

あるCOVID-19ワクチン候補を投与された人々は、初回の接種から4カ月が経過した時点でも、SARS-CoV-2に対する強力な抗体を高レベルで保有していた。

バイオテクノロジー企業モデルナ(Moderna;米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)は、自社のワクチンのCOVID-19予防効果は94%以上であると報告した。この予防効果が持続するかどうかを評価するため、国立アレルギー・感染症研究所(米国メリーランド州ベセスダ)のAlicia Widgeらは、ワクチンを1カ月の間隔を空けて2回接種した研究ボランティア34人の血液を分析した(A. T. Widge et al. N. Engl. J. Med. https://doi.org/ghnhnv; 2020)。

分析の結果、SARS-CoV-2の主要なタンパク質に結合する抗体のレベルは、2回目の接種の1〜2週間後にピークに達し、それから2.5カ月の間、ごくわずかしか低下していなかった。初回の接種から4カ月後でも、血液中にはウイルスを無効化する「中和」抗体がまだ残っており、ワクチンに関連した重篤な副作用を経験した参加者は1人もいなかった。

この結果は、ワクチンが「持続的」な抗体反応を誘導できることを示していると、著者らは述べている。

12月7日

微量の抗体でもCOVID-19に対する防御になる

サルでの研究から、SARS-CoV-2に対する抗体は、濃度が低くても防御には十分である可能性が示唆された。同じ研究から、抗体レベルが低い場合には特に、T細胞と呼ばれる免疫細胞がウイルスに対する免疫に寄与していることも明らかになった。

特定の感染症に対し、免疫反応のどの側面が防御を担うことになるかを簡単に予測する方法はない。ハーバード大学医学系大学院(米国マサチューセッツ州ボストン)のDan Barouchらは、アカゲザル(Macaca multatta)を用いて、COVID-19に対する防御を担っている免疫要素がどれなのかを解明しようとした。

研究チームは、SARS-CoV-2感染から回復しつつあるアカゲザルから抗体を採取し、感染していないアカゲザルにその抗体を投与した(K. McMahan et al. Nature https://doi.org/fmjk; 2020)。抗体は、それを投与されたアカゲザルを感染から守り、抗体依存性ナチュラルキラー細胞の活性化など、多くの免疫反応を引き起こした。高用量の抗体を投与されたアカゲザルでは、低用量しか投与されなかったアカゲザルよりも大きな防御効果が得られた。

回復しつつあるアカゲザルのCD8+ T細胞の濃度を低下させると、再感染に対する免疫は低下した。このことは、CD8+ T細胞もコロナウイルスに対する免疫に寄与していることを示唆している。

12月4日

嗅覚検査でCOVID-19の症例数の増加を嗅ぎつけることができる

モデルによると、迅速かつ安価な嗅覚検査が、COVID-19のアウトブレイクを食い止めるのに役立つ可能性があるという。

これまでの研究で、SARS-CoV-2に感染した人の4分の3以上が嗅覚を部分的または完全に失っていることが報告されている。この統計は、ほとんど症状が出なかった感染者にも当てはまる。この特徴的な症状を見たコロラド大学ボルダー校のRoy Parkerらは、嗅覚障害の大規模な検査が感染症の流行を食い止めるのに役立つかどうかをモデル化することを思いついた(D. B. Larremore et al. preprint at medRxiv https://doi.org/fmbb; 2020)

研究チームのシミュレーションから、感染者の少なくとも50%が検知可能な嗅覚障害を経験すると仮定すると、嗅覚検査を3日に1回実施すれば、2万人の集団において感染の急増を防げることが示された。この検査が、飛行機旅行のような集団イベントの事前サーベイランスにも有効であることも、モデルによって示された。

なお、論文著者のDaniel Larremoreは、検査会社Darwin Biosciencesの顧問を務めていることを開示している。また、論文著者のDerek Toomreは、嗅覚検査会社u-Smell-itの設立者であることを開示している。今回の知見はまだ査読を受けていない。

12月3日

SARS-CoV-2を抗体から逃れさせる変異

SARS-CoV-2の変異の中から、COVID-19治療薬として製造されたいくつかの抗体による認識から逃れることを可能にするものが突き止められた。

モノクローナル抗体と呼ばれるデザイナー治療薬は、自然に存在する免疫分子をモデルにしている。フレッド・ハッチンソンがん研究センター(米国ワシントン州シアトル)のJesse Bloomらは、SARS-CoV02の変異のうち3種類のモノクローナル抗体による結合を阻止できる可能性のあるものを全てマッピングした。3種類のモノクローナル抗体の1つはイーライリリー社(米国インディアナ州インディアナポリス)が製造するもので、残りの2つはリジェネロン社(米国ニューヨーク州タリータウン)が製造する「カクテル」に含まれるものである(T. N. Starr et al. Preprint at bioRxiv https://doi.org/fk6h; 2020)

これらの変異は、ウイルスが細胞に結合して侵入するのに使用する受容体結合ドメインと呼ばれるタンパク質セグメントに影響を及ぼす。研究者らは、ウイルスがリジェネロン社の抗体カクテルによる認識を逃れられるようになる変異を1つと、この3種類のモノクローナル抗体のいずれか1つから逃れるのに役立つ他の変異をいくつか発見した。

これらの変異のうち、感染者の間で広がっているものはほとんどない。しかし、1つは欧州で多く見られる。もう1つはオランダとデンマークで検出されていて、ミンク農場のミンクや作業員から採取したSARS-CoV-2の試料の中から検出されている。なお、この知見はまだ査読を受けていない。

12月2日

高感度のCOVID-19検査で偽陰性が出る理由

COVID-19の診断に用いられる標準的な手法は、鼻や咽頭の拭い液中に含まれるコロナウイルスの遺伝物質を検出するPCR検査である。このほど、1万5000人以上を対象とする研究により、PCR検査で偽陰性となる可能性が最も高い人々が特定された。

マサチューセッツ総合病院(米国ボストン)のCaitlin Dugdaleらは、COVID-19の症状を示す人と、その他の理由からSARS-CoV-2に感染していると思われる人約1万5000人のPCR検査の結果を調べた(C. M. Dugdale et al. Open Forum Infect. Dis. https://doi.org/fkw4; 2020)。そのうち2700人近くが陰性で、2週間以内に2回目のPCR検査を受けた。

2回目のPCR検査を受けた人のうち、60人(2.2%)が陽性と判定された。そのうちの60%は発症前24時間以内か発症から7日以上たった後に初回の検査を受けていた。このことは、感染経過の初期または後期にPCR検査を受けた人が最も偽陰性となりやすいことを示唆している。

研究者らは、COVID-19の症状があるにもかかわらずPCR検査で陰性になった人、特にウイルスが蔓延している地域の人は、再検査を受けるべきであるとしている。

12月1日

SARS-CoV-2感染を避けるためには、身近で大切な人に用心を

中国湖南省でのSARS-CoV-2感染に関する広範に及ぶ研究から、コロナウイルスを拡散させる可能性が最も高いのは、1つの世帯を構成する世帯員間の接触であることが明らかになった。

国立衛生研究所(米国メリーランド州ベセスダ)のKaiyuan Sun、復旦大学(中国上海)のHongjie Yuらは、湖南省でSARS-CoV-2に感染した1178人と感染者の濃厚接触者1万5000人以上のデータを分析した(K. Sun et al. Science https://doi.org/fkwm; 2020)。

研究チームは、同居している人との接触が最も感染リスクが高く、拡大家族との接触がそれに続くことを明らかにした。社会的な接触やコミュニティーでの接触(公共交通機関での接触など)による感染リスクはさらに低かった。接触が1日増えるごとに感染リスクは10%上昇することが分かった。

この分析は、湖南省のロックダウンにより、家庭内で家族が一緒に過ごす時間が通常よりも長くなった世帯でウイルス感染リスクが高まってしまったことを示唆している。一方、社会的およびコミュニティー内での感染は、ロックダウン期間中に減少した。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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