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「つぶれない甲虫」の超自然的な強靭さの秘密

Nature ダイジェスト Vol. 18 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2021.210106

原文:Nature (2020-10-21) | doi: 10.1038/d41586-020-02976-0 | This beetle’s stab-proof exoskeleton makes it almost indestructible

Davide Castelvecchi

この甲虫が車にひかれても平気なのは、外骨格のつなぎ目がジグソーパズルのようにしっかりかみ合っていて、加圧時には微細な積層構造が剥がれてうまく力を逃すからだという。

「悪魔の鋼鉄武装甲虫」と呼ばれる、コブゴミムシダマシの一種Phloeodes diabolicus。 | 拡大する

Heather Broccard-Bell/iStock/Getty

北米西部に生息するコブゴミムシダマシ科の甲虫Phloeodes diabolicusは、一般には「悪魔の鋼鉄武装甲虫(diabolical ironclad beetle)」と呼ばれている。仰々しい名前だが、決して伊達ではない。この甲虫は、強い圧縮や鈍的な衝撃に耐え得る超自然的な能力を備えているのだ。今回、複数の先端技術を用いて詳細な解析が行われ、その並外れた能力が外骨格の接合部の特殊な構造に由来することが明らかになり、Nature 2020年10月22日号543ページで報告された1。この成果は、耐久性に優れた構造の設計に役立つと期待される。

P. diabolicusの強靭さは甲虫類の中でも群を抜くとされ、車にひかれてもつぶれない昆虫として知られる。自然史博物館(英国ロンドン)で上級学芸員を務める昆虫学者Max Barclayによれば、体長約2.5cmのこの甲虫は、標本にする際に昆虫針がなかなか刺さらず曲がってしまい、収集家泣かせとして悪名高いという。一般的な甲虫の寿命が数週から数カ月であるのに対し、P. diabolicusの寿命は約2年と長いことから、「防御への極端な投資もうなずけます」とBarclayは言う。

甲虫の多くは1対の後翅を使って飛行し、これらの後翅は「鞘翅」と呼ばれる硬化した1対の前翅に保護されている。しかし、P. diabolicusに飛行能力はなく、左右の鞘翅は乾燥環境への適応として互いに接したまま固定されている。「水分を保持するための戦略として進化したのです」とBarclay。

P. diabolicusの強靭さの秘密を解き明かすため、カリフォルニア大学アーバイン校(米国)の材料科学者David Kisailusを中心とする研究チームは、走査型電子顕微鏡や、シンクロトロン放射光を用いる高分解能のマイクロコンピューター断層撮影(マイクロCT)など、数々の先端技術を用いてこの甲虫の外骨格を調べた。Kisailusの研究室に所属するJesus Riveraは、圧縮中に外骨格の様子を観察できるよう、スキャナー内部に独自の装置を作製したという。

一連の測定と観察の結果、P. diabolicusが自重の3万9000倍もの荷重に耐え得ること(近縁種の耐荷重の2倍以上)、その外骨格が微細な積層構造からなること、そして左右の鞘翅の接合部がジグソーパズルのピースさながらに複数の凹凸で互いにしっかりかみ合っていることが分かった。さらに、鞘翅の接合部は加圧によって破壊点に近づくと、凸部分がもぎ取られるのではなく、この部分の微細な積層構造がタマネギのように剥がれることも示された。「パズルのピースを力ずくで引き離したら、普通はくびれた所でちぎれると思いますよね。でも違ったのです」とKisailusは言う。この剥離機構によって応力が分散されることで、鞘翅は崩壊を免れ、構造的な完全性を保っていたのだ。

研究チームは次いで、3Dプリンターで類似の積層構造を有する凹凸接合を作製し、機械的試験を行った。すると、この生体模倣接合の強度と靭性は、工学分野で一般的に使われているタイプの接合よりも優れていることが明らかになった。Kisailusは、こうした甲虫に着想を得た構造設計は、例えば航空宇宙工学で用いられる金属系材料と炭素系材料のように、特性の異なる材料を接合する際に特に有用になるだろうと語る。

(翻訳:小林盛方)

参考文献

  1. Rivera, J. et al. Nature 586, 543–548 (2020).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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