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ORCID日本コンソーシアム発足

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2020.200930

藤川良子(サイエンスライター)

研究者を識別するシステムORCID。登録するとID番号を与えられ、自分の所属、学位、助成金、特許、論文など、世界に向けて公開・発信したい情報を書き込むこともできる。ORCIDは、国や組織、研究分野を問わない共通のプラットフォームとして、効率的で信頼性の高い研究者情報の流通に貢献している。

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imaginima/iStock/Getty

国際誌に論文を投稿したことがある人であれば、ORCIDを知らない人は少ないだろう。投稿時にORCIDの登録番号(ID)の入力が求められるからだ。ORCIDのID番号は、今や研究者の個人識別番号の、世界標準となりつつある。

ORCIDはOpen Researcher and Contributor IDの頭文字を取ったもので、オーキッドと発音される。国籍や所属を問わず登録が可能で、無料である。登録するとID番号が与えられ、その番号は変わることなく永続的に利用可能だ。また、ORCIDのコンピューターシステム中に登録者のページが作成されるので、所属先や発表論文などの情報を書き込むことができる。

2012年にスタートしたORCIDの登録者数は、2020年8月現在、世界で920万人に達し、日本でも約15万人に上っている。研究者の国際的流動性が高まっている現代においては、このようなIDシステムの存在意義は大きく、重要度も高い。同姓同名の人物は決して少なくはなく、海外にいる研究者を名前だけで特定するのが簡単ではないことは、想像に難くないだろう。結婚などで姓を変更した場合でも、ORCIDの番号は継続して使用されるので、人物の特定が可能である。

ORCIDの管理運営を担うのは、米国を本拠地とする同名の非営利団体だ。その組織本体は、必要最低限の規模でスタッフも少ない。そこで現在は、各国(地域)にコンソーシアムと呼ばれる組織が設立され、ORCIDの運営をサポートする仕組みがとられるようになっている。日本のコンソーシアムの中心となっているのは、東京工業大学 情報活用IR室の森雅生教授。「ORCIDを順調に機能させるために、やるべきことがたくさんあります」と森教授は語る。

コストは大学などの機関が負担

ORCIDの管理運営には、当然ながらコストがかかる。このコストを誰が負担するのか。ORCIDでは、研究者が所属する大学や研究所などの機関が負担するという方法を採用している。「企業が商業的サービスとしてIDの管理運営をやるのでは、うまくいかないでしょう。だからといって、個々の研究者にコストを負担させるのも難しい。資金に乏しい研究者もいるからです」と森教授。そこで、ORCIDが出した結論は、研究者が所属する研究機関が負担するという仕組みだ。さらに学術出版社や助成機関も加え、それらの機関にORCIDの会員となってもらい、会費をコストの負担に充て、ORCIDの活動を支えてもらう。その会員を募ったり、会費を集めたりといった活動は、各国(地域)のコンソーシアムが担当するのである。

ORCIDの運営の仕組みが日本では理解されにくい?

大学ICT推進協議会がリード機関となり、ORCID日本コンソーシアムは2020年1月に立ち上げられ、現在、大学や研究所など17の機関が会員となっている[他に、日本コンソーシアム立ち上げ以前からの参加機関で、コンソーシアムには参加せずに個別参加をしている企業や政府系組織などがいくつか存在する。Springer Nature(旧Nature Publishing GroupおよびSpringer)も設立パートナー企業として2010年より活動]。

コンソーシアムに参加する機関の数が多くなれば、個々の機関が払う会費は割り引かれるようになる(コンソーシアムが、ORCID本体の事務負担軽減に寄与するので)。「そういうこともあり、機関の参加を増やすことがコンソーシアムの課題となっている」とのこと。

だが、「大学の理解を得るのは簡単ではない」とも森教授は語る。特に、ORCIDの運営の仕組みが理解されにくく、ORCIDが単なる商業的なプロバイダーの1つであるなどと勘違いされてしまうため、参加の意義が伝わりにくいようだという。「ORCIDは国際的な研究活動を促進するための非営利のサービスであり、参加することは、国際的に活躍する大学の証でもあるのに」と森教授は嘆く。世界的に見れば、世界大学ランキングのトップ50大学の8割はすでにORCIDに参加しているという。

記載された情報が信用できることを保証するシステム

ORCIDの各研究者のページには、所属機関、取得学位などのプロフィール、発表論文や査読業績をはじめとする研究成果情報などを掲載して公開できるので、研究者は情報の発信メディアとしても利用可能だ。もちろん、公開したくない情報を掲載する必要はない。なお、情報の掲載においては、日本語を含め、多言語に対応している(記載した言語のまま表示される)。

だが、本人により記載された情報は、厳しい見方をすれば、信用できるものばかりではない。その点ORCIDには、この問題を解消するための優れたシステムが備わっている。情報の「ソース」の開示により、掲載情報の信頼性が確認できるのだ。例えば、論文情報に「Crossref」と情報ソースが表示されていれば、著者のORCIDに自動的に紐付けされた情報だと分かる(Crossrefは国際的に流通する多くの学術誌に対して、論文識別子DOIを付与する非営利組織)。また、学位情報の情報ソースとして大学名が表示されていれば、その大学が情報源であると分かる。このような記載情報のアップデートを自動的に行えるコンピューターのAPIシステム(アプリケーションプログラミングインターフェース。ソフトウエア同士がデータを直接やりとりする仕組み)が、ORCIDにより提供されている。APIを利用すれば、大学や出版社はデータを手入力する必要がなく、自動的に送信できる。ただし、APIを使用するためには、その機関がORCIDの会員になる必要がある。つまり、情報の信頼性を担保するシステムがあっても、ORCIDに参加する機関が少ないと、その機能を十分には発揮できないのだ。「そういう意味からも、私たちのコンソーシアムに参加する機関を増やすことは、重要なミッションなのです」と森教授。

ORCIDは誰のためにあるのか

研究者にとって、ORCIDのメリットは上述の通り明らかだ。同様に、大学などの機関にとっても、そのメリットは極めて大きいはずである。

例えば、大学などが研究者の採用に当たって、採用候補者がどこで学位取得したかを確かめようとした場合、学位を取得したとする大学に連絡を取って確認するのが1つの方法であるが、それをORCIDで確認できるようになれば、格段に便利になるだろう。

また、大学は、教員の評価という手間の掛かる作業を常に行わなければならないが、このような場合にも、ORCIDは役に立つ。研究成果に関し、ORCID経由で情報を取り込むことができるのである。卒業生のキャリアの把握といった場合も、さらに、研究者の所属に異動があったとしても、ORCIDから情報をまとめて得ることが可能なのだ。

もちろん、研究者側からすると、ORCIDを履歴書代わりに利用することが可能だろう。応募や採用時に、自分に関する情報はORCID参照と伝えれば済むという国もすでにあるという。

日本にも求められる貢献

ORCIDは研究者の個人情報を扱うわけだから、そのための適切な保護や管理は必須である。森教授は、今後のビジョンについて、次のように言葉を続けた。「日本は科学技術立国なのだから、ORCIDのような取り組みに貢献するのは当然のこと。積極的に参加すべきです」。ORCIDの参加機関(会員)は運営会議での投票権を持つことから、日本の会員の増加は、ORCIDにおける日本の発言権の増大につながるので、やはりその意味でも、「参加機関を増やすことが重要」なのだそうだ。

日本がORCIDの活動に大きく貢献し、適切に研究者IDの管理や利用を進めるという考えは、森教授がORCIDの活動に携わるようになった2016年ごろから常に抱いてきたものだ。「ORCIDのディレクターだった宮入暢子氏から、私が受け継いだ使命でもあります」と森教授。学術情報コンサルタントの宮入氏は、ORCIDがサービスを開始した2012年にボランティアとしてアウトリーチ委員会に加わり、2015年からは正式にアジア・太平洋地区担当のディレクターに着任。アジアにおけるORCIDの普及活動を牽引してきた。2018年に退任するに当たり、ORCIDに対する日本の研究コミュニティーの理解が進み、積極的な関与が重要であるとの思いを、森教授に託したという。

もともと森教授自身は情報科学の基礎研究者としてキャリアを積んでいたが、やがて情報のマネジメントに、より重点を置いて活動するようになった。今は、ORCIDの仕事をはじめ、研究情報の流通に関する活動を主として行っている。コンソーシアムの仕事は、研究情報の蓄積と流通をベースにした研究コミュニティー作りの一環であると考え、興味関心を持って取り組んでいるとのこと。「コミュニティー作りは、研究者がその研究テーマや研究成果を、世界に問うていく土台作りでもあり、重要な作業と捉えている」と森教授。特に、COVID-19により人的交流が制限される現在、ORCIDを通じて研究情報の流通が促進されれば、世界に活躍の場を広げたいと考える若い研究者にとっても、大いに助けとなることだろう。

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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