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太陽のCNOサイクルからのニュートリノを初検出

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2020.200909

原文:Nature (2020-06-24) | doi: 10.1038/d41586-020-01908-2 | Neutrinos reveal final secret of Sun’s nuclear fusion

Davide Castelvecchi

太陽のエネルギー源である核融合過程についての長年の理論的予測が、この過程から発生したニュートリノの検出で確かめられた。

3機の観測衛星により、X線と極紫外線で撮影された太陽(合成画像)。2015年4月撮影。 | 拡大する

NASA/JPL-Caltech/GSFC/JAXA

太陽のエネルギー源である核融合過程は、主に2つあると考えられている。イタリアの地下観測所で観測を行っている研究グループはこのほど、その1つであり、太陽ではわずかしか起こっていない過程から発生するニュートリノを初めて検出し、この過程が実際に起こっていることを示した。この過程は、大質量星では主要な核融合過程になると考えられている。

太陽にエネルギーをもたらしている核融合過程の1つは、2個の陽子の融合から始まってヘリウムを合成する過程で、陽子・陽子連鎖反応(ppチェイン)と呼ばれる。この反応で発生する核融合エネルギーは、太陽で発生する核融合エネルギーの大半を占め、伴うニュートリノはすでに検出されている。

一方、炭素、窒素、酸素の原子核が触媒として働く核融合過程もあることが1930年代に予測されていた。この過程はCNOサイクルと呼ばれ、4個の陽子が融合して1個のヘリウム原子核と2個のニュートリノ(質量を持つ既知の素粒子で最も軽い粒子)、2個の陽電子が生まれる。

CNOサイクルで生み出されるエネルギーは、太陽で発生する核融合エネルギーの約1%にすぎない。しかし、この反応は、質量の大きな星では最も有力なエネルギー源だと考えられている。今回、太陽のCNOサイクルで生じたニュートリノが初めて検出された。

この観測結果は、イタリア中部の地下で行われているBorexino実験の研究グループが2020年6月23日、オンラインで開かれた会議「ニュートリノ2020」で報告した。論文はプレプリントサーバーに投稿されたが(arXiv:2006.15115)、論文誌などによる査読はまだ済んでいない。

オハイオ州立大学(米国コロンバス)の天体物理学者Marc Pinsonneaultは「これは、恒星構造理論の基礎的予言の1つを実際に確認した、見事な成果です」と話す。

Borexino実験は、陽子・陽子連鎖反応で生じるニュートリノについても、4つの段階で出るニュートリノをそれぞれ観測している1-3。Borexino実験の共同スポークスパーソンで、今回の結果を発表したミラノ大学(イタリア)の物理学者Gioacchino Ranucciは、「今回の結果と合わせ、Borexino実験は、太陽にエネルギーをもたらす2つの反応過程を完全に解明しました」と話す。

今回の観測は、1年以内に終了する可能性のあるBorexino実験にとって最後の成果になる見通しだ。同実験のもう1人の共同スポークスパーソン、ジェノバ大学(イタリア)の物理学者Marco Pallaviciniは「私たちは大成功と共に実験を終えたのです」と話す。

バルーン検出器

Borexino実験は、イタリアのラクイラに近いグランサッソ国立研究所で2007年から行われてきた。ニュートリノ検出器は、1km以上の厚さの岩石で覆われた地下ホールの1つにある。検出器は、280tの液体の炭化水素を満たした巨大なナイロン製バルーン(シンチレーション検出器、半径4.25m)で、それが水を満たしたタンクの中にある。太陽からやって来るニュートリノはほぼ全てが地球とBorexino検出器を通過するが、ごくまれに炭化水素の中の電子と衝突する。電子がはね飛ばされて光が生じ、検出器の内側の光センサーがその光を検出する。

グランサッソ国立研究所内部の一角。2018年5月撮影。 | 拡大する

Corbis/Corbis via Getty Images

CNOサイクルは、太陽で起こっている核融合の小さな割合を占めるだけなので、CNOサイクルからのニュートリノは少ない。また、CNOサイクルからのニュートリノの衝突は、ビスマス210という同位体の放射性崩壊と区別が難しい。

ビスマスによる雑音に対処する作業は、2014年に始まり、長い期間を要した。検出器内でのビスマス210の放射性崩壊の頻度は、その娘核種の崩壊の観測で把握できる。しかし、娘核種は炭化水素の容器の内壁からも出てくる。研究チームは、容器から漏れ出た物質が検出器の中心部に拡散する速度を遅くし、CNOサイクルからのニュートリノのシグナルを検出器の中心部で観測した。

タンク内の温度不均衡は対流を生み出し、検出器の中身の混合を速める。タンクの温度を制御するため、研究者たちはタンク全体を断熱材で包み、温度を能動的に調節するシステムを導入した。Pallaviciniは「液体をほぼ静止させ、液体の運動の速度を大きくても1カ月に数mmまでにしなければなりませんでした」と話す。

そして彼らは待った。娘核種の半減期は約140日だ。やがて検出器中心部での娘核種の崩壊が十分に減り、それに応じてビスマス崩壊の上限値が分かった。2020年初めまでに十分な数のイベントが観測され、研究チームは、CNOサイクルからのニュートリノの衝突がそれに含まれていない確率は極めて小さいと結論した。

宇宙科学研究所(スペイン・バルセロナ)の天体物理学者Aldo Serenelliは「これは、CNOサイクルによる水素の燃焼が星の中で実際に起こっているという、初めての真に直接的な証拠です。だから、これは本当に見事な成果です」と話す。

太陽の金属量

CNOサイクルからのニュートリノの検出は、太陽の中心核の構成も解明する可能性がある。特に、水素とヘリウムよりも重い元素(天文学者は金属と呼ぶ)の割合(金属量)が分かる可能性がある。

太陽の金属量は、分光観測を基に求められていた。近年、分光に基づく新たな包括的分析の結果、太陽の金属量は以前の決定値よりもかなり低いと見られることが報告された。しかし、新たな決定値を太陽の標準的理論モデルに適用すると太陽の諸性質と矛盾が生じ、太陽の新たな謎になっている。

金属量は、中心核で発生したエネルギーがどれだけ速く太陽の外層へ運ばれるかに影響するので、中心核の温度にも影響する。一方、中心核でのニュートリノ生成は温度に非常に敏感であり、Borexino実験がこれまでに観測したニュートリノ量は、近年報告された低い金属量ではなく、以前の高い金属量と一致するようだと、Serenelliは話す。

Serenelliらは、太陽内部の金属量はほぼ一様と仮定されることが多かったが、中心核の金属量は外側の層よりも高いのではないかと提案した。太陽系の形成時、生まれて間もない太陽に降着しつつあった金属の一部が、惑星の形成によって持ち去られたと考えられている。太陽の組成の解明は、太陽の一生の初期段階の解明につながる可能性がある。

(翻訳:新庄直樹)

参考文献

  1. Bellini, G. et al. Phys. Rev. Lett. 107, 141302 (2011).
  2. Bellini, G. et al. Phys. Rev. Lett. 108, 051302 (2012).
  3. Bellini, G. et al. Nature 512, 383–386 (2014).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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