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新型コロナウイルス研究注目の論文(8月)

8月28日

ウイルス検査は、サマーキャンプでのアウトブレイク防止に有効

6月中旬〜8月中旬にかけて、数百人の子どもたちが参加する4つのサマーキャンプが米国メイン州で実施されたが、SARS-CoV-2の厳格な検査と感染対策の徹底により、アウトブレイクを防ぐことができた。

メイン州医療センター(ポートランド)のLaura Blaisdellらの報告によると、4つのサマーキャンプは、キャンプに参加する子どもとスタッフの両方に対して、キャンプ場に来る前にSARS-CoV-2の検査を済ませるように要請していた(L. L. Blaisdell et al. Morb. Mortal. Wkly Rep. https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/69/wr/mm6935e1.htm?s_cid=mm6935e1_w; 2020)。さらに、キャンプ場に到着後すぐに全員に対して再び検査を行った。そして、全員を小さなコホートに分け、キャンプの最初の14日間はコホートのメンバーと共に隔離して過ごさせた。

4つのキャンプに参加した1000人以上のうち、スタッフ2人と子ども1人がキャンプ場での検査で陽性となり、陰性になるまで隔離された。この子どものコホートの30人は隔離されたが、隔離期間中、全員が陰性だった。著者らは、ウイルスは最初に感染が明らかになった3人以外には広がらなかったと述べている。

ロンドンの小学校で体温をチェックされる児童。 Credit: Justin Setterfield/Getty

8月27日

小学生の感染が発見されにくい理由

21歳未満の約400人の感染者を対象にした研究によると、6〜13歳の子どもは、それ以下およびそれ以上の年齢の感染者に比べてCOVID-19の症状が出にくいという。

デューク大学医学系大学院(米国ノースカロライナ州ダラム)のMatthew Kellyらは、SARS-CoV-2感染者の濃厚接触者である382人の子どもと青年を対象に研究を行った(J. H. Hurst et al., Preprint at medRxiv http://doi.org/d7cb; 2020)。研究参加者の約4分の3が研究前または研究期間中にSARS-CoV-2検査で陽性となった。 研究に参加した6歳未満の感染者の75%、13歳以上の感染者の76%が症状を呈したのに対し、6~13歳の感染者で症状を示した者は61%にとどまった。また、症状が見られた6~13歳の子どもたちは、それ以下およびそれ以上の年齢の研究参加者に比べて症状が軽い傾向があった。

兄弟姉妹も感染していた子どものうち3分の1近くが大人の感染者との濃厚接触がなく、ウイルスが子どもから子どもへと広がることを示唆している。 著者らは、学校や保育園でのスクリーニングシステムは年齢による症状の差異を考慮する必要があると述べている。この論文はまだ査読を受けていない。

8月26日

新型コロナウイルスに対する免疫反応の性差が、男性のリスクを高めている可能性

男性が女性よりもCOVID-19で入院および死亡する可能性が高い理由は、SARS-CoV-2に対する免疫反応の性差によって説明できるかもしれない。 エール大学医学系大学院(米国コネチカット州ニューヘイブン)の岩崎明子らは、SARS-CoV-2に感染した98人の男女の免疫反応を調べた。研究参加者の全員が軽度から中等度の症状を呈していた(T. Takahashi et al. Nature http://doi.org/d7gb; 2020)。研究者らは、男性患者の感染に対する典型的な免疫反応が女性患者のそれとは異なることに気付いた。男性の方が重症化することが多い理由は、これによって説明できる可能性がある。(Nature は、性別もジェンダーも2つのみではないこと、固定されてもいないことを認識している) 。

研究チームは、サイトカインやケモカインとして知られる炎症を引き起こすタンパク質の血中濃度が、男性は女性に比べて高い傾向があることを見いだした。これに対して、女性は男性に比べてT細胞という免疫細胞の反応が強い傾向が見られた。また、男性の重症化はT細胞の反応の弱さと関連していたが、女性の重症化は炎症性サイトカインの濃度の高さと関連していた。

この研究は、COVID-19の治療を行う際には生物学的性別を考慮に入れることを提案している。

8月25日

SARS-CoV-2の再感染が遺伝学的証拠によって初めて確認された

2020年3月にCOVID-19に罹患した香港の男性が、数カ月後にSARS-CoV-2の別のバリアントに感染した。これは遺伝学的分析で裏付けられた、再感染の初めての証拠である。

SARS-CoV-2 に感染した人の体内では免疫反応が起きて、おそらくほとんどの再感染を防ぐことができると考えられている。しかし、この免疫の持続性は不明であり、再感染の症例が確認されれば、免疫が失われる可能性があることを示唆する。なお、以前報告された再感染は、ウイルスやその遺伝物質の排出が長引いたことに関係したものであることが分かっている。

香港大学のKwok-Yung Yuenらは、4月にCOVID-19から回復し、4カ月以上たってスペインから英国経由で帰国した33歳の男性が再び陽性となったことを明らかにした(K.K.-W. To et al. Clin. Infect. Dis. http://doi.org/d7ds; 2020)。ウイルスゲノムの塩基配列を調べたところ、2回目の感染は、1回目に感染したウイルスとは遺伝学的に異なるSARS-CoV-2ウイルスによって引き起こされたことが示唆された。

男性は2回目の感染では症状は出なかったが、彼の免疫系は2回目の感染に対し新たな抗体を産生することで反応した。

SARS-CoV-2の検査を受ける、香港のタクシードライバー。 Credit: Anthony Kwan/Getty

8月21日

経鼻ワクチンが感染を防ぐ可能性

マウスとサルを使った研究から、経鼻ワクチンの投与により動物を新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)から守れることと、経鼻投与は同じワクチンの注射投与より効果が高い可能性があることが示された。

ワシントン大学医学系大学院(米国ミズーリ州セントルイス)のDavid CurielとMichael Diamonらは、SARS-CoV-2が細胞に侵入する際に使用するスパイクタンパク質をコードする候補ワクチンを作成した(A. O. Hassan et al. Cell http://doi.org/d63k; 2020)。研究者たちはその後、このスパイクタンパク質のヒト由来受容体を持つ遺伝子改変マウスにワクチンを接種した。

ワクチンを注射した後にSARS-CoV-2に曝露したマウスの肺には、感染性ウイルスは見られなかったが、少量のウイルスRNAは見られた。これに対して、ワクチンを経鼻投与した後にウイルスに曝露したマウスの肺には、測定可能なウイルスRNAはなかった。この研究と他の証拠は、経鼻ワクチンが感染を完全に阻止することを示唆していると著者らは言う。

広州医科大学附属第一病院(中国)のLing Chenらは、スパイクタンパク質をコードする別のワクチンを開発した(L. Feng et al. Nature Commun. 11, 4207; 2020)。研究者らは、経鼻投与したワクチンと注射投与したワクチンのどちらもアカゲザル(Macaca mulatta)を感染から保護することを見いだした。経鼻投与できるワクチンがあれば、市民が自分でワクチンを接種できるようになるかもしれないと著者らは言う。

8月20日

より軽症な疾患と関連したコロナウイルス変異

パンデミックの初期に東アジアに出現したSARS-CoV-2の変異は、変異していないウイルスによる症状よりも軽い症状と関連付けられる。

2020年初頭、シンガポールの研究者は、SARS-CoV-2のORF7bORF8という2つの遺伝子にまたがるDNA部分を欠くバリアントが引き起こした新型コロナウイルス感染症(COVID-19)症例のクラスターを突き止めた。欠失と呼ばれるこの変化の影響を特定するため、シンガポール免疫学ネットワークのLisa Ngらは、この欠失のあるウイルスに感染した人を、正常なウイルスに感染した人と比較した(B. E. Young et al. Lancet http://doi.org/d6x7; 2020)。

この変異のあるウイルスに感染した29人のうち酸素吸入を必要とした人は1人もいなかったが、この変異のないウイルスに感染した92人のうち26人は酸素吸入を必要とした。感染対策が功を奏したためか、この欠失のあるウイルスは3月以降検出されていない。

2002〜04年に発生した重症急性呼吸器症候群(SARS)の原因ウイルスでもORF8遺伝子に同様の欠失が起きており、これがヒトに感染するために重要な適応である可能性を示唆していると著者らは言う。

細胞に感染するSARS-CoV-2粒子(人工的に黄色く着色してある)。 Credit: NIAID(CC BY-SA2.0)

8月19日

重要なウイルスタンパク質の新しい地図

研究者がこのほど初めて、無傷のSARS-CoV-2粒子の表面にあるスパイクタンパク質の3次元形状をマッピングした。

SARS-CoV-2の表面にあるスパイクタンパク質は、宿主のACE2などの受容体に結合して細胞内に侵入する。これまでに解明されたスパイクタンパク質の構造は、細胞内で発現した後に精製された、修飾タンパク質のものだった。これらのモデルを検証するため、英国医学研究会議(MRC)の分子生物学研究所(英国ケンブリッジ)のJohn Briggsらは、感染した細胞からウイルス粒子を回収し、電子顕微鏡を用いてスパイクタンパク質の形状を決定した(Z. Ke et al. Nature http://doi.org/d6sf; 2020)。

これらの構造は、精製したタンパク質から決定された構造とよく似ていた。どちらのスパイクタンパク質も「閉じた」構造か「開いた」構造のいずれかをとり、これにより受容体に結合することができる。研究者たちは、ウイルス粒子の構造を調べることで、スパイクに結合する抗体が感染を阻止する仕組みを説明するのに役立つだろうと言う。

8月17日

抗体がヒトを再感染から守ることの最初の証拠が、船員からもたらされた

米国の漁船での大規模なCOVID-19のアウトブレイクでは、すでに新型コロナウイルスに対する抗体を持っていた乗組員は感染しなかった。科学者たちは、これらの抗体が人々を再感染から守ることを示す最初の直接的な証拠であるとしている。

ウイルス感染後に免疫系が作る中和抗体という化合物は、ウイルスが再び侵入してきたときにこれを攻撃することができる。しかし、これまでの研究では、中和抗体がSARS-CoV-2の再感染から人々を守れるかどうかは不明だった。

ワシントン大学医学系大学院(米国シアトル)のAlexander Greningerらは、米国の漁船の乗組員を対象に、SARS-CoV-2と、このウイルスに対する抗体の検査を行った(A. Addetia et al. Preprint at medRxiv http://doi.org/d6qm; 2020)。出航直前に122人の乗組員のうち120人に対してSARS-CoV2の検査をしたところ全員が陰性だったが、出航からまもなくアウトブレイクが発生した。

出航後の検査では、122人の乗組員のうち104人が感染していた。乗船前に感染して検査を受けた乗組員のうち、SARS-CoV-2に対する中和抗体を持っていた人はいなかった。

これに対して、出発前に中和抗体を持っていた3人の乗組員は、全員感染を免れていた。著者らは、SARS-CoV-2への感染時に獲得された中和抗体が人々を再感染から守ることの統計的に有意な証拠が得られたと言う。この知見はまだ査読を受けていない。

8月7日

唾液による迅速で安価なウイルス検査

唾液に含まれるSARS-CoV-2のRNAを検出する迅速かつ安価で痛みのない検査法は、大規模検査に利用できる可能性がある。

エール大学医学系大学院(米国コネチカット州ニューヘイブン)のChantal Vogelsらは、ロックダウン解除後の大規模検査への需要の高まりに対応するため、SalivaDirectという簡単な唾液検査を開発した (C. B. F. Vogels et al. Preprint at medRxiv http://doi.org/d5s3; 2020)。

鼻咽頭ぬぐい液を用いる標準的な検査と比べて、唾液検査は侵襲性が低く、訓練を受けた専門家が実施する必要もなく、ウイルスRNAの保存と抽出のために希少な化学物質を用いる必要もない。検証実験では、SalivaDirectは、鼻咽頭ぬぐい液で陽性と判定された34検体中32検体を陽性と判定し、同じく陰性と判定された33検体中30検体を陰性と判定した。

研究者らは、唾液検体1つ当たりの検査コストを1.29~4.37ドル(約138〜467円)と見積もっており、米国食品医薬品局(FDA)に緊急使用認可を要請している。

8月6日

一部の風邪に対する免疫反応がSARS-CoV-2からの保護を提供する可能性

風邪(普通感冒)の原因となるコロナウイルスを認識する免疫細胞の中には、今回パンデミックを引き起こしているSARS-CoV-2にも反応するものがある。

これまでの研究で、SARS-CoV-2に曝露したことのない人の中にも、このウイルスを認識できるメモリーT細胞という免疫細胞を持つ人がいることが明らかになっている。ラホヤ・アレルギー免疫研究所(米国カリフォルニア州)のDaniela WeiskopfとAlessandro Setteは、そうしたT細胞を分析し、これらがSARS-CoV-2のいくつかのタンパク質の特定の配列を認識することを発見した(J. Mateus et al. Science http://doi.org/d5v5; 2020)。

その後、研究チームは、風邪コロナウイルスが持つ同様の配列を突き止め、これらの配列がSARS-CoV-2にも反応するT細胞を活性化し得ることを示した。今回の発見は、風邪コロナウイルスに対する既存の免疫がCOVID-19の重症度の差に寄与している可能性があるという仮説に重みを与えるが、この結論を裏付けるためにはさらなる研究が必要である。

8月5日

ブレンドした抗体でサルとハムスターがCOVID-19から守られた

SARS-CoV-2に対する2種類のヒト抗体の混合物がCOVID-19の予防と治療に有望とみられることが、動物実験で示された。

中和抗体は、ウイルスに結合して感染を阻止する免疫分子である。リジェネロン・ファーマシューティカルズ社(Regeneron Pharmaceuticals;米国ニューヨーク州タリータウン)のChristos Kyratsousらは、SARS-CoV-2に結合する2種類の中和抗体のカクテルを作った。このカクテルをアカゲザル(Macaca mulatta)に投与したところ、SARS-CoV-2に感染しても軽症で済んだ。

研究者らは、抗体カクテルを投与されたサルは、プラセボを投与されたサルに比べて肺炎を発症しにくく、肺炎になった場合も肺への損傷が少ないことを発見した。サルに抗体を投与するタイミングがウイルス投与の前でも後でも、この結果は同じであった(A. Baum et al. Preprint at bioRxiv http://doi.org/d5r9; 2020)。

一方、ゴールデンハムスター(Mesocricetus auratus)は、SARS-CoV-2に感染するとサルに比べて急激な体重減少と激しい肺炎が引き起こされることが知られている。

しかし、ウイルス投与の前または後に抗体カクテルを投与されたハムスターは、抗体カクテルの投与なしにウイルスを投与された対照群のハムスターに比べて体重の減少が少ないか、体重が増加することさえあった。この知見はまだ査読を受けていない。

スペインのセビリアで、キャンプに参加するためにCOVID-19の症状の検査を受ける少年。 Credit: Niccolo Guasti/Getty

8月3日

サマーキャンプで200人以上の子どもが感染するアウトブレイク発生

SARS-CoV-2の感染拡大を防ぐための対策を取っていたにもかかわらず、米国ジョージア州での1泊キャンプで、少なくとも250人の参加者とスタッフがSARS-CoV-2の陽性反応を示した。

調査を行ったジョージア州公衆衛生局(米国アトランタ)のChristine Szablewskiらによると、アウトブレイクが始まったのは、最初の参加者が到着した2020年6月21日の2日後という(C. M. Szablewski et al. Morb. Mortal. Wkly Rep. http://doi.org/d5ms; 2020)。全ての参加者とスタッフは、キャンプ到着前12日以内に受けたウイルス検査で陰性であることと、その証明書を提示するよう要請されていた。また、別々のキャビンで宿泊する参加者が一緒になることもなかった。なお、参加者はマスクの着用を要請されていなかった。

研究チームによると、キャンプを離れてから2週間後に行われた検査で、スタッフのうち約100人(その多くはティーンエージャーだった)が陽性であった。参加者のうち168人も陽性を示し、その半数が6〜10歳の子どもだった。感染が広がった要因として、個々のキャビンで大勢の参加者が一緒に寝ていたことと、「毎日元気いっぱいに歌ったり大きな声を出したりしていたこと」が挙げられている。

翻訳:三枝小夜子

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 9

DOI: 10.1038/ndigest.2020.200918b

原文

Coronavirus research updates
  • Nature (2020-05-22) | DOI: 10.1038/d41586-020-00502-w