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小児で新型コロナ合併症が発生しにくい理由

米国で確認されているCOVID-19患者のうち、小児が占める割合は2%未満である。 Credit: JAIME REINA/AFP/GETTY

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染すると、患者に重篤な合併症が起こることがあるが、小児では成人に比べてはるかにそれが起こりにくい。大流行が始まってからこのかた、科学者たちはその理由を解明しようとしてきた。今回、その答えが小児の健康な血管にある可能性が示唆された。

SARS-CoV-2感染者に占める小児の割合は、ごくわずかだ。米国の場合、小児(17歳以下)は人口の22%を占めるが、新型コロナウイルス 感染症(COVID-19)感染確定例では2%にも満たないことが、米国疾病管理予防センター(CDC;ジョージア州アトランタ)による大規模調査で明らかになった。そして、調査の対象となった小児2572例のうち、入院例は5.7%にすぎず、死亡はわずか3例だった(go.nature.com/2yocpzf)。

小児の状態がさほど悪くならない理由を説明するものとして、ウイルスに対する初期の免疫反応が成人よりも強く効果的である可能性や、類似のウイルスに接して間がないために何らかの免疫を有している可能性など、複数の説が唱えられている。しかし、成人と小児との違いは血管の状態なのではないかと考える研究者が増えつつある。

重篤なCOVID-19成人患者には、血餅(血液が凝固したもの)が血管内に発生している症例が多い(7月号「深まるコロナウイルス血栓症の謎」参照)。血管の中に沈着した血餅(血栓)は、心臓発作や脳卒中の原因となる。チューリヒ大学病院(スイス)の心臓病専門医Frank Ruschitzkaは、血栓は血管内皮の機能障害と関係がありそうだと話す。血管内皮は血管の内壁を覆う平滑な組織で、普段は血栓の形成を防いでいる。通常、血餅はもっぱら外傷の出血を止めるために形成されるが、血管内皮に損傷が生じたときにも形成されることがある。

Ruschitzkaの研究チームは、SARS-CoV-2が内皮細胞に侵入する例があることを観察し、その際にウイルスが全身に見られることを明らかにした。COVID-19の患者3例(うち2例は死亡)を調べた結果、SARSCoV-2が内皮に侵入し、炎症や血栓の痕跡を生じていたことが分かったのだ(Z. Varga et al. Lancet 395, 1417–1418; 2020)。その研究は小規模なものであるため、そうした合併症についてはさらなる調査が必要だが、Ruschitzkaは、重症化あるいは死亡したCOVID-19成人患者には内皮の異常が関与している例がかなり多そうだと語る(2020年7月号「深まるコロナウイルス血栓症の謎 」参照)。

一般に、小児の内皮の状態は、成人よりもはるかに良好だ。メルボルン小児キャンパス(Melbourne Childrenʼs Campus;オーストラリア)の小児血液病専門医Paul Monagleは、「小児の内皮は完璧に作り上げられていて、年齢とともに劣化していく一方なのです」と話す。

Monagleや他の専門家は、小児の血管は成人と比べてウイルスの攻撃に耐える能力が高いと考えている。この説をさらに支持するのは、過剰な血餅形成や損傷した血管が認められる小児のCOVID-19患者がほとんどいないという観察結果だと、Monagleは説明する。

彼は、ウイルスが内皮細胞に侵入する際に何が起こるかを調べようとしている。おそらく、ウイルスは内皮細胞と血小板、そして血液凝固に関与する血漿成分の間のやりとりを妨害し、そのやりとりが途絶えるために余分な血餅が生じるのかもしれないと彼は考えている。

Monagleの研究チームは、そのメカニズムの解明を目指し、また同時に、ウイルス感染に対して余分な血餅を生じにくくする防御的な何かが小児の血管にあるかどうかを明らかにするため、実験を開始したところだ。最初の実験では、小児と成人の血管内の状況を実験室で再現することが目標だ。そしてSARS-CoV-2に感染した培養内皮細胞を、3種類の血漿(小児、健常成人、および血管疾患の成人症例)に投入する。感染細胞がそれぞれの血漿とどう相互作用するか比較すれば、血管内のシグナル伝達を乱すものの正体が分かるはずだ。

Monagleは、小児の検体を調べることにより、一部の成人で起こっている問題の手掛かりが得られるだろうと期待している。

翻訳:小林盛方

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 8

DOI: 10.1038/ndigest.2020.200805

原文

Why children avoid the worst coronavirus complications might lie in their arteries
  • Nature (2020-06-11) | DOI: 10.1038/d41586-020-01692-z
  • David Cyranoski