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細菌に起因する変異シグネチャーを大腸がんで同定

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 7 | doi : 10.1038/ndigest.2020.200739

原文:Nature (2020-04-09) | doi: 10.1038/d41586-020-00818-7 | A mutational signature that can be made by a bacterium arises in human colon cancer

Ye Yang & Christian Jobin

DNAを損傷する分子を産生する腸内細菌と大腸がんとの関連性が指摘されている。これらの細菌によって引き起こされる変異シグネチャーがヒト大腸がんで同定されたことは、この関連性を支持する知見だ。

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BSIP/Universal Images Group/Getty

大腸がんの病因を理解することは、その治療法の開発に役立つかもしれない。腸内細菌の一種と大腸がんとの関連性は以前から指摘されていた。このほど、その関連性を裏付ける知見を、オランダ王立芸術・科学アカデミー(KNAW)、ユトレヒト大学医療センター、およびオンコード研究所(以上、オランダ・ユトレヒト)のCayetano Pleguezuelos-Manzanoら1Nature 2020年4月9日号269ページで報告した。彼らは、大腸がん細胞で認められるDNA変異の中から細菌の「指紋」を特定することで、この細菌の関与を証明している。

ある種の細菌は、DNAを損傷する遺伝毒性を有する分子を産生する。これらの分子は、例えば、損傷したDNAの修復過程でエラーが発生すると、変異を引き起こす可能性がある。2006年には、腸内細菌である大腸菌の特定の株が産生する、コリバクチンと呼ばれる遺伝毒性物質が発見された2。その論文では、大腸菌がどのようにしてコリバクチンを産生しているのかについても検討し、コリバクチン生合成経路のさまざまな構成要素をコードしている重要なDNA領域を同定し、pksアイランドと名付けている(pksアイランドを有する大腸菌はpks+大腸菌と呼ばれる)。

動物モデルでは、pks+大腸菌はコリバクチンを産生することにより、腫瘍の発生を促進することが示されている3。さらにこれらの細菌株は、健康な人と比較して大腸がん患者の大腸粘膜上皮細胞に、より多く認められる3。しかし、コリバクチン生合成経路は複雑であり、また分子がかなり不安定であるため、pksアイランドの働きを解明し、コリバクチンの構造を決定しようとしている研究者たちは、難しい課題に直面している。

未解明の疑問がいくつもある。例えば、コリバクチンはどのような機序で作用するのだろうか? DNAのヌクレオチドにどのような種類の変異をもたらすのだろうか? コリバクチンの活性はヒトのがんと関連性があるのだろうか? pks+大腸菌に感染させた細胞のDNAは、アデニンヌクレオチドがアルキル化と呼ばれる修飾を受けて損傷されることが知られている4。その後の研究で、コリバクチンが左右対称な構造をしていることが提案され、この分子はシクロプロパン環と呼ばれる構造を持つ2つの「弾頭」でアデニンを攻撃することが示された5。ただし、腸内にpks+大腸菌を保有している人の割合は、まだよく分かっていない。

pks+大腸菌が引き起こすDNA変化の詳細を明らかにするために、Pleguezuelos-Manzanoらはヒトの腸を模倣した「ミニ腸」細胞系に着目した(図1)。このアプローチでは、in vitroで増殖させたオルガノイドと呼ばれるヒト上皮細胞の集塊を使用する。今回のように大腸粘膜上皮細胞を使って作製したオルガノイドは、コロノイドと呼ばれる。Pleguezuelos-Manzanoらは、大腸がんの患者から分離したpks+大腸菌、または遺伝子組換えによりコリバクチンを産生できないようにした大腸菌のいずれかにコロノイドを曝露させた。これにより、細菌は大腸の内腔で遭遇するのと同じタイプの細胞表面と相互作用することになる。次いで、コロノイド細胞の全ゲノム塩基配列を決定し、コリバクチンを産生する大腸菌に曝露された細胞とコリバクチンを産生しない大腸菌に曝露された細胞で発生した変異を比較した。

図1 細菌によって誘発される特異的なDNA変異はヒトのがんでも認められる
Pleguezuelos-Manzanoら1は、腸内細菌によって引き起こされる2種類のDNA変異を報告している。
a Pleguezuelos-Manzanoらはin vitroで増殖させた大腸粘膜上皮細胞を使ったヒト腸モデルを用い、細胞をコリバクチンと呼ばれる分子を産生する大腸菌(pks+大腸菌)に曝露させた。コリバクチンはDNAのアデニン(A)ヌクレオチドを修飾する。その結果、DNAは損傷を受け、修復過程でエラーが起こると変異につながる。Pleguezuelos-Manzanoらは、コリバクチンによって誘発される特定のタイプの変異を同定した。1つのタイプは1塩基置換(SBS-pks)であり、典型的にはチミン(T)が別の塩基に置き換わり、その部位の塩基対が変化する。もう1つのタイプは挿入もしくは欠失変異(ID-pks)であり、チミンヌクレオチドが連続している部位におけるチミンヌクレオチドの欠失によって特徴付けられる。
b 現在入手可能なヒト大腸がん細胞の全ゲノム塩基配列データを用いて、Pleguezuelos-Manzanoらは存在する変異を解析し、コリバクチンへの曝露に特徴的な変異を有する腫瘍のサブセットを同定した。このことから、これらの変異が実際にpks+大腸菌への曝露によって発生したのかどうかという新たな疑問が生じる。 | 拡大する

この解析により、コリバクチンの存在下で生じたDNA変異の特定のパターン、すなわち、コリバクチン特異的な変異シグネチャーが同定された。このシグネチャーには、主に2つのタイプの変異が含まれていた。その1つは、DNAの単一ヌクレオチド塩基が別の塩基に置き換わるものである(1塩基置換、SBS-pks)。中でもチミン(T)が別の塩基(N)に置き換わるT→N変異が多く認められた。

もう1つのタイプの変異は、ヌクレオチドの微小な挿入もしくは欠失(ID-pks)であり、チミンヌクレオチドが連続している部位(Tホモポリマーとして知られている)におけるチミンヌクレオチドの欠失によって特徴付けられる。興味深いことに、SBS-pksとID-pksはいずれもアデニンヌクレオチドの下流で優先的に起きていた。このことは、提案されているコリバクチンの作用様式とも一致している。すなわち、コリバクチンが持つ2つの弾頭は、損傷を受けるDNAの反対側の鎖上に近接して位置するアデニンヌクレオチドを攻撃する(一方の弾頭は損傷部位の上流のアデニンを、もう一方の弾頭は損傷部位を攻撃する)4,5

このコリバクチン特異的な変異シグネチャーがヒトの大腸がんとも関連があるかを究明するために、Pleguezuelos-Manzanoらは大腸の原発部位から転移して別の部位で二次増殖を起こした496例のヒト大腸がん転移巣の全ゲノム塩基配列データを解析した6。その結果、大腸がん転移巣の7.5%にSBS-pks変異が、8.8%にID-pks変異が認められ、その頻度は大腸以外を原発部位とするがんの転移巣よりも高いことが明らかになった。例えば、SBS-pks変異およびID-pks変異は、尿路がんからの転移巣ではそれぞれ2.1%および4.2%、頭頸部腫瘍からの転移巣ではいずれも1.6%であった。尿路や頭頸部が大腸菌に曝露されることはまれであることを考えれば、この数字は身体の各部位がpks+大腸菌に曝露される確率を反映しているといえる。別のデータセットで2208例の主に原発性大腸がんを評価したところ、5.0%にSBS-pks変異が、4.4%にID-pks変異が認められ、pks+大腸菌が腫瘍発生の初期段階に関与しているという仮説が裏付けられた。

さらに、大腸がんで一般的に見られる「ドライバー変異」(疾患の原因と関係している変異)の2.4%と、大腸がんで頻度の高いAPC遺伝子変異の5.3%が、SBS-pksもしくはID-pksの標的モチーフと一致しているという観察結果も、pks+大腸菌の関与を示唆する証拠である。興味深いことに、健康な人の大腸の陰窩には、幼少期に生じたものと考えられるSBS-pksやID-pksに類似した変異シグネチャーが認められ7、幼少期にpks+大腸菌に曝露されたことが、大腸がん発生の原因となる可能性が示唆される。これら全ての知見は、遺伝毒性物質を産生する細菌が、がんの発生にどのように寄与しているのか、その経路になり得る候補を示している。

Pleguezuelos-Manzanoらの研究は、pks+大腸菌への曝露とがんの発生とを結び付ける変異の効果に関する、我々の知識の重要なギャップを埋めるものである。しかしながら、pks+大腸菌への曝露に警鐘を鳴らし、保菌者を特定するためのスクリーニング検査を実施して除菌治療を始める前に、考慮すべき問題がいくつかある。

広く使用されている大腸菌のプロバイオティクス株(健康増進を目的として使用されている株)の1つにニッスル1917株があるが、この株はpksアイランドを有しており、そのDNA損傷活性が炎症抑制効果を発揮するために必要であることが動物モデルで示されている8。このプロバイオティクス株は長い研究の歴史の中で、ヒトの治療に使用しても安全であることが確認されており9、pks+大腸菌の腫瘍誘発活性は環境に依存したものであることが示唆される。ミニ腸細胞系は細菌とヒト細胞間の相互作用を研究するための強力なツールだが、粘膜バリア、腸免疫系で働く細胞、別の種の細菌など、実際の腸で起きている多くの相互作用を無視してしまうことになる。これらの要素のいずれかが、コリバクチンが遺伝毒性効果を呈するために不可欠な、pks+大腸菌が上皮細胞に付着する能力2に影響を与えている可能性もある。

実際、pks+大腸菌が定着したマウスでも、炎症3,10、発がん性変異3,10,11、がんの発生を促進する別の細菌11といった要因がなければ、大腸がんが発生することはまれである。Pleguezuelos-Manzanoらが示したように、大腸がん患者の約67%がpks+大腸菌を保有している3にもかかわらず、変異シグネチャーは原発性大腸がんの約5%にしか認められないという事実は、遺伝毒性効果が環境に依存したものであるという考え方を支持するものである。pks+大腸菌を原因としたがんが発生し得る状況を作り出すような、ヒト細胞と細菌間の、あるいは異なる細菌間の相互作用を明らかにすることが極めて重要である。それに加えて、腫瘍の発生に関連してこの変異シグネチャーにどのような経時的変化が見られるのかを動物モデルで明らかにすることができれば、直接的な因果関係を支持するより強固な証拠になるだろう。

この研究はまた、大腸菌以外の細菌が産生する遺伝毒性物質ではどのような変異シグネチャーが誘導されるのかという疑問を提起する。例えば、ある種のカンピロバクター属細菌が産生する細胞膨化致死毒素(cytolethal-distending toxin)と呼ばれる毒素は、マウスにおいてDNAを損傷し、大腸がんの発生を促進する12。コリバクチンやその他の遺伝毒性物質によって誘導される変異シグネチャーを比較することで13、がんの発生を駆動する機構の解明が進み、相乗効果の存在を明らかにすることができるかもしれない。さらに、さまざまな微生物への曝露を通じてDNAに残された特徴的な「傷跡」の包括的なカタログを作成することができれば、腫瘍の発生を促進する潜在要因の追跡に役立つかもしれない。

Pleguezuelos-Manzanoらは、コリバクチンがヒトの発がんに寄与する可能性を強調しており、腸内細菌叢にはがんの発生を促進する可能性のある細菌が含まれていることを証明している。近年、治療目的で腸内細菌叢を操作することへの関心が高まっており、大腸がんとの因果関係が確立されれば、pks+大腸菌の除菌治療を検討することも考えられるだろう。

(翻訳:藤山与一)

Ye Yang & Christian Jobinは、フロリダ大学医学部(米国ゲインズビル)に所属。

参考文献

  1. Pleguezuelos-Manzano, C. et al. Nature 580, 269–273 (2020).
  2. Nougayrède, J.-P. et al. Science 313, 848–851 (2006).
  3. Arthur, J. C. et al. Science 338, 120–123 (2012).
  4. Wilson, M. R. et al. Science 363, eaar7785 (2019).
  5. Xue, M. et al. Science 365, eaax2685 (2019).
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  12. He, Z. et al. Gut 68, 289–300 (2019).
  13. Barrett, M., Hand, C. K., Shanahan, F., Murphy, T. & O’Toole, P. W. Trends Cancer https://doi.org/10.1016/j. trecan.2020.01.019 (2020).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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