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38億年前の岩から見つかった地球の材料のヒント

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2020.200638

原文:Nature (2020-03-12) | doi: 10.1038/d41586-020-00605-4 | Ancient rock bears isotopic fingerprints of Earth’s origins

Katherine R. Bermingham

地球を作った構成要素を地球の岩石から突き止めることは難しい。地球の材料は、地球の進化とともに混ざってしまっているからだ。古代の岩石の中から未知の構成要素の証拠が得られ、地球の材料についての理解が進んだ。

グリーンランド南西部の約38億年前(原太古代)の地質帯(森下知晃撮影)。地球初期のマントル組成を保持していると考えられる岩石の顕微鏡写真(スケールバー:1mm)(高橋歓太撮影)。 | 拡大する

地球は、隕石物質が集まって誕生したが、どのような隕石物質が集まったかはまだ分かっていない。ケルン大学地質・鉱物学研究所(ドイツ)のMario Fischer-Göddeら(金沢大学の研究者を含む)は今回、グリーンランド南西部で得られた古代(約38億年前)の岩石の中のルテニウム同位体の組成に、これまで認識されていない地球の構成要素の証拠が含まれていることを見いだし、Nature 2020年3月12日号240ページで報告した1。驚くべきことに、この岩石中のルテニウムの推定された同位体組成は、既知の隕石の同位体組成と一致しない。Fischer-Göddeらの発見は、水や有機化合物などの揮発性成分は、地球の成長の最終段階に地球に持ち込まれた可能性を示唆している。

地球は、天体の一連の衝突の産物であり、衝突する天体の大きさは徐々に大きくなった2-4。こうした地球の構成要素は、約46億年前に、原始太陽を回っていたダストとガスの原始惑星系円盤から集積した。地球の構成要素の組成を突き止めることは、原始惑星系円盤の残存物へのアクセスが限定されていることと、マントルの複雑で長期の地質学的作用が地球の古代の材料を混合したために難しい。

地球は何からできたのかという疑問に対する答えは、地球の岩石試料の同位体組成を、太陽系の歴史の最初の数百万年以内に形成された隕石の同位体組成と比較する研究で得られる可能性がある。こうした隕石は、合体してやがては岩石惑星を形成する小天体の代表と考えられる。だから、隕石は地球の構成要素の最も可能性の高い候補だ。

隕石は特徴的な同位体組成を持ち、それは、可能性のある、さまざまなタイプの構成要素を見分けるための指紋として役立つことが分かっている。Fischer-Göddeらの研究はこのことを基にしている。例えば、炭素質コンドライトなどの隕石は、「湿っている」(揮発性成分を含む)ことが多いが、通常は「乾いている」隕石とは異なる同位体指紋を持つ5。同位体組成の違いは、原始惑星系円盤におけるダストの不均質な分布から生じ、元素合成同位体変化と呼ばれる。もしもこの指紋を地球の岩石試料で見つけることができたら、地球を作った隕石物質の証拠になる可能性がある。

地球の岩石の指紋の収集は、揮発性元素はいつ地球にもたらされ、どこから来たかの推定を絞り込むのに役立つ可能性がある。これは、一部の元素の特定の同位体〔例えばルテニウム100(100Ru)〕の存在度は、湿った構成要素と乾いた構成要素を見分けるだけではなく、地球の集積の歴史におけるさまざまな段階を記録するからだ。

グリーンランド南西部、地球最古の地質帯the Ujaragssuit Nunât 岩体にて2017年7月27日撮影。左から森下知晃(金沢大学)、Kristoffer Szilas (コペンハーゲン大学)、谷健一郎(国立科学博物館)、西尾郁也(金沢大学)。 | 拡大する

ルテニウムは、地球内部の金属に富む相に集まるため、強親鉄性元素(鉄との親和力が高い元素)に分類される。このため、地球のルテニウムの大部分は金属の核に集まっている。しかし、マントルには微量のルテニウムと他の強親鉄性元素が含まれており、その相対的割合は原始的隕石で測定された割合に近い6。この事実の1つの解釈は、強親鉄性元素は、地球の核が形成された後、レイトベニアと呼ばれるイベント〔このとき地球の質量の最後の約0.5%(重量パーセント)が集積した7,8〕の間にマントルに付け加えられたということだ。もしそうなら、マントルのルテニウムと他の強親鉄性元素は、地球に集積した最後の物質の組成を記録している9

地球の揮発性元素も、レイトベニアの間に、炭素質コンドライトの集積によって付け加えられたのかもしれないと提案されてきた10,11。しかし、この数年の研究で、地球のマントルの100Ru同位体組成(地球の岩石の100Ruの存在度)と、炭素質コンドライトの100Ru同位体組成との不一致が見いだされた12,13(炭素質コンドライトの方が100Ru存在度が小さい)。従って、炭素質コンドライトは、レイトベニアには集積しなかったと結論できるかもしれず、揮発性物質が地球にもたらされたタイミングに疑問を投げ掛ける13

この結論は、マントルの強親鉄性元素は、レイトベニア以前の物質をそれほど含んでいないという前提に基づいている。これは、含んでいることを示す直接的な証拠が少ないことを考えれば妥当な前提だ。もしも、実際にはレイトベニア以前のマントルが、核に集まらなかった相当量の100Ruを含み、それを現在のマントルの100Ru同位体組成と異なる100Ru同位体組成を持つことで見いだすことができるなら、炭素質コンドライトがレイトベニアの間に集積した可能性はある。

元素合成ルテニウム同位体変化はこれまで、地球の岩石では報告されていなかった。これは一部には、地球には活発なプレートテクトニクスとマントル対流があるからで、こうした作用は地球の構成要素の指紋を混ぜ、希釈する。しかし、この数年で分析方法がさらに開発され、同位体変化をppm(100万分の1)のスケールで測定することが可能になり、こうした原始の同位体特性を探すことができるようになった14

Fischer-Göddeらは、地球の岩石の100Ru同位体組成を、隕石の100Ru同位体組成と比較することにより、グリーンランド南西部で得られた岩石に保存されていた、地球の古代に形成された部分が、通常とは異なる構成要素の指紋を保持していたと報告した(図1)。推定された同位体組成が既知の隕石の組成に一致しないという事実は、これまでに収集されている隕石は、原始惑星系円盤のサンプリングとしてはかなり限定されていることを示す。

図1 地球マントル中の古代の物質の保存のシナリオ
a 地球は46億年前から約45億年前の間に、隕石物質の集積によって形成された。金属と強い親和力を持つ親鉄性元素は核の中に分離した。
b 地球の質量の最後の約0.5%(重量パーセント)は、核が形成された後、レイトベニアと呼ばれるイベントの間に隕石によって集積した。
c Fischer-Göddeらは、グリーンランド南西部で得られた古代(約38億年前)の岩石が、通常とは異なるルテニウム同位体組成を持つことを報告した1。彼らは、その原因は岩石中のレイトベニア以前のマントル物質の存在にあるとした。ここで示したレイトベニア以前の物質の分布は推測にすぎない。実際の量と分布は既知のデータからは導けない。 | 拡大する

Fischer-Göddeらは、通常とは異なる100Ruデータを、これらの岩石の源における、レイトベニア以前のルテニウム同位体特性だと解釈した。彼らは、マントルの他の強親鉄性元素の組成を踏まえて彼らの発見を考察し、マントルの現在の組成は、レイトベニアが炭素質コンドライトを含み、マントルのレイトベニア以前の成分の組成と相殺するときにのみ、彼らの新しいデータと調和すると提案する。これは、揮発性物質は、地球の形成の最終段階に地球に持ち込まれたのかもしれないことを意味する。

Fischer-Göddeらのデータは、地球のさまざまな構成要素は、保存されていて、採取して研究することが可能なのかという長年の疑問に答えるものだ。しかし、このデータは重要な疑問も提起し、その答えは間違いなく、この新たな発見の重要性を決定する。例えば、グリーンランド南西部で得られた1組の岩石試料は、レイトベニア以前のマントルをどれほど代表しているのか? 元素合成指紋は、マントル中の他の元素の同位体組成に見られるのか? レイトベニア以前のマントルのルテニウム組成に大きく影響した、見つかっていない隕石の組成はどのようなものか? そして、その隕石の組成はなぜまだ分かっていないのか? これらの隕石の同位体特性は対流マントルの中にどのように保存されたのか? これらの疑問を解決するには、マントル中の元素合成指紋をもっと大規模に探すしかない。

(翻訳:新庄直樹)

Katherine R. Berminghamは、ラトガース・ニュージャージー州立大学に所属。

参考文献

  1. Fischer-Gödde, M. et al. Nature 579, 240–244 (2020).
  2. Chambers, J. E. Astrophys. J. 825, 63–81 (2016)
  3. Lambrechts, M. & Johansen, A. Astron. Astrophys. 544, A32 (2012).
  4. Morbidelli, A. & Nesvorny, D. Astron. Astrophys. 546, A18 (2012).
  5. Warren, P. H. Earth Planet. Sci. Lett. 311, 93–100 (2011).
  6. Becker, H. et al. Geochim. Cosmochim. Acta 70, 4528–4550 (2006).
  7. Chou, C.-L. Proc. 9th Lunar Planet. Sci. Conf. 219–230 (Lunar Planet. Inst., 1978).
  8. Kimura, K., Lewis, R. S. & Anders, E. Geochim. Cosmochim. Acta 38, 683–781 (1974).
  9. Dauphas, N. Nature 541, 521–524 (2017).
  10. Marty, B. Earth Planet. Sci. Lett. 313–314, 56–66 (2012).
  11. Alexander, C. M. O’D. et al. Science 337, 721–723 (2012).
  12. Bermingham, K. R. & Walker, R. J. Earth Planet. Sci. Lett. 474, 466–473 (2017).
  13. Fischer-Gödde, M. & Kleine, T. Nature 541, 525–527 (2017).
  14. Fischer-Gödde, M., Burkhardt, C., Kruijer, T. S. & Kleine, T. Geochim. Cosmochim. Acta 168, 151–171 (2015).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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