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真核生物につながるアーキアの培養とゲノム解析に成功!

井町 寛之、Masaru K. Nobu

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2020.200630

約20億年前に現れたとされる真核生物。海洋研究開発機構(JAMSTEC)の井町寛之氏と、産業技術総合研究所(AIST)のMasaru K. Nobu(延優)氏は、その誕生につながったとされるアスガルド類アーキアの培養を世界で初めて成功させ、完全長のゲノム配列も手に入れた。そこから、アーキアの生態と真核生物への進化について、驚くべき知見が複数もたらされた。

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JAMSTEC

–– アーキアとは、どんな微生物なのでしょうか?

井町:3つのドメインに分けられている生物系統群の1つで、古細菌とも呼ばれる微生物です。残りの2群は、バクテリア(真正細菌)と真核生物です。

よく知られているアーキアとして、メタンを出すメタン生成菌、高塩濃度環境に生息する高度好塩菌、高温環境に生息する超好熱菌がいます。深海底にはアーキアが多く生息していることが分かっており、今回、私たちが培養に成功したアーキアも、和歌山県沖の水深2500mの海底堆積物から採取したものです。昔は極限的な環境にしか生息しないと考えられていたアーキアですが、遺伝子解析技術の発展で、淡水や海水、土壌、ヒトを含む動物の体内などのありふれた環境中にも存在することが分かってきました。

–– アーキアが生物進化において重要視される理由とは?

Nobu:真核生物が、アーキアとバクテリアの共生によってもたらされたと考えられるからです。生命が誕生したのは約40億年前で、最初の真核生物が現れたのは約20億年前とされています。真核生物誕生については諸説があり、有力視されてきたものに「バクテリアが水素を作り出しアーキアに渡し、水素を介した栄養共生をしているうちに後者が前者を飲み込み、バクテリアをミトコンドリアとして使い始めることで真核生物になった」とする水素モデル1や、その逆の「アーキアが水素を作ってバクテリアに渡していた」とする逆流モデル2があります。

後でお話ししますが、私たちは今回、このような仮説を覆すと思われる成果を得ることになりました。

–– 研究対象はどのようなアーキアですか?

井町:アスガルドと呼ばれるアーキアの一群です。ただ、初めから生命進化との関連に注目していたわけではありません。そもそもの興味は、アスガルド類が海底堆積物中のアーキアで多くの割合を占めるグループであるにもかかわらず、培養株がなく生態や物質循環などの役割が未解明という点にありました。ところが2015年と2017年に、スウェーデンの研究グループが海底堆積物を対象にメタゲノム解析を行い、「アスガルド類が真核生物に最も近いアーキアだ」と発表し3, 4、多くの研究者が進化の観点から注目するようになりました。当時の私はすでにアスガルドアーキアの集積培養に成功していたのですが、これらの論文が出たことで、自分の研究をどうまとめるか悩みました。結局、きちんと分離し、その生理や遺伝学的特徴まで調べ上げようと決めました。2016年からNobuさんに加わってもらいました。

–– どのように培養されたのですか?

井町:一連の培養を始めたのは2006年です。しんかい6500に乗り込んで紀伊半島沖の深海底から堆積物を採取し、研究室に持ち帰りました。培養に使ったのは、下水処理用のバイオリアクター(DHSリアクター)です。私は土木工学の出身で、JAMSTECに来る前は下水処理などの排水処理の研究をしていましたので、「DHSリアクターを使えば、アーキアを含めた海底下微生物を、網羅的かつ効率よく培養できるのではないか」と思い付いたのです。

DHSリアクターの特徴は、ポリウレタンのスポンジを微生物のすみかとして使うことにあります。私は、スポンジに海底堆積物試料を含ませた上で、リアクターの上部から海水ベースの液体培地を滴下しました。アスガルド類は嫌気性のアーキアなので、リアクター内は無酸素状態にしました。本来の生息環境に近づけるため、リアクターにはメタンガスも供給しました。

深海底微生物の増殖速度は極めて遅いので、スポンジは微生物細胞をリアクター容器内に長くとどめる足場として好都合でした。また、三次元のスポンジ内には培養液由来物質の濃度勾配ができるために、多様な種を同時に培養可能だろうとも考えました。現在に至るまで、このDHSリアクターを使った培養を続けており、メタンを消費するアーキアを一次生産者とした「1000種以上からなる微生物生態系」が出来上がっていると思われます。

海底堆積物採取からリアクターによる培養、MK-D1株の分離培養まで
1 2006年に有人潜水調査船「しんかい6500」を用いてメタン冷湧水帯の深海堆積物を採取。
2 2006〜2012年までDHSリアクターを用いて、メタン冷湧水帯を模擬した培養条件で深海堆積物由来の微生物を前培養。
3 DHSリアクター内に増殖してきたここの微生物の分離を試験管やバイアル瓶を用いた従来型の培養方法で行った。2018年にMK-D1株の分離に成功。 | 拡大する

–– アスガルドアーキアの分離培養と解析はどのように?

井町:特定の種を分離するには、別の培養方法が必要でした。私は、スポンジの一部を絞ったものを試料とし、多様な培地を入れた試験管を数百本用意して、段階的に分離する戦略を取ることにしました。アミノ酸とペプチドを混合した培養液と、バクテリアの生育を抑える抗生物質を入れた試験管内で約1年培養し、微生物が増殖したと思われる「微弱な濁り」が観察できたものを選出したのです。その上で、試料を対象に16SリボソームRNA遺伝子配列解析を行い、アスガルドアーキアが含まれているものだけを絞り込んで継代培養しました。結局、DHSリアクターで約5年間、その後の試験管を使った分離培養に7年と、合計12年をかけて、アスガルドアーキアに属する培養株(MK-D1株)を分離しました。この間に、MK-D1株の細胞分裂は14〜25日に1回であることや、最大細胞密度が105個/ml以下と極めて低いことが分かりました。

MK-D1株が培養できたところで、電子顕微鏡などを用いた細胞構造の解析と、完全超ゲノム配列の解読を進めました。さらに、既知のアーキアゲノムのデータも利用し、真核細胞への進化について検討しました。ゲノム解析と進化についての検討は、全面的にNobuさんが担当しました。

–– どのような知見が得られたのでしょう?

井町:得られた成果は、(1)細胞の形態と生理的な特徴、(2)遺伝学的な特徴、(3)(1)と(2)から導かれる進化的な知見に大別できます5

まず(1)について。MK-D1株の細胞は直径約550nmの球状と、微生物としては小さい部類でした。細胞内部は単純な構造で、真核生物のような核や小器官を一切持っていません。また、大量の小胞を細胞外に放出していること、増殖の終盤には細胞外に触手のような長い突起構造を形成すること、細胞膜は他のアーキアと同じくイソプレノイドという脂質分子からなり、真核生物の細胞膜成分とは異なることが分かりました。

Nobu:(2)については、まず完全長ゲノムのサイズが約4.4メガ塩基対と分かりました。微生物のゲノムサイズとしては普通なのですが、MK-D1株の大きさや増殖速度を考えるとかなり大きいと感じます。大きなゲノムを維持するには多くのエネルギーが必要なので、エネルギー源が乏しい環境にいる微生物ゲノムは小さい傾向にあるからです。

ゲノム中には、約4000個の遺伝子がありました。これも微生物一般としては普通の数ですが、MK-D1株の生態を考えると、やはり多いと思います。興味深いのは、約4000個の中に、アクチン、ユビキチン、小胞体輸送に関連する遺伝子が見つかり、RNA解析によって実際に細胞内で発現していると分かったことです。これらは、いずれも真核生物に特有の遺伝子ですので、アスガルドアーキアには「真核生物の遺伝子の一部」が備わっていたことになります。もちろん、今の真核生物とは大きく機能が異なっていると思いますが。

ゲノム配列からは、細胞体を作るために必須のアミノ酸やビタミン類、ヌクレオチドを自身で合成できないことが示唆されました。先に、MK-D1株を分離したと述べましたが、厳密にはMK-D1株は単独では生きていけず、メタン生成アーキアと共培養する必要がありました。このメタン生成アーキアが、アミノ酸やビタミン類を供給するとともに、MK-D1株の代謝産物である水素を消費しているようでした。

–– 驚く結果ばかりですが、これらから示唆されることとは?

MK-D1株の電子顕微鏡写真
上段:増殖時の細胞形態。単独(a)、あるいは多くの場合で集塊体(b)を作っている。 下段:増殖が終わる頃の細胞形態。触手状の長い分岐した突起が見える。白い矢印は、MK-D1株が細胞外に放出した小胞。 | 拡大する

Nobu:それが前述の(3)に当たるわけですが、最大のインパクトは、真核生物の祖先アーキアがMK-D1株で見られるような長い触手や小胞を使ってバクテリアを取り込み、それが真核生物になったとする新たな仮説「Entangle-Engulf-Endogenize(E3)モデル」を提案できたことです。これは「巻き込む–飲み込む–内部に発達させる」という意味です。27億年前にシアノバクテリアが登場したことで地球に酸素が増えていきますが、酸素は嫌気性の祖先アーキアにとって有毒です。しかしそれは大きなチャンスでもありました。今回の新仮説では、「祖先アーキアが、有害な酸素を制するためにミトコンドリアの祖先バクテリアを細胞内に取り込み、両者のせめぎ合いを経て融合し、1つの細胞で「操縦」と「動力」を初めて役割分担できた生命体が誕生した」とするモデルを提唱しました。このような酸素を介した新仮説は、水素モデルと逆流モデルを否定することになります。

突起と小胞の機能は未解明ですが、両者を使うことでミトコンドリアの祖先バクテリアと祖先アーキアを隔てる膜構造ができ、祖先アーキアが自身の細胞壁を失うことで核膜が作られたのではないか、などと考えています。

真核生物誕生を説明する、E3モデル仮説
真核生物の祖先となるアーキア(青色)がミトコンドリアの祖先となるバクテリア(赤色)を細胞内に取り込み、その共生関係が成熟していく過程。
a 約27億年前に始まった大酸化イベントによって酸素が生成。嫌気性であるアーキアは、水素を利用することで酸素存在下でも生育できる硫酸還元菌(橙)や、酸素を消費・解毒できるバクテリア(ミトコンドリアの祖先)と共生を始める。
b,c アーキアが触手状の突起と小胞を使って酸素を利用できるバクテリア細胞を取り込む。1つの細胞になったアーキアとバクテリアは、アミノ酸を分け合うことで共存。
d〜f アーキアの細胞壁が、アーキア本体とミトコンドリアを分ける「核膜」に。共生関係が発達していく過程で遺伝子交換が行われ、さらに一体化が進む。まず、ミトコンドリアが「アーキアのATPを奪う機能」を作り上げ、両者の関係が共生から寄生に切り替わる。その後、逆にアーキアが「エネルギー産生をミトコンドリア委ねるシステム」を構築。こうして、アミノ酸をエネルギー源とし、酸素呼吸と複雑な細胞構造を持つ「真核生物の祖先」が誕生。 | 拡大する

–– Nature とのやりとりや、周囲の反響はどうでしたか?

Nobu:井町さんの培養部分には、指摘が入りませんでした。私の方は、「仮説のロジックはいいが、証拠がないので受け入れ難い」と主張する査読者が1人いましたが、最後は編集者の「仮説の説明部分を少し短くしてはどうか」という提案で折り合いました。

井町:私たちは共に土木工学の出身で、進化生物学者ではありませんが、今回の論文に対し、長年、進化について検討してきた研究者から絶賛の言葉をいただきました。これを機に、真核生物誕生の議論や検証がさらに進んでいけばうれしいです。

–– 今後のご予定は?

井町:課題を1つずつ検証したいと考えています。例えば、MK-D1株の小胞や突起の構造や機能は解明できていません。また、祖先アーキアがミトコンドリアを取り込んだとすると、両者に重複する機能はどのように1つになったのでしょうか。それに、酸素を使う真核生物として生きるには祖先アーキアの嫌気代謝系を捨てる必要があります。それがどのように行われたのか。細胞内のATPの輸送経路をどう構築していったかといったことも、解明すべき課題の1つです。すでに、MK-D1株以外のアスガルドアーキアの培養を始めており、研究をさらに進めていきたいと考えています。

Nobu:井町さんとのコンビで研究を続け、機会があったら私も「しんかい6500」に乗ってアーキアが生息する深海に行ってみたいですね。

–– ありがとうございました。

聞き手は西村尚子(サイエンスライター)。

Author Profile

井町 寛之(いまち・ひろゆき)

海洋研究開発機構(JAMSTEC)超先鋭研究開発部門 超先鋭研究プログラム 主任研究員
2003年 長岡技術科学大学大学院 工学研究科博士課程修了。2009年より現職。嫌気環境に生息する難培養性微生物の培養を軸に研究を進めている。この世の全ての未培養微生物を分離・培養し、その実体を明らかにすることが目標。

井町 寛之氏

Masaru K. Nobu(延優 のぶ・まさる)

産業技術総合研究所(AIST)生物プロセス研究部門 生物資源情報基盤研究グループ 研究員
2017年 イリノイ大学土木環境工学科博士課程修了後、来日し現職。ゲノム解析を通じて、微生物の未知の能力と、遺伝子に隠された生命の真髄と歴史を追求。また解析で得た情報を基に、新たな水処理・物質生産技術開発などの応用研究にも取り組む。

Masaru K. Nobu氏

参考文献

  1. Martin, W. & Müller, M. Nature 392, 37–41 (1998).
  2. Spang, A. et al. Nature Microbiology 4, 1138–1148 (2019).
  3. Spang, A. et al. Nature 521, 173–179 (2015).
  4. Zaremba-Niedzwiedzka, K. et al. Nature 541, 353–358 (2017).
  5. Imachi, H. et al. Nature 577, 519–525 (2020).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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