新型コロナウイルス研究注目の論文(5月)
5月29日
新型コロナウイルス感染は鼻から始まる可能性
SARS-CoV-2の感染が始まる部位は鼻である可能性が高い。
ノースカロライナ大学チャペルヒル校(米国)のRichard BoucherとRalph Baricらは、SARS-CoV-2が呼吸器系の各種の細胞にどのくらい感染しやすいかを追跡した。その結果、上気道の細胞から下気道の細胞に向かって感染しにくくなっていて、鼻腔内の細胞が最も感染しやすく、肺の深部の細胞が最も感染しにくいことが明らかになった。(Y. J. Hou et al. Cell http://doi.org/dw2j; 2020)。感染しやすさの勾配は、SARS-CoV-2が細胞内に侵入する際に利用するタンパク質ACE2を発現している細胞の分布と見事に一致していた。
著者らは、このウイルスは最初に鼻の中で足場を固め、その後、気道の中に吸い込まれるときに気道内を下りてゆくのではないかと推測している。この結果は、マスクの使用と鼻洗浄などの予防措置を支持するものと言える。
5月28日
米国でウイルス感染拡大を阻止する機会が見落とされた可能性
米国内で最初に起こったSARS-CoV-2集団感染の起源に関する論文が注目されている。しかし別のゲノム解析で、それを否定する結果が得られた。
2020年2月下旬に広く報じられたゲノム解析結果からは、ワシントン州で数週間前からSARS-CoV-2が静かに広がっていたことが示唆され、アウトブレイクの起源をさかのぼると、ある中国からの旅行者(WA1)にたどり着いた。しかしWA1は、1月15日に米国に到着した直後に当局がSARS-CoV-2感染を検知した人物であり、当局は感染拡大を食い止めるため接触者を徹底的に追跡していた。
それに対し、このほどアリゾナ大学(米国トゥーソン)のMichael Worobeyらが行ったモデル研究の結果は、ワシントン州内でのより広範な大流行の引き金となったのはWA1ではないことを示唆している。研究チームは、ワシントン州内で広がったウイルスが中国から同州に到達したのは2月中旬であることを示す証拠を発見した(M. Worobey et al. Preprint at bioRxiv http://doi.org/dwx3; 2020)。なお、この研究論文はまだ査読を受けていない。
著者らは、WA1が米国に到着した1月中旬から実際の感染源が到着した2月中旬までの4週間が、ウイルスの米国への定着を阻止するための「見落とされた機会」だったと述べている。
5月27日
イスラエルでの感染の多くは少数のスーパースプレッダーによって引き起こされた
イスラエルでは「極めて高いレベル」のスーパースプレッディングにより新型コロナウイルスが全土に広がったことがゲノム解析により明らかになった。
テルアビブ大学(イスラエル)のAdi Sternらは、イスラエル全土の人々から採取した200以上のSARS-CoV-2ゲノムの塩基配列を決定し、解析を行った(D. Miller et al. Preprint at medRxiv http://doi.org/dwvb; 2020)。その結果、感染者のわずか1~10%が二次感染の80%を引き起こしていたことが明らかになり、ウイルスの伝播におけるスーパースプレッダーの役割の大きさが示された。なお、この研究結果はまだ査読を受けていない。
解析から、イスラエルにウイルスを持ち込んだのは米国と欧州からの旅行者であることが明らかになったが、それに加え、米国からの旅行者がその人数に比べて不釣り合いに多くのウイルスを拡散させていたことも判明した。イスラエルが米国からの入国を禁止する前に欧州からの入国を制限し始めていたことがその理由と考えられるという。
5月26日
ウイルスに曝露した子どもは大人に比べて感染を免れることが多い
学術誌に掲載された論文やプレプリント、報告について大規模なシステマティック・レビューを行なった研究から、子どもと20歳未満の青年は、SARS-CoV-2に対し大人よりはるかに感染しにくいことが明らかになった。
ロンドン大学ユニバーシティーカレッジ(英国)のRussell Vinerらは6000編以上の研究を当たり、著者らが求める採用基準を満たすデータを提供している論文を18編見いだした。なお18編のうち7編は査読を受けていた(R. M. Viner et al. Preprint at medRxiv http://doi.org/dwp6; 2020)。
感染者の接触者を追跡した研究は、感染者と接触した子どもが感染する可能性は大人より56%低いことを示していた。この分析は、集団内でのウイルスの拡散に子どもが果たす役割は大人に比べて小さいことを示唆しているが、エビデンスは弱い。著者らは、感染した子どもが大人に比べて感染を広げる可能性が低いかどうかを判断するには、現時点での研究はまだ不十分だと結論付けている。
なお、この研究はまだ査読を受けていない。
5月25日
トランプ大統領お気に入りのヒドロキシクロロキンには効果はないが、レムデシビルは有効
米国のトランプ大統領をはじめとする世界の指導者たちは、抗マラリア薬のヒドロキシクロロキンをCOVID-19の治療薬として喧伝してきた。しかし、10万人近い患者を対象とする研究から、この薬剤には何のメリットもないだけでなく、死亡や不整脈のリスクの上昇と関連していることが判明した。
ブリガム・アンド・ウィメンズ病院心臓血管センター(米国マサチューセッツ州ボストン)のMandeep Mehraらは、COVID-19の治療を受けた9万6000人以上の健康記録を分析した。研究には、6大陸の671病院の患者のデータが用いられた(M. R. Mehra et al. The Lancet http://doi.org/ggwzsb; 2020)。これらの患者のうち約15%が、ヒドロキシクロロキンか、関連薬のクロロキンか、この2種類の薬剤のうちいずれかと1種類の抗生物質の組み合わせを投与されていた。
これらの薬剤を投与されなかった患者と比べると、4つの治療群全てにおいて患者が病院で死亡する可能性が高く、不整脈を発症する可能性も高かった。著者らは、臨床試験に参加する人だけが薬を服用するべきだと述べている。
一方、独立に行われたレムデシビルの試験では、COVID-19で入院した患者にレムデシビルを投与すると、回復までの時間が短くなることが示された。国立アレルギー・感染症研究所(米国メリーランド州ロックビル)のJohn Beigelらは、ランダム化二重盲検試験に参加した1000人以上の患者を調べ、プラセボを投与された患者の回復期間の中央値が15日であったのに対し、レムデシビルを投与された患者では11日であったことを明らかにした(J. H. Beigel et al. N. Engl. J. Med. http://doi.org/dwkd; 2020)。
5月22日
サルの新型コロナウイルス感染を防いだDNAワクチン
SARS-CoV-2に対するDNAワクチンを接種されたサルは、その後、このウイルスに感染しなかった。
ハーバード大学医学大学院(米国マサチューセッツ州ボストン)のDan Barouchらは、SARS-CoV-2感染を食い止めるための戦略を求めてDNAワクチンを研究している(J. Yu et al. Science http://doi.org/dwfb; 2020)。DNAワクチンは、投与された人の細胞内で病原体またはその構成要素を作らせることで免疫系を刺激するタイプのワクチンである(Nature ダイジェスト 6月号「コロナウイルスワクチンの開発レース」参照)。
研究チームは、SARS-CoV-2のスパイクタンパク質に基づくDNAワクチンを6種類開発し、アカゲザル(Macaca mulatta)で試験した。ワクチンを接種されたサルは、SARS-CoV-2感染から回復したサルやヒトに見られる反応と同様の抗体反応を示した。
その後、ワクチンを接種したサルにSARS-CoV-2を投与したところ、軽い症状しか現れなかった。ワクチンを接種したサルでのウイルスの増殖は、ワクチンを接種していない対照群に比べて総じて少なかったが、これはワクチンを接種したサルの免疫系がウイルスを抑制したためと考えられると、著者らは述べている。
5月21日
回復者に見つかった強力な抗体がワクチン開発に希望を与える
ワクチンの機能は通常、体の免疫反応を誘導し、特定のウイルスを排除する抗体を産生させることである。ただし、ウイルスの中には抗体反応を刺激しないものもあるため、全ての疾患に対してワクチンを開発できる保証はない。
ロックフェラー大学(米国ニューヨーク市)のDavide Robbianiらは、SARS-CoV-2感染から回復した68人を調べた結果、全員がウイルスに対してさまざまな量の抗体を産生していたことを明らかにした。これらの抗体の一部は、SARS-CoV-2がヒト細胞に侵入するのを強力に阻止した(D. F. Robbiani et al. Preprint at bioRxiv http://doi.org/ggwfcm; 2020)。なお、この研究はまだ査読が済んでいない。
この強力な抗体は68人全員で見つかったが、その濃度は、回復者の中でも重症だった人々の方が、より軽症だった人々よりも概して高かった。著者らは、これらの強力な抗体を誘導するように設計したワクチンは、普遍的な効力を持つ可能性があると述べている。
5月21日
新型コロナウイルス感染から回復したサルを再感染させても症状を示さなかった
SARS-CoV-2の感染から回復したサルは再感染しなかったが、その効果がどのくらいの期間続くかは不明である。
公衆衛生当局は、SARS-CoV-2に感染した人が再感染する可能性があるかどうかを知る必要がある。ハーバード大学医学大学院(米国マサチューセッツ州ボストン)のDan Barouchらはこの問題を解明しようと、9頭のアカゲザル(Macaca mulatta)に新型コロナウイルスを投与した。サルたちは食欲不振などの軽い症状を示し、ウイルスに対する抗体ができた(A. Chandrashekar et al. Science http://doi.org/dwck; 2020)。
約1カ月後、研究チームはサルに再度ウイルスを投与した。その後2週間にわたり経過を観察したところ、サルの鼻から検出されるウイルスRNA濃度は低く、急速に減少していった。また、肺からはほとんど検出されなかった。これは、SARS-CoV-2の2回目の投与に対して全てのサルが抗体反応によりウイルスを排除したことを示していると著者らは述べている。
5月19日
新型コロナウイルスと古い近縁のコロナウイルスの両方を阻害する抗体
過去に重症急性呼吸器症候群(SARS)から回復した経験を持つ人の血液中から新たに見つかった抗体は、他の人々がCOVID-19と戦うのに役立つ可能性がある。
2003年にSARSの大流行を引き起こしたコロナウイルスは、現在のパンデミックの原因ウイルスであるSARS-CoV-2の遠い親戚にあたる。ワシントン大学(米国シアトル)のDavid Veeslerとウィル・バイオテクノロジー社(Vir Biotechnology;スイス・ベリンツォーナ)のDavide Cortiらは、SARSから回復した患者の血液中に、両ウイルスを認識して阻害する抗体を発見し、S309と名付けた(D. Pinto et al. Nature https://doi.org/dv4x; 2020)。
S309は、両ウイルスがヒト細胞に侵入する際に使用するスパイクタンパク質と結合し、ウイルスの感染性を効果的に阻害する。研究チームは同じ人の血液中から、S309の他にもSARS-CoV-2を標的とする抗体を複数発見した。構造解析により、S309が結合するスパイクタンパク質上の部位は、これらの抗体のいくつかが結合する部位とは異なることが明らかになった。これらの抗体のうちの1つとS309を組み合わせた2種類のカクテルは、それぞれの抗体を単独で使用するよりもウイルスを阻害する能力が高かった(https://www.natureasia.com/ja-jp/research/highlight/13327参照)。
5月18日
新型コロナウイルスは感染者から飼い犬に感染する可能性がある
感染が最初に報告された2 匹の犬は、飼い主から感染した可能性があるという。分析の結果、犬から採取したウイルスの遺伝子配列が感染者のウイルスの配列と同じであることが示された。
香港のSARS-CoV-2感染者の家族と飼い犬を調べた研究チームは、COVID-19患者と同居していた15匹の犬を調べた(T. H. C. Sit et al. Nature http://doi.org/dvt4; 2020)。そのうち、ポメラニアンとジャーマンシェパードの2匹だけがウイルスに感染していた。どちらの犬からもウイルスRNAと抗体が検出され、1匹からは生きたウイルスも検出された。どちらの犬にも顕著な体調不良は見られなかった。
この研究では、ウイルスに感染した犬から他の犬や人間に感染する証拠は示されなかった。
5月15日
サルを肺炎から守った有望なワクチン
実験的な COVID-19ワクチンがサルを肺炎から守り、強い免疫反応を誘導した。
米国立アレルギー感染症研究所(モンタナ州ハミルトン)のVincent Munster、オックスフォード大学(英国)のSarah Gilbertらは、新型コロナウイルスが宿主細胞内に侵入するときに用いるスパイクタンパク質をコードするワクチンを設計した(N. van Doremalen et al. Preprint at bioRxiv http://doi.org/dvvd; 2020)。研究者らは、6頭のアカゲザル(Macaca mulatta)にワクチンを接種した後、高用量のウイルスを投与した。
ワクチンを接種された全てのサルがSARS-CoV-2に対する中和抗体を発現し、ウイルスが細胞内に侵入するのを阻止した。ワクチンを接種されたサルの肺組織中のウイルスRNA濃度は、ワクチンを接種されていないサルに比べてはるかに低く、ワクチンがサルの肺でのウイルスの増殖を止めたことを示唆している。対照群の3頭のサルのうち2頭が肺炎を発症したが、ワクチンを接種されたサルはいずれも肺炎を発症しなかった。この研究はまだ査読を受けていない。
ワクチンの臨床試験が現在進行中である。
5月15日
フランスのロックダウンの解除は、感染急増につながる恐れがある
フランスでは2万人以上がCOVID-19で死亡しているが、5月中旬での感染率は約5%で、集団免疫に必要な65%には程遠い。
パスツール研究所(パリ)のSimon Cauchemezらは、フランスでの新型コロナウイルスの流行のモデルを作成した(H. Salje et al. Science, http://doi.org/dvt3; 2020)。その結果、3月17日に始まったフランスのロックダウンによって、ウイルスの感染拡大が77%減少したことが明らかになった。研究チームは、5月11日にロックダウンが緩和されるまでに人口の4.4%が感染したと見積もっている。
免疫だけで流行を抑えるためには、人口の3分の2程度が免疫を獲得している必要がある。そのため著者らは、集団免疫で「ロックダウン終了時の第二波」を防ぐことはできないとしている。
5月14日
合唱団の練習での「スーパースプレッディング」により数十人が感染
米国ワシントン州で、合唱団の練習に参加した1人の有症状のメンバーから50人以上がSARS-CoV-2に感染した可能性があり、そのうちの2人が死亡した。
スカジット郡公衆衛生局(ワシントン州マウントバーノン)のLea Hamnerらは、地元で発生したCOVID-19に似た症例を多数分析し、2020年3月10日の夜に行われた合唱団の練習にたどり着いた(L. Hamner et al. Morb. Mortal Wkly. Rep. 69, 606-610; 2020)。2時間半におよぶ練習に参加した1人の有症状者は、その後、SARS-CoV-2に感染していることが明らかになった。この人物と一緒に練習に参加していた60人のうち32人が発症し、COVID-19であることが確認された他、その後に発症した20人もSARS-CoV-2に感染している可能性が高いとされた。
合唱団のメンバーが狭い間隔で整列して座り、長時間歌っていたことが、ウイルス感染の一因となった可能性がある。こうしたスーパースプレッディング現象は、ウイルス感染を防ぐために人ごみや密接な交流を避けることの重要性を強調していると著者らは述べている。
5月14日
小児の感染者は年少であるほど入院となる可能性が高い
小児のCOVID-19患者に関する欧州で最大規模の研究から、小児患者の死亡リスクは成人患者よりも低いことが明らかになった。
トリノ大学(イタリア)のSilvia Garazzinoらは、COVID-19の症状で病院や診療所を受診した18歳未満の小児のうち、SARS-CoV-2に感染していると判定された168人について追跡調査を行なった。168人は全員、完全に回復した(S. Garazzino et al. Preprint at Eurosurveillance http://doi.org/dvk8; 2020)。なお、この研究はまだ査読を受けていない。
1歳未満の乳児の感染者の場合、80%近くが入院したのに対し、11~17歳の感染者で入院したのは53%だった。イタリア全体の調査では、一般的な入院率に占める小児の割合は4%程度とかなり低い。
小児の感染者の3分の2は少なくとも親の1人が感染しており、親は子が感染する前に発症していることが多かった。
5月13日
ニューヨーク市内の感染ホットスポットは通勤者が多い地区
米国ニューヨーク市内で3月〜5月にCOVID-19のホットスポットとなった地区は、過去3カ月間に最も多くの通勤者が住んでいた地区と相関している。
ニューヨーク市内のCOVID-19による死亡や入院は、地区ごとに大きなばらつきがあった。その理由を解明するため、ハーバードT.H.チャン公衆衛生大学院(マサチューセッツ州ボストン)のStephen Kisslerらは、出産のために6つの市立病院に入院した女性約1700人のSARS-CoV-2検査結果をまとめた(S.M. Kissler et al. Preprint at https://bit.ly/2Aq7dpb; 2020)。
研究チームは、感染していた女性の郵便番号を分析することで、地区ごとの有病率を推定した。さらにこの情報を、ニューヨーク市内のFacebookユーザーの位置情報推移データと比較した。この情報からは、それぞれの地区に毎日出入りする人数が分かる。その結果、各地区の感染率と住民の移動回数の間に関連があることが明らかになった。
通勤者の多くはおそらく「エッセンシャル・ワーカー(医療従事者、スーパーや薬局の従業員、公共交通機関で働く人など、社会を支えるために欠かせない仕事に従事する人々)」であり、ウイルスの拡散を防ぐためには、こうした人々を保護しなければならないと著者らは述べている。
5月12日
新型コロナウイルスに対する抗体反応は、スパイクタンパク質に対するものだけではない
SARS-CoV-2に感染した人は、このウイルスの複数のタンパク質に対して抗体を作ることが明らかになり、より有効なワクチンや、すでにウイルスに感染していて免疫を持っている可能性のある人を特定するための、より感度の高い検査につながることが期待される。
香港大学のNiloufar KavianとSophie Valkenburgらは、SARS-CoV-2に対する免疫において、このウイルスのどのタンパク質が抗体の標的となっているかを明らかにしたいと考えた。
研究チームは、15人のCOVID-19患者が11種類のウイルスタンパク質に対して持つ抗体の量が、パンデミック前に健康な人々が持っていた抗体の量より多いことを発見した(A. Hachim et al. Preprint at medRxiv http://doi.org/ggtrxh; 2020)。さらに、これらのタンパク質のうち3種類に対する抗体の検査により、感染者と健康な対照群とを区別することができた。
ワクチンや診断検査の開発に向けたこれまでの取り組みの多くは、スパイクと呼ばれるウイルスタンパク質に焦点を当てたものである。論文の査読はまだ済んでいないものの、今回の結果は、スパイクタンパク質以外のタンパク質もSARS-CoV-2に対する免疫の決定因子として重要である可能性を示唆している。
5月11日
少数民族のCOVID-19死亡リスクが高いという厄介な謎
有色人種は白人に比べてCOVID-19で死亡するリスクが大幅に高く、既往歴や社会経済的要因ではリスクの高さのごく一部しか説明できない。
オックスフォード大学(英国)のBen Goldacreらが、この種のものとしては最も広範な研究として、イングランドの1700万人以上の住民の医療記録を調査した(E. Williamson et al. Preprint at medRxiv http://doi.org/dt9z; 2020)。査読はまだ済んでいないものの、分析の結果、糖尿病などの疾患が新型コロナウイルスによる死亡リスクの高さと関連していることが明らかになった。
しかし、少数民族集団に属する人々におけるそうした疾患の有病率は、低所得などの社会的不利益の割合と同様、死亡リスクの上昇にわずかな役割しか果たしていない。研究者らは、少数民族の人々を疾患から守るためのより良い対策をとることが急務であると述べている。
5月8日
COVID-19から回復した人には強い抗体反応が見られることが多い
1300人以上の有症状者を対象とする調査から、COVID-19から回復した人のほぼ全員が、SARS-CoV-2に対する抗体を作ることが分かった。
マウントサイナイ・アイカーン医科大学(米国ニューヨーク市)のAnia Wajnberg、Carlos Cordon-Cardoらは、研究に参加した感染者の99%以上が最終的に抗体を作ることを見いだした。このことは、どのくらいの期間かは不明だが、彼らが再感染しないことを示唆している(A. Wajnberg et al. Preprint at medRxiv http://doi.org/dt5t; 2020)。免疫反応はゆっくり起こる可能性がある。研究に参加したボランティアの中には、SARS-CoV-2に対する抗体が検出可能な量になるまでに、発症から1カ月かかった人もいた。研究チームは、年齢や性別は抗体を発現する可能性に影響を及ぼさないことを発見した。
また、研究に参加したボランティアの約20%が、症状が治まってから2週間以上経過しても、ウイルスRNAの陽性反応を示した。この結果は、体からウイルスが排除されたかどうかを判断する指標として、ウイルスRNAは良い指標ではないことを意味している可能性がある。なお、この研究はまだ査読を受けていない。
5月7日
誰でもできる新しい新型コロナウイルス検査
このほど開発された遺伝子編集システムCRISPRを使用した検査は、特殊な機器や訓練を受けたスタッフを必要とせずに、1時間でSARS-CoV-2を検出できる。
現行のSARS-CoV-2検出法は、高価な実験装置と希少な試薬を必要とする。ブロード研究所(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)のFeng Zhangらは、現行の手法よりも短い時間で簡単にSARS-CoV-2を検出できる検査法の開発に取り組んだ。研究チームが開発したCRISPRベースのプロトコルは、40ドル(約4300円)以下のスロークッカー(煮込み料理用の電気調理器具)があれば、素人でも行うことができる(J. Joung et al. Preprint at https://go.nature.com/35csgqk; 2020)。検査結果は、妊娠検査で使用されるものに似た紙片に出てくる。なお、この論文はまだ査読を受けていない。
研究チームによると、この検査は小規模な病院や職場など、迅速な診断が必要とされる場所で使用することができるという。
5月6日
ウイルスを迅速に作製する手法
酵母細胞を使い、他の手法よりもはるかに迅速に人工SARS-CoV-2ゲノムを合成することに成功した。
SARS-CoV-2ゲノムはRNAからなるが、ベルン大学(スイス)のJoerg JoresとVolker Thielらが開発したプロトコルでは、SARS-CoV-2ゲノムを重複のある12の断片に分割し、それをDNAに変換した短配列を用いる(T. T. N. Thao et al. Nature http://doi.org/ggttcr; 2020)。研究チームがこれらの合成DNA短配列を出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)細胞に挿入すると、酵母はそれをつなぎ合わせて完全なウイルスゲノムを構築した。
研究チームは、この合成ゲノムを再びRNAへと変換し、RNA鎖をヒト細胞に挿入することで、生きたウイルスを作製した。人工コロナウイルスの作製に要した期間は1週間だった。この技術を使えばウイルスを迅速に組み立てることができるので、ウイルスの新たな変異の生物学的影響を調べるのに役立つと研究チームは述べている(https://www.natureasia.com/ja-jp/research/highlight/13311参照)。
5月5日
中国が感染拡大を阻止できた理由は単純ではない
新たな証拠は、SARS-CoV-2の流行を抑制するために中国がとった学校閉鎖や旅行禁止などの痛みを伴う措置に、それだけの価値があったことを示している。
ブルーノ・ケスラー財団(イタリア・トレント)のMarco Ajelli、復旦大学(上海)のHongjie Yuらは、当局が厳格なロックダウンを義務付けた後、上海と武漢の市民では、1日に接触する人の数が15~20人から約2人まで減少したことを見いだした(J. Zhang et al. Science http://doi.org/ggthtr; 2020)。この思いきったソーシャルディスタンシング(社会的距離確保施策)は、2つの都市の感染拡大を抑え込むのに十分だった。
研究チームのモデル研究によると、上海では、学校閉鎖だけでは感染拡大を阻止することはできなかったと考えられるが、流行のピーク時の1日当たりの新規感染者数を少なくし、病院の負担を軽減することはできただろうと予想している。
サウサンプトン大学(英国)のShengjie Laiらによる別の研究は、中国でのSARS-CoV-2の封じ込めには、感染の迅速な検出と感染者の隔離が最も効果的な手段だったことを示している(S. Lai et al. Nature http://doi.org/dtr4; 2020)。しかし、このような措置をとっていたとしても、当局が旅行と社会的相互作用も規制していなければ、感染者数ははるかに多くなっていたはずだ。
感染症対策があと3週間遅れていたら、中国の感染者数は18倍になっていたかもしれないと研究チームは述べている。
5月4日
ウイルス酵素のポートレイトは治療薬探しに役立つかもしれない
SARS-CoV-2の重要な酵素が作用している様子を分子レベルで捉えたスナップショットは、実験的治療薬であるレムデシビル(remdesivir)などの薬物がウイルスを攻撃するしくみを解明するための手がかりを与える。
レムデシビルはウイルスのRNA依存性RNAポリメラーゼという酵素の作用を阻害する化合物で、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の回復を早めることが初期の治験で示されている。
マックス・プランク生物物理化学研究所(ドイツ・ゲッチンゲン)のPatrick Cramerが率いるチームは、低温電子顕微鏡法と呼ばれる画像技術を用いて、この酵素がウイルスの遺伝物質を複製しているときの3D形状をマッピングした(H. S. Hillen et al. Preprint at bioRxiv http://doi.org/dtgw; 2020; 投稿前の査読なし)。研究者らは、このポリメラーゼのさらなる研究が、新しい抗ウイルス化合物の同定につながることを期待している。
上海マテリアメディカ研究所(中国)のEric Xuが率いる別のチームは、このポリメラーゼがレムデシビル分子を組み込んだRNA断片と結合しているときの構造を決定した(W. Yin et al. Science http://doi.org/dtnb; 2020)。この結果は、ポリメラーゼの活性を阻害する強力な薬物の設計に役立つ可能性があると著者らは言う。
5月1日
免疫系は新型コロナウイルスに対して異常な反応を示す
SARS-CoV-2に感染した細胞とフェレット、ヒトでの分析から、このウイルスに対する免疫反応は、他の呼吸器ウイルスに対する反応とは異なっているという。この発見は、免疫系を標的とする治療がCOVID-19患者に有効かもしれないという考えを裏付けるものである。
マウントサイナイ・アイカーン医科大学(米国ニューヨーク市)のBenjamin tenOeverらは、SARS-CoV-2に感染した細胞は、他の呼吸器ウイルスに感染した細胞に比べて、インターフェロンと呼ばれる抗ウイルスタンパク質の濃度が異常に低いことを発見した(D. Blanco-Melo et al. Cell https://doi.org/10.1016/j.cell.2020.04.026; 2020)。しかし、SARS-CoV-2に感染したフェレットやヒトでは、より一般的な免疫反応を活性化させるIL-6などのタンパク質の濃度が、感染していない対照群に比べて高かった。
この結果は、免疫不均衡を示唆している。すなわち、インターフェロン濃度が低いために細胞は、ウイルスの複製を阻止する能力が低下し、一方で、より特異性の低い免疫反応が活性化する。その結果、炎症が促進されると著者らは考えている。
翻訳:三枝小夜子
Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 6
DOI: 10.1038/ndigest.2020.200612a
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