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ピュリッツァー賞作家が伝授、読ませる論文の書き方

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 6 | doi : 10.1038/ndigest.2020.200621

原文:Nature (2019-09-26) | doi: 10.1038/d41586-019-02918-5 | Novelist Cormac McCarthy’s tips on how to write a great science paper

Van Savage, Pamela Yeh

2人の研究者が、小説家コーマック・マッカーシーから学んだコツをお裾分けする。

コーマック・マッカーシーの小説『血と暴力の国』を原作とする2007年の映画「ノーカントリー」で、俳優ジョシュ・ブローリンが演じるベトナム帰還兵ルウェリン・モスの後ろ姿。 | 拡大する

ALLSTAR PICTURE LIBRARY/ALAMY STOCK PHOTO

米国の小説家コーマック・マッカーシー(Cormac McCarthy)は、20年前からサンタフェ研究所(ニューメキシコ州)のシニアフェローとして研究所内にオフィスを持ち、執筆活動の傍ら、多くの教職員やポスドクのためにコピー・エディティング(文章の編集)を買って出ている。『ザ・ロード』『血と暴力の国』『ブラッド・メリディアン』など10冊の小説を上梓しているベストセラー作家が、複雑系の学際研究で有名なサンタフェ研究所と深く関わるようになったのは、研究所の設立者の1人である博覧強記の物理学者マレイ・ゲル=マンと1990年代に意気投合したことがきっかけだったという。マッカーシーは、ハーバード大学で女性として初めて終身在職権を持つ理論物理学教授となったLisa Randallや、一般向けの科学書『Scale』の著者である物理学者Geoffrey Westらの著作のエディティングにも協力している。理論生物学者で生態学者であるVan Savageは、2000年にマッカーシーと出会い、大学院生からポスドクまでの約4年間をサンタフェ研究所で過ごした。Savageは、この20年間に出版した科学論文のいくつかで、マッカーシーから編集上の貴重な助言を受けている。2018年の冬の長期休暇はサンタフェ研究所で過ごし、週に一度、マッカーシーとにぎやかに昼食を取っていた。2人はその際、論文執筆に関するマッカーシーの助言を要約し、幅広い科学者に教えられる形にした。今回は、このようにしてまとめた助言を、進化生物学者Pamela Yehの意見と併せて紹介する。マッカーシーが最も重視するのは、文章を簡潔に保ちつつ、説得力ある一貫した物語を語ることだ。それでは、SavageとYehが伝えるマッカーシーの英知の言葉をどうぞ。

明快な論文を書きたいならミニマリストになることだ。この句読点、この単語、この文、この段落、このセクションがなくても言いたいことは伝わるのではないか、と考えながら文章を書こう。余計な単語やコンマがあれば取り去ること。

論文のテーマと、全ての読者に覚えておいてほしいポイントを2つか3つ決める。このテーマとポイントが、論文を貫く1本の糸になる。単語、文、段落、セクションをつづる作業は、論文をまとめ上げるための針仕事だ。読者がメインテーマを理解するのに必要ないものがあれば削除しよう。

1つの段落で伝えるメッセージは1つだけにすること。1つの文を1つの段落とするのは構わない。各段落では、最初に問い掛けをしてからアイデアへと進み、時に答えに到達するという形でメッセージを伝えていく。1つの段落の中で問題を提起し、答えを出さずにおくのもありだ。

文は短く、構文は単純に、遠回しな言い方はしない。科学的な説明には簡にして要を得た文が良い。読者が主なメッセージに集中できるように、従属節や重文や転換語―「however(とはいえ)」や「thus(かように)」など―は、なるべく使わないようにする。

読者のペースを乱さないように。脚注は避けよう。読んでいるときにページをめくる、リンクをクリックするなどの目を前後に動かす作業が入ると、読者の思考の流れを遮ってしまうからだ。専門用語や流行りの言葉、過度に技術的な用語はなるべく使わないように。同じ単語を繰り返し使ってはいけない。うんざりするからだ。

文章をゴテゴテと飾り立てないこと。形容詞は本当にふさわしいものだけを使うように。論文は想定問答集ではないので、読者からの質問を先回りすることに必死になり過ぎてはいけない。1つのセクションの中で、同じことを3通りの表現で言うのはやめよう。「elucidate(説明する)」と「elaborate(詳述する)」の両方を使ってはいけない。どちらか一方にしないと、読者は論文を放り出してしまうかもしれない。

読者の中には、あらゆる機会を捉えて本筋から外れた議論をしようとする人や、あらゆる主張に対して考えられる限りの条件を付けようとする人もいるが、気にし過ぎないように。楽しく書こう。

文法について言えば、初稿の手引きには、文法書よりも話し言葉と常識の方が役に立つ。文法的に完璧な文を書くことよりも理解されることの方が重要だ。

コンマは話し手の小休止を意味する。文頭の「In contrast(これに対して)」という句の後ろにコンマが必要なのは、文の最初の2語を残りの語句から区別するためではなく、この文が前の文と違っていることを強調するためだ。小休止する箇所を見つけるには、文を読み上げればよい。

ダッシュ(—)は、あなたが最も重要だと考える節を—ボールド体にしたりイタリック体にしたりすることなく—強調するためのものであり、単に用語を定義するために使うものではない(節を括弧に入れると、コンマで区切るよりも穏やかに挿入することができる)。関連の薄い思い付きを結び付けるためにセミコロン(;)に頼ってはいけない。悪文になるだけだ。「isnʼt」「donʼt」「shouldnʼt」などの短縮形は、時々なら使ってよい。堅苦し過ぎてはいけない。重要な点に注意を引きつけるためにエクスクラメーションマーク(!)を使わないこと。代わりに「surprisingly(意外なことに)」「intriguingly(興味深いことに)」を使うのはいいが、使い過ぎないように。使っていいのは1本の論文で1回か2回だけだ。

語調は大切

折に触れて問い掛けや少し砕けた言葉を入れて語調を崩し、親しみやすい雰囲気を保とう。この点で口語表現は有用だが、1つの狭い領域でしか通じないような表現はいけない。自分を主語にした文も、読者の心をつかむのに有用だ。自分を主語にしない方が客観的に見えると信じている人もいるが、そんなことでだまされる読者はいない。「我々は太陽系の中心にいる」を「地球は太陽系の中心である」と言い換えても、その内容が客観的でも事実でもないことに変わりはない。

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Maica/E+/Getty

具体的な言葉と例を選ぶこと。抽象的な球体の色について語るときには、球体を赤い風船や青いビリヤードボールとして語る方が、読者を強く引きつけられる。

文章の中に方程式を入れてはいけない。数学は英語ではないので、数式を英文として扱ってはならない。方程式を文章から分離するには、改行、空白、補遺、直観的な表記法、そして、仮定を方程式に翻訳し、方程式を結論に翻訳するやり方を分かりやすく説明する、などの方法がある。

書き終わったと思ったら声に出して読み、自分の耳で聞くか、友人に聞いてもらうように。信頼でき、あなたの論文のために時間と頭をしっかり使ってくれる、良いエディターを見つけよう。エディティングをしてくれる友人ができるだけ楽にそれを行えるように配慮すること。ページ番号を付け、行間はダブルスペースに。

全ての作業が終わったら、科学雑誌に論文を投稿する。査読者や編集者が何か言ってくるまでは、論文のことはなるべく考えないように。何か言ってきたら、「全ての人があなたを疑っても自分自身を信じなさい。ただし、彼らがあなたを疑うことも許しなさい」というラドヤード・キップリングの言葉を思い出すと有益なことが多い。書き換えた方がいいと思った部分は書き換え、そう思わない部分は、なぜ元のままにするのか丁寧に説明すること。

オックスフォード・コンマ(例えば「A, B, and C」と書くときの、Bの後ろのコンマ。オックスフォード大学出版会が使用することからこう呼ばれる)、「significantly(有意に)」の正しい使い方、関係代名詞を「that」にするか「which」にするかについて、編集者にかみ付いてはいけない。それぞれの学術誌には独自のスタイルとセクションがある。あなただけ例外扱いというわけにはいかないのだ。

最後に、自分なりに最高の論文、自分の気に入る論文を書くようにしよう。顔のない読者を喜ばせることはできなくても、自分を喜ばせることならできるはずだ。あなたの論文―あなたの希望―は、後世の人々のためにある。感動した論文を初めて読んだときのことを思い出しながら、論文執筆のプロセスを楽しもう。

あなたの文章が、もっと生き生きした、理解しやすいものになれば、人々はあなたの作品をじっくり読もうとするだろう。あなたが若手科学者であるにしろ世界的に有名な小説家であるにしろ、それこそが求めるものではないだろうか?

(翻訳:三枝小夜子)

Van Savageはカリフォルニア大学ロサンゼルス校(米国)と サンタフェ研究所(米国ニューメキシコ州)の理論生物学・生態学者。Pamela Yehはカリフォルニア大学ロサンゼルス校と サンタフェ研究所の進化生物学者。

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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