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琥珀に閉じ込められた超小型恐竜の完全な頭蓋

Nature 2020年3月12日号245ページに掲載されたJingmai O’Connor氏を責任著者とする論文は、この化石標本を恐竜に分類した点に誤りがあり、不正確な情報が文献に残るのを防ぐために、著者らにより撤回されました。

撤回理由
https://www.nature.com/articles/s41586-020-2553-9

撤回に関するNature News
https://www.nature.com/articles/d41586-020-02214-7

オクルデンタビスの頭蓋は長さが2cm足らずと、極めて小さい。 Credit: Lida Xing

ミャンマー産の小さな琥珀片の中に、極めて小さな恐竜の頭蓋化石がほぼ完全な形で保存されているのが見つかり、新属新種としてNature 2020年3月12日号245ページで記載報告された1。大きな眼とくちばしの歯列が特徴的であることから、「オクルデンタビス・カウングラアエ(Oculudentavis khaungraaeOculudentavisはラテン語で「眼歯鳥」を意味する)」と命名されたこの恐竜は、頭蓋の長さが2cm未満、推定体重は2g程度で、推定体サイズは最小の現生鳥類マメハチドリのそれと同等という。オクルデンタビスは既知の中生代恐竜の中では最小で、恐竜の小型化の時期や進化的過程について貴重な手掛かりをもたらすと期待される。

今回の研究の主導者の1人、中国科学院古脊椎動物古人類学研究所(北京)の古生物学者Jingmai O’Connorは、「オクルデンタビスの発見で、全く新しい恐竜系統が明らかになりました」と話す。

この琥珀片はミャンマー北部のカチン州で発見されたもので、年代は約9900万年前と推定される。封入されていた頭蓋化石はこのサイズの標本としては保存状態が極めて良好で、他のどの中生代恐竜や鳥類とも違う特徴が多数見られた。オクルデンタビスの眼の強膜輪はトカゲ類のみに見られる形状をしており、瞳孔は小さかったと見られ、昼行性の生活が示唆される。また、眼が頭蓋の側面にあることから、両眼立体視の能力はなかったようだ。一方、小さなくちばしには数十本の歯が眼窩の下まで並び、その鋭さと形状から、この恐竜が昆虫などの小型無脊椎動物を捕食していたことが推測される。こうした独特な特徴を持つ超小型の恐竜がこの年代に存在したことは、恐竜類の小型化が従来の想定よりもはるかに早く起きていたことを示しているという。

「これは本当に素晴らしい標本です」と語るのは、ジョンズホプキンス大学(米国メリーランド州ボルティモア)の進化生物学者Amy Balanoffだ。化石記録は一般に、堆積岩中に保存された大型の生物として見つかることが多いが、琥珀に封入されたこの頭蓋化石についての解釈が正しければ、現生鳥類に見られるような生態学的・形態的多様性がかなり古くから存在したことを示す強力な証拠になると、Balanoffは説明する。「進化的にどの位置に落ち着くとしても、重要な化石であることに変わりはありません」。

今回の化石には軟組織も保存されているが、そこに含まれる生体分子など、形態以外の要素を調べるには、標本を傷つけずに研究する技術の開発が必要だとO’Connorは言う。

琥珀は過去を垣間見せてくれる貴重な存在だが、「紛争が続くミャンマー北部でのこうした化石の発見は、研究者たちが直面しているジレンマを浮き彫りにするものでもあります」と、ウィスコンシン大学ミルウォーキー校(米国)の古生物学者Victoria McCoyは語る。ミャンマーの政治情勢や琥珀鉱山の状況から、琥珀を扱うこと自体に疑問を抱く研究者は少なくない。McCoyは、そうした葛藤に駆られながらも琥珀の研究を続けている1人だ。「琥珀を扱う研究者であれば、誰もが考えるべき問題です」。

翻訳:小林盛方

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 5

DOI: 10.1038/ndigest.2020.200502

原文

This miniature skull belonged to a 2-gram dinosaur
  • Nature (2020-03-11) | DOI: 10.1038/d41586-020-00668-3
  • Giuliana Viglione

参考文献

  1. Xing, L. et al. Nature 579, 245–249 (2020).