学術界サバイバル術入門 — 自分に合った研究の場を見つける②
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前回は、新しい研究ポジションを探す際に、地域やトピックの傾向を調べることがいかに重要かをお話ししました。次の重要なステップは、これまであなたが知り得たことを活用して、応募したいポジションを見つけることです。これには、直接研究者に連絡する、またはオンラインデータベースで求人を探す、という2つのアプローチがあります。
直接研究者に連絡する
大学院またはポスドクのポジションを探しているなら、研究チームに空きポジションがあるかどうかを、シンプルに研究者に尋ねることを考えてみてもいいでしょう。例えば、地域やトピックの傾向について調べ、それが自分の興味や専門性と一致すると分かれば、おそらく一緒に働きたい研究者も特定できていることでしょう。では、相手にメールして、ポジションに空きはあるか尋ねるべきでしょうか? 答えはノーです。その前に、戦略を立てる必要があります。
最初に、コンタクトを取りたい研究室または個人のウェブサイトや彼らの最近の論文を読んで、彼らがどのようなことに興味を持っているのか、そして彼らは研究をどのような方向に持っていこうとしているかを調べます。また、Dimensions1のようなデータベースで検索して、どのようなタイプの交付金が下りているのか、その交付金の支給期間はどれくらいかを調べることもできます。こうした情報は、このチームが近い将来どのようなタイプの研究を行うかを予測する手掛かりとなります。それにどんな場合も、資金の潤沢な研究チームに加わることはあなたにとって有益なはずです!
情報を集めたら、彼らが最近発表した論文の1つについて、メールを送りましょう。ただし、このメールは慎重に書かなければなりません。このメールであなたの第一印象が決まるのですから。最初にあなたがその論文に興味を持った理由を手短に述べます。そうすることで、あなたが研究を理解していることが彼らに伝わります。次に、短く自己紹介してから、あなたの研究について簡潔に記し、その論文の研究とどのようにつながっているかを述べます。これによって、あなたがどんなことに興味を持っているか、そして、あなたがその研究チームに加わるにふさわしいことを、はっきりと示すことができます。さて、メールの最も重要な部分に来ました。「質問」です。その論文の実験または解釈のいくつかについて、質問を2、3しましょう。これらの質問は、あなたの専門性を示せるくらい洞察に満ちたものであるとともに、相手の研究者たちの役に立つ建設的なものであるべきです。「おお、それは良い質問だ!」という反応を引き出せるような質問をしましょう。
これらの質問が不可欠であるのは、以下の2つの理由によります。1つ目は、すでにお話ししたように、あなたの知識と専門性(トピックと技術の両方)を示すことです。2つ目は、こうすることで、研究者から返事をもらえるからです。ただ、あなた方の論文は素晴らしいと述べるだけなら、おそらくメールの返事は来ないでしょう。彼らは非常に忙しい人たちですから、返事を書く気持ちを起こさせなければなりません。質問すれば、返事をもらえる可能性が出てきます。ただし、良い質問なら、ですよ。返事をくれたら、しめたもの。関係を築くことができたのです。これがあなたの目的だったのですから。
ここで注意が1つ。メール攻撃で相手を困らせてはいけません。彼らの論文について、時々メールを送るくらいにとどめましょう。また、その分野でそのトピックについて発表されている他の論文を読んで、彼らの論文の洞察をくみ取りましょう。しかし、彼らに送るメールの内容は常に、あなたが洞察に満ち、知識も豊富だということを示せるものでなくてはなりません。その研究チームに関連する他の研究の強みと弱点について考察し、その後で、彼らの意見を求めましょう。このようにメールでの対話を重ねていくうちに、あなたは相手の研究者との関係をさらに深め、自分の専門性をしっかりと示すことができるのです。
こうした関係構築が、なぜそれほど重要なのでしょうか? いったんその研究者との良好な関係を確立してしまえば、彼らの研究チームに、ポジションの空きがあるかどうかを尋ねることができるからです。この頃までには、おそらくあなたは、自分が(1)彼らの研究室にうってつけの人材であり、(2)彼らの研究にプラスとなる貢献ができることを証明できていることでしょう。その研究者が新しい学生やポスドクを募集していなくても、あなたのためにチーム内にポジションを見つけてくれるかもしれません。
この戦略には時間と粘り強さ、そして決意が必要です。たとえその覚悟で臨んでも、アプローチする誰もがあなたとの関係を確立してくれるというわけではないでしょう。しかし、そうした関係を築いてくれる人たちこそが、おそらくあなたが一緒に働きたい人々なのです。その証拠に、私は以前この戦略を使って、2つのポスドクボジションを得るのに成功したのですから!
オンラインデータベース
より時間のかからない戦略、あるいは教授/教員職に応募するとき使用すべき戦略は、Nature Careers2やScience Careers3などのオンラインデータベースでの職探しです。
このアプローチにそれほど時間がかからないのはなぜでしょうか? それは単に、先ほど述べた関係構築にかかる時間をほぼスキップできるからです。つまり、すぐに応募できるということです。しかし、やはりこのアプローチでも、先ほどお話ししたことの多くが当てはまります。ただし、何通もメールを送るよりも、添え状であなたの知識や関心を強調するのがいいでしょう。ですから、応募先の研究者たちの論文や交付金のことを熟知しておくことと、その分野の現在のトレンドに馴染んでおくことは、不可欠なのです。さらに、このシリーズでこれまでにお伝えしてきたアドバイスに従っているなら、あなたはすでに自分の分野で評判を確立し、ネットワークを築き始めていることでしょう。こうした関係は、限られた研究ポジションを他の人たちと競い合うときには、非常に重要になるでしょう。
教授/教員職を探している場合は、データベースが主要な方法となることが多いでしょう。これらのデータベースでは、履歴書(CV)をアップロードできます。ただし、それで安心してただ待っているだけでは、良いポジションのオファーが来ることは期待できません。そういったオファーは、それほど多くはないのです。自分から研究ポジションを探して、積極的に応募する必要があります。
あなたはすでに、関心を持っているトピックやトレンド、そして地域を特定していますから、それらを検索ワードとして使い、あなたの興味と一致するポジションを探しましょう。それぞれのポジションについて、与えられている情報を慎重に検討します。この作業は、応募者たちの中であなたが最も適した候補者であると雇い主を納得させるために必須です。納得させるには、雇い主がまさに何を求めているかを理解していなければならないからです。何度も強調されている重要なキーワードがありませんか? 例えば、学際的とか、トランスレーショナル(橋渡し)といった言葉です。さらに、どのような資格が最低限必要、あるいは望まれていますか? その研究チームまたは部門の現在の強みは何ですか? 彼らは新しい専門知識や技術を求めていますか? それとも現状をただ強化しようとしているだけでしょうか? 雇い主が何を求めているかを正確に把握しておけば、あなたがそのポジションにうってつけの人材であると相手が納得することでしょう。
求人票を読んだら、次にその研究者または部門のウェブサイトを見て再検討しましょう。彼らの過去の成果(良質な論文発表)、彼らの現在の関心、そして彼らが将来達成したいと考えていることを特定しましょう。
また、利用できる施設についても調べておきましょう。もしあなたが、新しい疾患のマウスモデルの作製を提案するつもりだとしたら、彼らはそれを実行できる施設を持っているでしょうか?
それから、この研究チームや部門で職を得ることができた場合のことも考え、同僚となる人々のことや、その大学/研究所の他の部門の様子についても調べておきましょう。あなたが添え状で述べる将来の研究において、共同研究できる可能性を見いだすことができますか? 雇う側はどんなときも、チームの他のメンバーとうまくやっていける人を探しているものなのです。
その研究チーム、部門、または大学/研究所ですでに働いている知り合いはいますか? もしいるなら、そうした人々にコンタクトを取って、この役職に関するさらなる情報を得ることを考慮してもいいでしょう。広告は常に、現実よりもはるかに美しく描かれているものです。そこで実際に働くのはどんな感じなのでしょうか? その手掛かりを得ることができれば、本当にこのポジションに就きたいかどうか、気持ちに変化が表れるかもしれません。また、そうした知人たちは、あなたが応募した際に、雇い主に口添えもしてくれるかもしれませんよ!
教授/教員のポジションの場合、この役職における教育や管理の責任はどのようなものでしょうか? 研究所や大学によって、研究よりも教育に重きを置くのか、またはその逆の方針なのかは、それぞれで異なるでしょう。それは、あなたの関心やあなたがメンバーとなった後に達成したいと考えている目標に合ったものでしょうか? 教授職においては永久的な役職となる可能性が高いということを念頭に置き、慎重に選択するようにしましょう。最後に、この点に関連して、その研究所や大学でのキャリア開発や終身在職コースはどんなものか調べておきましょう。それは、あなたが教職の地位に求めているものでしょうか?
以上をまとめると、あなたは応募前に、応募するポジションが、あなたの研究的興味に合ったものであること、研究環境や共同研究の状況が良い刺激を与えてくれるものであること、適切な設備が整っていてあなたの成功や目標達成を助けてくれるものであることを確認しておくべきでしょう。
学術界サバイバル術入門 ― Powered by Nature Research Academies ―
次回は7月号掲載予定です。
次回は、これらの情報全てを統合して、相手に強い印象を与える添え状を書くやり方、そしてベストな第一印象を与えるためのプロフェッショナルな履歴書(CV)を用意する方法についてお話しします。
(翻訳:古川奈々子)
ジェフリー・ローベンズ(Jeffrey Robens)
Nature Masterclasses 筆頭講師。自然科学分野で多数の論文発表と受賞の経験を持つ研究者でもある。
Nature Masterclasses は、科学コミュニケーションの基礎から、よりインパクトの高い発表戦略、研究データの原則や、助成金申請、求人応募、臨床研究方法論ほか、学術界で成功するためのノウハウを提供するワークショップです。
Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 5
DOI: 10.1038/ndigest.2020.200532
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