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南極大陸沖で新たな島を発見

西南極のパインアイランド湾で2020年 2月に発見された島。氷と海面の間に岩が見える。 Credit: GUI BORTOLOTTO

西南極(南極大陸の西半球部分)の沖で2020年2月、地図に載っていない島が発見された。研究者らが西南極の氷河の現状を調べる調査旅行で見つかった。この発見は、地球温暖化で南極大陸がどのように、また、どれほど速く変化しているかを知る手掛かりになる。

「岩が見えたと思います!」と乗組員が叫んだ。2020年2月、全米科学財団(NSF;本部・バージニア州アレクサンドリア)が借り上げている砕氷調査船ナサニエル・B・パルマー号が西南極のパインアイランド湾を通過しているときだった。乗組員たちが海図を調べ、未発見の島が見えていることが分かった。乗船した誰もが島を見ようと駆けつけ、船は興奮に包まれた。

島は、パインアイランド湾内の南緯75度6分、西経102度49分にあり、全長400m弱、面積は5万m2ほど。周囲を海に囲まれていた。氷で覆われているが、氷と海面の間に岩が見えた。ヒューストン大学(米国テキサス州)の海洋地質学者Julia Wellnerは「騒ぎはすぐに、この発見の科学的意味をめぐる興奮に変わりました」と振り返る。

Wellnerは、西南極の巨大な氷河を研究する、国際的な「スウェイツ氷河沖研究プロジェクト(THOR)」(Nature 2020年2月27日号500ページ参照)の研究主宰者(PI)の1人だ。この島は、人工衛星から見えるほど大きいが、氷で覆われているため、これまで発見されなかったと考えられる。これほど南を通過する船はほとんどないので、Wellnerらのチームがおそらく、この島を見つけた最初の人間だろう。

Credit: johnwoodcock/DigitalVision Vectors/Getty

島の周辺は、2014年ごろまで氷棚(氷河が海上に押し出されたもの)で覆われていた。島が姿を現した最大の原因は、氷棚が後退したためだとWellnerは考えている。氷棚が後退した原因の1つは地球温暖化とみられている。この島がどれほど前から海面上に存在しているのかはまだ分かっていない。

テキサスA&M大学コーパスクリスティ(米国)の氷河地質学者Lindsay Prothroは、氷河が西南極で後退したため、地殻にかかる圧力が減り、地殻が反発、上昇した可能性を指摘する。この新しい島から試料を集めれば、南極大陸がどれほどの速度で上昇しているかを決めるのに役立つ可能性がある。そのデータがあれば、周辺の氷河の振る舞いのモデルを改良できるはずだ。

バージニア大学(米国シャーロッツビル)の氷河地質学者Lauren Simkinsは、「地殻の反発の速度が速ければ、残っている氷床に加わる応力が増える可能性があり、氷床がさらに速く分解する原因になります」と指摘する。しかし、大陸棚の上昇は、氷河を固定し、氷河が海へ向かう流速を遅くする可能性もある。「この島で、現実世界での良い事例研究が行えるかもしれません」とSimkinsは話す。

全米科学財団の氷河学プログラムディレクターPaul Cutlerは、「氷床が後退するときに新たな島が見つかることはそれほど意外なことではありません」と話す。カナダ北極圏とグリーンランドではこの数年、新たな島々が現れているという。

ナサニエル・B・パルマー号は2020年3月25日になるまで港に戻らない予定なので、予備的な結果の報告だけでも1カ月以上かかるだろう。氷河学者たちは、今回の発見から得られる知見を推測して興奮している。「この1つの島が多くの手掛かりをもたらす可能性があります」とSimkinsは話す。

翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 5

DOI: 10.1038/ndigest.2020.200503

原文

New Antarctic island spotted as mammoth glacier retreats
  • Nature (2020-02-21) | DOI: 10.1038/d41586-020-00489-4
  • Giuliana Viglione