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英国のEU離脱で科学研究への影響は?

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2020.200410

原文:Nature (2020-01-30) | doi: 10.1038/d41586-020-00215-0 | Brexit is happening: what does it mean for science?

Elizabeth Gibney

英国は2020年1月31日午後11時(グリニッジ標準時)、欧州連合(EU)を離脱する(註:この記事はNature 2020年1月30日号に掲載された。離脱は予定どおりに行われた)。この時刻から、2020年末までの11カ月間の「移行期間」が始まり、英国とEUの今後の関係を決める交渉が行われる。交渉には、EUの次の7年間の研究資金助成計画「ホライズン・ヨーロッパ」における英国の役割が含まれる。ホライズン・ヨーロッパは、2021年1月1日に始まり、1000億ユーロ(約12兆円)規模になるとみられている。Nature は、EU離脱に伴う2020年の交渉が、英国の科学研究や科学者にどのような影響があるかを調べた。

2020年1月9日、英国のEU離脱に反対して、ロンドンの国会議事堂前で抗議行動をする人たち。この日、国会では、離脱関連法案に対する投票が行われた。 | 拡大する

PETER SUMMERS/GETTY

–– 2020年1月31日午後11時になると何が変わるのか?

2020年の残りの期間、英国はEUとの関係を凍結する「移行期間」に入る。2021年になるまでは、英国とEU各国の科学者たちは、これまでと同様に英国とEUとの間を行き来でき、英国でもEUでも自由に職に就くことができる。英国の研究者たちは、EUの研究資金に応募し、人材交換プランに参加できる。

–– 英国はホライズン・ヨーロッパに加わる努力をするのか?

英国の科学担当国務大臣のChris Skidmoreは2020年1月20日に国会で、英国はホライズン・ヨーロッパと「提携」(associate)したい(関連国=associated country=として参加したい)と述べた。つまり、英国の科学者たちが現在経験しているのと同様の条件でホライズン・ヨーロッパに参加することを可能にしたいということだ。

しかし、ホライズン・ヨーロッパはまだ、欧州の議員たちに承認されていない。提携はホライズン・ヨーロッパの最終的な形態と内容に依存するとSkidmoreは強調した。移民(入国管理)に関する合意を含む、より広範な交渉も、この種の提携が可能であるかどうかに影響しそうだ。普通に考えれば、ホライズン・ヨーロッパに関する合意は貿易協定に合意した後になるだろう。

–– 英国のホライズン・ヨーロッパへの参加に影響する要素は他に何があるか?

Skidmoreは、参加は代価に見合うことを英国大蔵省に説明して納得させなければならないだろう。英国は長く、EUの共同研究資金に拠出する以上の資金をそこから得てきた。例えば、EUの2007-2013年の7年間の研究資金助成計画では、英国は54億ユーロをEUに拠出し、88億ユーロを受け取った。しかし、こうした状況はほぼ間違いなく終わり、おそらく、英国は受け取る額に合わせて計画に支払う形になるだろう。

–– 英国とEU間の移動の自由がなくなってしまったら、英国はどうやって ホライズン・ヨーロッパと提携するのか?

現在のEUの研究資金助成計画「ホライズン2020」では、EU非加盟国のノルウェーとスイスは、この計画と提携するには、その国境をまたいだ「人の移動の自由」を認める必要があった。一方、英国政府はすでにこれは認めないとしている。しかしEUは、ホライズン・ヨーロッパの参加条件はもっと柔軟かもしれないことを示唆している。生物医学研究支援団体ウェルカムトラスト(ロンドン)の英国・EU政策部門責任者Beth Thompsonは、「英国政府が2020年1月27日に発表した、研究者のための迅速ビザのように、研究者の移動を保証する英国の制度で合意は可能かもしれない」と話す。

この新しいビザは、「グローバル・タレント」ビザと呼ばれ、2020年2月20日から制度が始まる。これは、活用されていない「優秀人材」ビザをアップグレード・拡張したもので、英国の主要な研究資金助成組織「UKリサーチ・アンド・イノベーション」もビザの応募者を推薦する。現在、EU加盟国から英国にやって来る研究者は年間数万人に及び、英国学術界の労働人口のうち、英国以外のEU加盟国の国民は18%に達する。

–– 科学研究における英国とEUの関係を定める取り決めは、2020年12月31日の移行期間の終わりまでに合意されるだろうか?

Thompsonは、それは可能だが難しいだろうと話している。ウェルカムトラストと経済系シンクタンク「ブリューゲル」(ベルギー・ブリュッセル)が行った模擬交渉で、英国とEUが11カ月間で広範な貿易協定に合意できる可能性はわずかしかないことが分かった。しかし、両組織が2020年1月28日に発表した報告書は、科学研究に関する、先例がない単独の協定に合意することは可能かもしれないと結論した。これが実現するためには、英国とEUが科学研究を特別扱いにすることに合意する必要があるだろう。例えば、研究者のための特別なビザや、英国の組織がEUのデータ保護規則に従うことを可能にする仕組みを設けることが考えられる。

–– 英国が2020年の終わりまでにホライズン・ヨーロッパに加わることができなかったらどうなるのか?

これは深刻な事態だ。Thompsonは「英国にとってもEUにとっても損失だ」と警告する。提携が実現しなかったら、英国の研究者たちがホライズン・ヨーロッパに参加する場合は「第三国」の一員という立場になるだろう。英国の研究者は、EUが資金を出すプロジェクトに参加できるが、それを率いることはできず、また参加は、政府がその費用を支払うことに同意した場合に限られる。もしも、広範な貿易協定が合意に達しなければ、研究者の移動やデータ共有、臨床試験、実験用品の供給にも影響するかもしれない。英国の研究者たちは、英国が新しい移民(入国管理)制度を期限内に作り出すことができてもできなくても、EU各国で職に就くにはほぼ間違いなくビザが必要になるだろう。

(翻訳:新庄直樹)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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