現代人の体温は低下している
何十万人もの米国人の体温データを検討した研究によれば、19世紀以降、平均体温は10年に0.03℃の割合で低下している。 Credit: Jeff Randall/Photodisc/Getty
人体は冷たくなってきている。スタンフォード大学(米国カリフォルニア州)の感染症疫学者Julie Parsonnetが率いるチームの研究によれば、現代人の平均体温は教科書に記載されている37℃という値よりも低く、10年に0.03℃の割合で低下しているという(M. Protsiv et al. eLife 9, e49555; 2020)。
37℃という平熱の値は、1851年にドイツの医師カール・ラインホルト・アウグスト・ブンダーリヒ(Carl Reinhold August Wunderlich)により決定された。しかし、その後の研究では平均体温がそれよりわずかに低いことが報告されている。約3万5000人を対象とした2017年の研究では、平均体温は36.6℃であったのだ(Z. Obermeyer et al. Br. Med. J. 359, j5468; 2017)。この差は測定誤差によるものではないかと科学者たちは考えていた。
しかし、Parsonnetは、今回検討したデータとモデルは人体が実際に冷たくなってきていることを示していると言う。検討されたのは3種類のデータセットで、1862~1930年にかけて南北戦争の兵役経験者で測定された8万3900の体温データと、1970年代および2007~2017年にかけて収集された数十万の測定値である。
19世紀初めの10年間に生まれた女性の体温は、1990年代後半に生まれた女性の体温よりも0.32℃高かった。男性の場合、差は0.59℃だった。全体として、体温は10年に0.03℃の割合で低下していた(「体温の低下傾向」参照)。
体温の低下傾向
何十万人もの米国人の体温データを検討した研究によれば、19世紀以降、平均体温は10年に0.03℃の割合で低下している。 Credit: SOURCE: ELIFE
この傾向は、結核などの体温上昇を招く慢性感染症の罹患率が低下したことで説明できるとParsonnetは考えている。19世紀には慢性感染症にかかっている人が多かったと彼女は言う。
それは「魅力的で納得できる」仮説だと、スクリプス・トランスレーショナル科学研究所(米国カリフォルニア州ラホヤ)の疫学者Jill Waalenは話す。今回の研究で検討されたデータには抗生物質が普及し始めた1940年代前半の測定値が含まれていないが、その期間に体温の著しい低下が観察されれば、Parsonnetの感染症仮説の裏付けになるだろうとWaalenは指摘する。
翻訳:藤山与一
Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 4
DOI: 10.1038/ndigest.2020.200406
原文
US data suggest human bodies are cooling down- Nature (2020-01-14) | DOI: 10.1038/d41586-020-00074-9
- Ewen Callaway
関連記事
Advertisement