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新型コロナウイルス感染が拡大しやすい理由

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2020.200412

原文:Nature (2020-03-06) | doi: 10.1038/d41586-020-00660-x | Why does the coronavirus spread so easily between people?

Smriti Mallapaty

新型コロナウイルス感染症を引き起こすウイルスの感染力が近縁のウイルスよりも高い原因は、微視的な特徴にあるのかもしれない。

米国初のCOVID-19患者から分離されたSARS-CoV-2(青)。画像は、米国疾病管理予防センターのHannah A. BullockおよびAzaibi Taminが提供。 | 拡大する

Smith Collection/Gado/Getty Images

全世界の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者数が20万人を超えた今、研究者たちは、これほどまでにウイルス感染が拡大してしまう原因の解明に取り組んでいる。

COVID-19を引き起こす新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)は、重症急性呼吸器症候群(SARS)を引き起こす近縁のコロナウイルスに比べてはるかに容易にヒト細胞に感染する。いくつかの遺伝子解析と構造解析から、SARS-CoV-2の構造、具体的にはウイルス表面にあるスパイクタンパク質に、その理由を説明するカギとなりそうな特徴があることが分かってきた。

テキサス大学オースティン校(米国)の構造生物学者Jason McLellanの研究チームは、クライオ(極低温)電子顕微鏡法によりSARS-CoV-2の構造を解き、そのスパイクタンパク質がヒト細胞のACE2(アンジオテンシン変換酵素2)と結合すること、そしてその結合の強さは、一般的なSARSウイルスのスパイクタンパク質に比べて少なくとも10倍になることを示した(D. Wrapp et al. Science http://doi.org/ggmtk2;2020)。SARS-CoV-2の構造情報は、ワクチン設計と治療薬開発に役立つと期待される。

SARS-CoV-2がヒト組織に侵入する際の玄関口となる、ヒト細胞膜の受容体を調べている研究チームもある。コロナウイルスが細胞に感染する際には、表面のスパイクタンパク質を利用して細胞膜に結合する。SARS-CoV-2のゲノム解析から、そのスパイクタンパク質が近縁のウイルスとは異なっていることが明らかになり、またこのタンパク質には、フリン(furin)という酵素によって活性化する部位があることが示唆された(H. Li et al. Preprint at http://chinaxiv.org/abs/202002.00062;2020)。

SARS-CoV-2の遺伝子解析論文の共著者である構造生物学者Li Hua は、このウイルスの流行が最初に始まった中国・武漢にある華中科技大学に所属している。Liは、この発見は重要であると言う。フリンはヒトの肺、肝臓、小腸など多くの臓器に見られるため、SARS-CoV-2が多数の臓器を攻撃し得ることを意味するからだ。彼は、一部の感染者に肝不全などの症状が見られたことは、これにより説明できるかもしれないと言う。

フリン活性化部位がSARS-CoV-2のヒト-ヒト感染を容易にしている可能性を指摘している研究グループは他にもあるが、フリン活性化部位の役割を強調しすぎることに慎重な研究者もいる。

McLellanは、「この部位が本当に重要なのかはまだ分かりません」と語る。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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