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宇宙の暗黒時代を銀河団で調べる

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 4 | doi : 10.1038/ndigest.2020.200436

原文:Nature (2020-01-02) | doi: 10.1038/d41586-019-03893-7 | Galaxy cluster illuminates the cosmic dark ages

Nina A. Hatch

遠方の銀河団の観測で、そこではビッグバンからわずか3億7000万年後に星形成が始まったことが分かった。この観測結果は、最初の星と銀河は、宇宙のどこでいつ現れたのかについて重要な手掛かりを与えてくれる。

ビッグバンから間もない時期、宇宙は完全に暗かった。宇宙に光をもたらす星と銀河はまだ生まれておらず、宇宙は、中性の水素原子とヘリウム原子と目に見えないダークマター(暗黒物質)からなる原始のスープでできていた。この数億年続いた「宇宙の暗黒時代」に、最初の星と銀河が現れた。残念ながら、暗黒時代の銀河は非常に暗いため、この時代の観測は難しい1。ビクトリア大学(カナダ)のJon Willisらはこのほど、銀河考古学を行い、暗黒時代に何が起こったかを知る手がかりになる観測結果をNature 2020年1月2日号39ページに報告した2。Willisらは、既知の最も遠い銀河団の1つの星の年齢を測定し、この銀河団の銀河で星が現れ始めたのは暗黒時代であり、星が出現する可能性のある最も早い時期に近い時期だったと結論した。

銀河団は、数千個の銀河の集まりであり、これらの銀河の速度には毎秒1000km程度のばらつきがある3。銀河団に伴っている、太陽質量の約100兆倍の合計質量を持つ暗黒物質の重力が、銀河がばらばらになって飛び去ることを防いでいる4。天文学者たちは、こうした銀河団を、宇宙の組成の測定や重力理論の検証、銀河が生まれる仕組みの決定など、天体物理学の多くの実験のための実験室として使う。Willisらは、既知の最も遠方にある銀河団の1つを使って、宇宙で最も大質量の銀河たちがいつ星を作り始めたかを研究した。

かみのけ座銀河団などの近くの銀河団は、もっと遠くにある銀河団よりも容易に観測できるが、銀河が非常に古いので、その年齢を正確に測定することはできない。例えば、70億歳の銀河と130億歳の銀河を見分けることは難しい5。Willisらは、銀河団がその最初の星を形成した正確な時期を知るため、米航空宇宙局(NASA)のハッブル宇宙望遠鏡を使い、彼らが見つけることができた最も遠い銀河団の1つを調べた。

光は有限の速度で進むので、私たちが見ることができる最も遠い銀河団は、私たちが見ることができる、宇宙の最も初期の段階にある銀河団だ。Willisらが調べた銀河団からの光は、地球に届くまでに104億年間、旅してきた。これは、ビッグバンからわずか33億年後にある銀河団を私たちは見ていることを意味する。このため、この銀河団は、初期の宇宙を私たちがのぞき込む鍵穴としての役割を果たす(図1)。

図1 宇宙の年表
ビッグバンの後、宇宙は、放射と物質のスープから成り立っていた。約40万年後、宇宙は「宇宙の暗黒時代」と呼ばれる、光のない時代に入った。最初の星と銀河は、数億年後に現れ始め、宇宙に徐々に光をもたらした。Willisらは、遠方のある銀河団での星形成は、ビッグバンから約3億7000万年後に始まったと報告した2。この銀河団からやって来て私たちが見る光は、宇宙が約33億歳だった時に放出された。この銀河団は、かみのけ座銀河団に質量で匹敵する、現在の宇宙で最大の構造の1つになっただろう。 | 拡大する

Willisらが観測した銀河団:N. A. Hatch、かみのけ座銀河団:Russ Carroll、Rob Gendler、Bob Franke(米国ウェイン州立大学Dan Zowada記念天文台)

Willisらは、調べた銀河団はよく似た赤い色を持つ銀河たちを含むことを見いだした。若い星は、古くて赤い星よりも青いので、銀河の色を使ってその年齢を見積もることができる。つまり、赤い色の銀河は、その星を遠い昔に形成した5。Willisらは、銀河団の銀河の色をモデルの銀河の色と比較することにより、これらの銀河の星は宇宙がわずか3億7000万歳だった時に現れ始めたと見積もった。この時期は、宇宙の暗黒時代で最初の星が誕生したと考えられている時期だ6

1つの特に興味深い点は、Willisらは、よく似た色を持つ銀河を銀河団の中に少なくとも19個発見したことだ。これは、これらの銀河の年齢が近いことを意味する。これらの銀河は、その星を形成した時には十分に散らばっていたはずなので、なぜ、これらの銀河が全ておおよそ同じ時に星を作り始めたのかは謎だ。これらの銀河はその環境に影響されたのか? あるいは、1つの銀河での星形成がどういうわけか連鎖反応を引き起こし、近くのガス雲での星形成につながったのか? 今のところ、その答えは分かっていない。Willisらの研究から明らかなことは、これらの遠方の銀河団は、宇宙で最も古い銀河で満ちているということだ。

私の考えでは、Willisらがハッブル宇宙望遠鏡から得た限られたデータを考慮すれば、彼らの年齢の見積もりは可能な範囲で最良のものだ。しかし、銀河の色から年齢を決定する方法は、大きな不確かさを伴う、比較的粗い方法だ。例えば、多量のダストを含む若い銀河は、ダストをほとんど含まない古い銀河と同じ色である可能性がある。だから、Willisらの結果は興味深いが、今後数年以内にNASAのジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が打ち上げられるまでは、注意して扱われるべきだ。

ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡は、こうした銀河が放出する光のスペクトルを測定する。スペクトルをモデルと比較する方法は、銀河の色を使う方法よりも、ずっと正確に星の年齢を決定できるだろう。さらに、現在に近い銀河の年齢よりも、より早期の銀河の年齢を測定する方が容易なので5、初期の宇宙にある、これらの銀河団の祖先にある銀河を観測対象にすることは理にかなっている。Willisらの結果は、こうした遠方の銀河団が、ジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡が最初に観測すべき対象の一部であることを強く裏付けている。

(翻訳:新庄直樹)

Nina A. Hatchは、ノッティンガム大学物理・天文学部(英国)に所属。

参考文献

  1. Stark, D. P. Annu. Rev. Astron. Astrophys. 54, 761–803 (2016).
  2. Willis, J. P. et al. Nature 577, 39–41 (2020).
  3. Struble, M. F. & Rood, H. J. Astrophys. J. Suppl. Ser. 125, 35–71 (1999).
  4. Bahcall, N. A. Annu. Rev. Astron. Astrophys. 15, 505–540 (1977).
  5. Bruzual, G. & Charlot, S. Mon. Not. R. Astron. Soc. 344, 1000–1028 (2003).
  6. Planck Collaboration. Astron. Astrophys. 596, A108 (2016).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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