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若手研究者支援について日欧で意見交換

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若手研究者を育てるには何が必要か。彼らを支援するための助成プログラムは果たして有効に機能しているのか。2020年2月6日、日本の分子生物学研究者と日欧のファンディング機関関係者が集まり、この課題について議論した。主導したのは、若手研究者を日本から呼びたい欧州(EU)駐日代表部、欧州分子生物学機構(EMBO)、そして日本分子生物学会(MBSJ)である。

「日本の若い人にとって、研究職は魅力ある職業ではなくなった。私たちは今、新しいシステムを作る必要がある」という阿形清和MBSJ理事長の挨拶で会議は始まった。博士課程に進む学生の減少、海外に出たがらない学生の増加、それらの背景にある日本での安定した研究ポジションの少なさ(一度手放したら再度得難い)や、大学運営交付金の減少といった切実な現状が、参加した研究者から次々に報告された。

EU駐日代表部とEMBOは、日本をはじめとするアジアの優秀な若手研究者との共同研究や交流を重要視していると教えてくれた。さらに、欧州のパートナーと共同研究を行っている日本の研究者にとって応募可能なEUの助成金として、「ホライズン」(最大規模の研究およびイノベーションを促進するためのフレームワークプログラム)が紹介された。これは、設定課題に対する研究公募を主とするタイプのプログラムだ。日本でも「ムーンショット型研究開発事業」と呼ばれる課題設定型の大型助成が2020年から始まっている。ただし、「両者の財政基盤は桁違い」と、ゲディミナス・ラマナウスカス氏(EU駐日代表部)が指摘し、会議の参加者を驚かせた。ホライズンの予算額は、2014〜2020年が約10兆円、2021〜2027年は約12兆円と見込まれる。一方、日本のムーンショットは5年間で約1000億円だ。それでも、科研費予算額(2019年度)が2372億円であることに比べれば、恵まれていると言えようが。

違いは金額だけではない。ホライズンの場合は、助成の枠組みが多様だ。多くの日本の研究者が研究力の底上げに必要と訴える、基礎研究に重点を置いたボトムアップ型助成金枠も存在する。Marie Sklodowska-Curie Actions(MSCA)というキュリー夫人にちなんだ名称で、若手研究者やスタッフのキャリア開発のための短期および長期の交流や、トレーニングネットワークの構築を支援するものだ。

海外に雄飛する研究者は米国を第1選択肢とする人が多い。欧州が選択されにくい理由の1つは言語の心配かもしれないが、「研究の場面では英語で十分」とEMBOディレクターのマリア・レプチン氏は強調した。

レプチン氏はまた、「助成金は、ある程度長期間にわたるものであることが大事」と説明した。優秀な研究者であっても、次から次へと助成金に応募し続けていたら、考えを深めたり、アイデアを思いついたりする心のゆとりも時間的な余裕も持てないからだ。これには会議に出席した多くの研究者の賛同が得られた。なお、若手研究者のネットワーク形成に重点を置いたEMBOのプログラムについては、Nature ダイジェスト 2019年12月号「欧州の生命科学研究と地続きに」でも紹介したとおりである。

この会議に出席した日本のファンディング機関は、文部科学省、科学技術振興機構(JST)、日本医療研究開発機構(AMED)で、AMEDのInterstellar Initiativeをはじめ、いくつかの若手支援プログラムが紹介された。東北大学が独自に進める助成プログラムの紹介もあった。

折しも、この会議に先立つ1月23日、「研究力強化・若手研究者支援総合パッケージ」という支援策が、政府により発表されている。それによると、博士課程大学院生の5割に生活費程度を支給し、2025年までに40歳未満の大学教員を約5500人増やし、企業が採用する博士号取得者を約1000人増やすことなどが盛り込まれている。

今回の会議で紹介されたように、欧州では、日本を含む世界の若手研究者を支援すべく、さまざまなプログラムが用意され、運営が推し進められている。日本においても若手研究者の支援が本格化しているということなので、それらが計画どおりに、日本の若手研究者を支え、また新たな優れた人材の育成と研究成果に結び付くことを期待したい。

藤川良子(サイエンスライター)

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 4

DOI: 10.1038/ndigest.2020.200416