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「中国の千人計画は脅威」 米国議会の報告書が警告

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 2 | doi : 10.1038/ndigest.2020.200215

原文:Nature (2019-11-20) | doi: 10.1038/d41586-019-03584-3 | Chinese infiltration of US labs caught science agencies off guard

Jeff Tollefson

中国は、米国で研究している研究者を募集することにより、米国の研究資金を利用してその軍事力と経済力を強化している、と米国議会上院小委員会が公表した報告書が警告した。

米国ワシントンDCのエネルギー省本部。エネルギー省は、17の国立研究所を所有し、エネルギー技術や核兵器の開発に関わっているほか、物理科学系研究資金の助成機関でもある。その研究内容は中国の人材募集プログラムにとって魅力的だ、と米国議会の報告書は指摘した。 | 拡大する

ALASTAIR PIKE/AFP via Getty Images

中国の国外で研究を行っている研究者らを中国政府が募集する人材募集プログラムにより、米国政府の研究資金と民間部門の技術が中国の軍事力と経済力を強化するために使われており、その対策は遅れている、と米国議会上院の小委員会が2019年11月に公表した報告書が指摘した。

報告書は、上院国土安全保障政府問題委員会調査小委員会(委員長Rob Portman;共和党所属、オハイオ州選出)が超党派報告としてまとめ、公表した。

報告書の調査は、米国の連邦捜査局(FBI)、全米科学財団(NSF)、国立衛生研究所(NIH)、エネルギー省、国務省、商務省、ホワイトハウス科学技術政策室の7つの組織を対象に8カ月間かけて行われた。同小委員会は2019年11月19日、この報告に関する公聴会を開き、議論した。

報告書などによると、中国は2050年までに科学技術における世界のリーダーになることを目指している。中国政府は1990年代後半から、海外の研究者を募集して国内の研究を促進しており、そうした人材募集プログラムは現在、約200ある。その中で最も有名なものが、「海外高層次人才引進計画」(千人計画、Thousand Talents Program)だ。報告は千人計画を詳しく分析している。

千人計画は2008年に始まり、2017年までに7000人の研究者を集めたとされる。ボーナスや諸手当や研究資金が用意され、対象は中国系の研究者とそれ以外の場合の両方がある。Portmanは、千人計画の契約の実例のいくつかの規定を取り上げた。契約は、参加する科学者たちに、中国のために働くこと、契約を秘密にし、ポスドクを募集し、スポンサーになる中国の研究機関に全ての知的財産権を譲り渡すことを求めている。

さらに契約は、科学者たちが米国で行っている研究を忠実にまねた「影の研究室」を中国に設立することを奨励している。NIHの副所長Michael Lauerは、「中国は、影の研究室のおかげで米国で何が進んでいるかを世界に先駆けて知ることができます」と議員たちに説明した。「NIHが、影の研究室の存在を米国の研究機関に知らせると驚かれることがしばしばで、多くの研究機関は職員が中国に研究室を持っていることを知りませんでした」とLauerは話した。

報告書によると、エネルギー省の調査では、米国立研究所に所属していたあるポスドク研究員は、千人計画に選ばれて中国で教授職を得、中国に戻る前にこの研究所から機密扱いではない3万件の電子ファイルを持ち去ったという。この研究員は中国の研究機関に対し、米国での自分の研究分野は高度な防衛力を持つために重要なものだと話し、中国の防衛力の近代化を支援する研究を計画していたという。

こうした中国のプログラムに対し、FBIや米国の研究機関の対応は非常に遅く、研究機関は米国の研究を守るための取り組みを組織しなければならない、とPortmanは指摘した。「私たちは、もっと素早く行動しなければなりません」と彼は話した。

報告書は、外国の人材募集プログラムに参加している研究者には、その契約条件などの完全な開示なしに米国の研究資金を得られないようにすべき、などと提言している。また、基礎研究で得られる成果には可能な限り制約をかけないという、米国政府が1985年から採用してきた基本方針の再検討を求めている。Portmanらは対策の立法化にも言及している。

この問題の調査で、中国系の研究者たちが不公平に標的にされているという懸念も生じている。報告書は、米国政府出資の研究を守ることと国際協力を両立させることは今後も必要だとしている。

米国大学協会(ワシントンDC)の政策担当副会長のTobin Smithは、「報告は、人材募集プログラムの契約内容を徹底的に調べることにより、この問題を生々しく伝えています。大学教員たちに、こうした人材募集プログラムに加わる場合は注意しなければならないことを気付かせるには、この報告が役立つはずです」と話す。

(翻訳:新庄直樹)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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