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陽子半径の謎に進展

米国・スタンフォード大学(当時)の物理学者ウィリス・ラム。1955年、彼の研究室で。ラムらは1947年、水素原子でラムシフトを発見し、ラムシフトは量子電磁力学の正しさを証明するものになった。ラムは1955年のノーベル物理学賞を受賞した。陽子半径の謎の発端は、2010年、ミューオン水素でラムシフトを測定したことだった。 Credit: STEVE GSCHMEISSNER/SPL/GETTY

陽子は100年前に発見され1、目に見える物質の不可欠な基本構成要素だ。水素原子の原子核は1個の陽子でできているため、水素は陽子の固有の性質を決定するのに適したプラットフォームだ。陽子固有の性質の1つが陽子の電荷半径(陽子半径)で、これは陽子の電荷分布の空間的広がりに相当する。2010年、ミューオン水素の分光により、陽子半径の非常に正確な測定が行われた。ミューオン水素は、エキゾチックなタイプの水素で、電子がミューオン(ミュー粒子)と呼ばれるより重い粒子で置き換えられている2。しかし、この測定で得られた値は、それまでに受け入れられていた値3よりもほぼ4%小さかった(Nature ダイジェスト2010年10月号「陽子のサイズはもっと小さい!?」参照)。今回、この陽子半径の謎を解くための決定的な進展になる可能性のある実験結果を、ヨーク大学(カナダ・トロント)のNikita BezginovらがScience4、デューク大学(米国ノースカロライナ州ダーラム)のWeizhi XiongらがNature 2019年11月7日号147ページ5報告した。

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翻訳:新庄直樹

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 2

DOI: 10.1038/ndigest.2020.200234

原文

Progress on the proton-radius puzzle
  • Nature (2019-11-07) | DOI: 10.1038/d41586-019-03364-z
  • Jean Philippe Karr & Dominique Marcahnd
  • Jean-Philippe Karrは、カストレル・ブロッセル研究所(フランス・パリ)、およびパリ・サクレー大学の基幹大学エヴリー・ヴァル・デソンヌ大学(フランス・パリ)に所属、Dominique Marchandは、フランス国立原子核素粒子物理研究所(CNRS-IN2P3)オルセー原子核研究所(フランス・オルセー)に所属。

参考文献

  1. Rutherford, E. Phil. Mag. Ser. 6 37, 581–587 (1919).
  2. Pohl, R. et al. Nature 466, 213–216 (2010).
  3. Bernauer, J. C. & Pohl, R. Sci. Am. 310(2), 32–39 (2014).
  4. Bezginov, N. et al. Science 365, 1007–1012 (2019).
  5. Xiong, W. et al. Nature 575, 147–150 (2019).
  6. Pohl, R., Gilman, R. et al. Annu. Rev. Nucl. Part. Sci. 63, 175–204 (2013).
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  10. Bernauer, J. C. et al. Phys. Rev. Lett. 105, 242001 (2010).
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  12. Gilman, R. et al. Preprint at https://arxiv.org/abs/1709.09753 (2017).
  13. Beyer, A. et al. Science 358, 79–85 (2017).