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遺伝子系図を使った犯罪捜査への期待と懸念

DNAに基づいた系図分析で犯罪者プロファイリングに協力し、異論の多いこの分野で名声をつかんだ法遺伝学企業パラボン・ナノラボ。その後の規制や競合企業の登場で、同社はその勢いをそがれてしまった。

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JOCHEN TACK/IMAGEBROKER/ALAMY

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 12 | doi : 10.1038/ndigest.2020.201216

原文:Nature (2020-09-10) | doi: 10.1038/d41586-020-02545-5 | The controversial company using DNA to sketch the faces of criminals

Carrie Arnold

パラボン・ナノラボ社(Parabon NanoLabs;以下、パラボン社)が大きな議論の渦中に引き込まれたのは、2019年5月のことだった。当時、同社は、世界で最も有名な法遺伝学企業だった。米国バージニア州レストンに本社を置くパラボン社は、ほぼ毎週のように、警察の未解決事件解明に協力していた。例えば、1987年に殺されたカナダ人カップルの事件や、1960年代にレイプ後に殺された若い女性の事件などだ。

パラボン社は、容疑者のDNAを系図データベースのプロファイルと比較して家系図をつなぎ合わせることにより、犯人と思われる人物を見つけ出すことで有名になった。

ところが、パラボン社が解決を助けたある事件を巡って議論が勃発した。10代の少年がユタ州のモルモン教の集会場で70代の老人に暴行を加えたという事件だ。このユタ州の事件はプライバシーに関する懸念から、一般市民の反感を生んだ。

パラボン社の系図学者は、GEDMatchと呼ばれるDNA鑑定結果のデータベースを調べることによって、手掛かりを生み出していた。GEDMatchは一般公開されているウェブサイトで、ユーザーは、長らく音信不通だった親戚を見つけることを望んで検査結果をアップロードできる。当時、GEDMatchは殺人と強姦事件の解決を助けるために、ユーザーが明確にオプトアウト(情報の利用を拒否すること)していない限り、警察がプロファイルにアクセスすることを許していた。警察はパラボン社やそれに類する会社の助けを借りて、毎週のように新しい犯人を逮捕していた。

しかし、ユタ州の事件は殺人でも強姦でもなかったため、ウェブサイトの免責条項によってカバーされていなかった。加害者は現場に血液の痕跡を残しており、そして、事件担当の刑事Mark TaggartはGEDMatchの創設者Curtis Rogersにデータベースにアクセスできるよう個人的に嘆願した。アクセスが許されたので、当初はこの事件を扱うことを拒否していたパラボン社が仕事を引き受けた。同社は、いくつかの部分的なDNAの合致をたどってその地域に住む数名に行き着き、そのうちの1人の親戚であった10代の少年を容疑者として絞り込んだ。Taggartは少年を逮捕した。

即座に、これはGEDMatchのユーザーとの協定に違反するものだとして、系図学者やプライバシー専門家、より広い一般大衆から反発の声が上がった。それに応えてRogersは、サイトの数百万のユーザーに、法執行のための使用に明確にオプトインすることを要求した。すると一夜にして、パラボン社はDNAデータの主要なソースを失った。

この出来事はパラボン社、そして法遺伝系図学に制限を課すこととなった。以来、パラボン社は、系図データへのアクセスを制限する新しい規制をくぐり抜けながら、何とか前進してきた。また、別の戦略の研究も続けていた。DNAを使用して顔を再建する試みである。同時に、法系図学分野で権利を主張しようとする同業者との競争にも直面していた。

パラボン社は、GEDMatchにおける規則の変化によってDNAデータの主要なソースがかなり制限されたことは認めているものの、これは一時的な妨げだったと言う。さらに、別の系図会社のデータや、刑事事件のための使用を許諾する選択をした人々のGEDMatchデータを使用することで、継続的に事件を解決しているとも付け足す。

法遺伝学プロファイリングの重要性が高まるにつれ、その悪名も高まっている。中国政府が北西部の省に住む主にイスラム教徒からなる少数集団ウイグル族に対して遺伝学プロファイリングを用いていることに、倫理学者は懸念を強めている。また2019年には、米国政府が2つのプログラムを開始し、入国管理施設の抑留者と一部の亡命希望者からDNA試料を採取し始めた。米国司法省は法遺伝系図学の使用の境界を設定しようと同年11月にガイドラインを発表したが、黒人に対する警察の暴力行為や制度的人種差別が存在することから疑問の声が上がっている。白人以外の人々は警察に職務質問される率が高く、犯罪DNAデータベースに登録されることも不均衡に多いからだ。そうした人々に対して、このガイドラインは十分な保護を提供するのだろうか?

国境で拘留されている移住者。米国政府は一部の亡命希望者からDNAを採取している。 | 拡大する

JOE RAEDLE/GETTY

「DNAの威力は非常に強いので、私たちはついそれを魔法の解決策であると見なしがちです」と、ルーヴァン・カトリック大学(ベルギー)の生物学者で工学者のYves Moreauは述べる。しかし警察が使用しているこうしたデータベースや技術は、犯罪を解決したり手掛かりを見つけたりするために設計されているわけではないと彼は言う。

家族の絆

2017年12月に、遺伝系図学者のBarbara Rae-Venterは1本の電話を受けた。この電話が法系図学を世間に広めることになる。彼女は、GEDMatchを使用して、長らく行方不明だった親戚をクライアントのために見つけるという仕事をしていた。電話はカリフォルニアの刑事からで、古いDNAの証拠を見つけたので、ゴールデン・ステート・キラー事件を再捜査しようとしているということだった。ゴールデン・ステート・キラーは1970年代と1980年代に犯行を重ねた連続強姦殺人犯だった(2019年1月号「血縁情報を利用した捜査にプライバシー上の懸念」参照)。

DNA試料と系図とを合わせることが、法遺伝系図学の核心である。この過程は遺伝学のシンプルな統計学的規則に基づいている。親子または兄弟姉妹間は、DNAの50%を共有する。祖父母と孫は25%を共有する。遠い親戚でさえ少量のDNAを共有する。これによって、アンセストリー(Ancestry;米国ユタ州リーハイ)や23アンドミー(23andMe;米国カリフォルニア州サニーベル)などの民間の遺伝子検査会社は、試料を提出した2人の個人間の関係をよいとこ(fourth cousin;高祖父母の父母を共有する)まで推測できるようになっている。誰もが、自身のDNA鑑定結果をGEDMatchなどのデータベースにアップロードできる。

Rae-Venterは、容疑者の遠戚の可能性がある2つのGEDMatchプロファイルを発見し、その情報を用いて系図をさかのぼり、彼らの曽祖父に当たる人々を見つけた。次に、時間を前に進めて、犯罪が起こった時点のカリフォルニアに焦点を合わせて彼らの子孫をたどった。2カ月後、Rae-Venterは3人の兄弟の名前を刑事に知らせた。兄弟の1人が捨てたタバコの吸い殻から得たDNAがこの試料に合致し、そして、2018年4月24日、警察はJoseph DeAngeloを逮捕した。これは、この技術を使って解決された最初の刑事事件となった(DeAngeloはレイプと殺人の複数の罪を認めて、終身刑に処せられた)。

DeAngeloの逮捕に続いて、Rae-VenterやCeCe Moore(2018年5月にパラボン社に加わった)などの法遺伝系図学者たちは、同様のレイプや殺人事件の迅速な解決を助けた。一部の倫理学者はプライバシーに関する懸念を提起したが、こうした事件のメディア報道は圧倒的に肯定的だった。パラボン社の生命情報工学主任である遺伝学者のEllen McRae Greytakは、「実際、もっと多くの批判が出るかと思っていたので驚きました」と言う。

ユタ州の事件がメディアを賑わせ、批判が噴出し始めたのは、この後である。

実際の事件

2018年11月17日土曜日の夜遅く、71歳のMargaret Orlandoはユタ州センタービルのモルモン教集会所から911に電話をかけた。オルガンを練習していたときに、何者かが窓に石を投げて部屋に入ってくると、襲い掛かってきて意識不明になるまで首を絞めたという。Taggartは現場に呼ばれた。3滴の血痕が見つかり、おそらく割れたガラスでけがをした犯人のものだろうと思われた。州および連邦のデータベース内にはそのDNAプロファイルに合致する人物はいなかったが、系図学者の友人との偶然の会話がTaggartに希望を与えた。容疑者を特定できなくても、親類なら捜し出せるかもしれない。彼は、GEDMatchと連絡を取り、サイトを使用する許可を得た。

Rae-Venterがゴールデン・ステート・キラーの特定を助けたときと同様の方法で、パラボン社は可能性のある名前を3つ、Taggartに提供した。Taggartは即座にその中の1つに目を留めた。その男性は集会所の近くに住んでおり、警察と何度かもめ事があった。そして、17歳の甥と一緒に住んでいることが分かった。甥はオルガン奏者が語った犯人像にぴったり合っていた。

翌日、Taggartは容疑者が学校のごみ箱に投げ入れた牛乳の紙パックからDNA試料を入手した。DNAは一致した。フォローアップのスワブ検査でも一致した。Taggartは2019年4月24日に容疑者(未成年者であったので名前は明らかにされなかった)を逮捕した。ゴールデン・ステート・キラー逮捕のちょうど1年後だった。

しかし、すぐに世間の注目が集まりだした。「ゴールデン・ステート・キラー事件への反応が非常に好意的だったのに対し、この件には非常に批判的であったことに少々驚きました」とGreytakは言う。彼女は90%の米国人が法遺伝系図学の警察による使用を支持しているという結果を発表したPLoS Biologyの研究1を示し、声の大きい少数集団がユタ州の事件に対する激しい抗議を導いたと言う。

ノーサンブリア大学(英国ニューカッスル)の倫理学者Matthias Wienrothは別の角度からこれを見る。Wienrothはこの逮捕のニュースが報道されるとすぐに、このタイプの検索に関するプライバシーの問題を提起した。自分のDNAプロファイルをGEDMatchなどのサイトにアップロードすることで自身のプライバシーの一部を放棄することは本人の権利だが、こうしたサイトは遠縁の誰かのプライバシーをも侵害するとWienrothは言う。実際、自宅用DNA鑑定が増えたため、いくつかの遺伝系図データベースは非常に大きくなっており、2018年にScienceに掲載された論文2では、本人がそうした検査を一度も受けていなくとも、欧州系の北米人の60%はそのコレクションから特定できる可能性があると見積もった。

「私たちは、こうした技術が科学的に有効であるかどうかについて、いまだに確信を持てずにいます。誰も失敗には触れません。成功の話しか耳にしません」と、Wienrothは言う。彼は、カリフォルニア警察は当初、系図の異なる枝から得られた手掛かりを追っていたが途中で誤りに気付きDeAngeloに焦点を合わせた、という事実を指摘する。

しかし、Greytakはそれを失敗とは見なしていない。彼女は調査遺伝系図学について、捜査における最終的な答えを提供するためのものではなく、手掛かりを生み出して警察を助けるためのツールなのだと考えている。

顔の価値

パラボン社の創設者であるSteven Armentroutは、スーパーコンピューターを使ったサービスを提供するために自宅の地下室でパラボン社をスタートさせた。同社に最初の大きなブレークスルーが訪れたのは2011年だった。その年、この創業間もない企業は、DNAからその人の外見を再建するという試みのために米国国防総省に交付金を申請した。この技術は、DNAフェノタイピング(表現型解析)と呼ばれる。国防総省は爆弾に残っているわずかな量のDNAから即席爆弾製作者を特定する技術の開発を目指しており、警察もこの技術に興味を持つはずだとArmentroutは考えていた。DNAフェノタイピングを研究するほとんどの研究室が、一塩基変異多型(SNP)として知られているヒトの遺伝情報の個々の文字の変化と、目や髪の色などの身体的な特徴との間の関係を探している。しかし、パラボン社はそのチャレンジを、機械学習の課題と捉えた。同社の計画は、多くのDNA試料と顔写真を集めて、アルゴリズムを訓練してその関係を見つけ出させるというものだった。パラボン社は交付金を獲得した。

2018年に英国ロンドンのビクトリア・アンド・アルバート博物館で行われた展覧会の様子。中央は、DNAから顔を再現する芸術家ヘザー・デューイ=ハグボーグ氏の作品。右は、同じくDNAを使って顔を再建するパラボン社のスナップショットツール。 | 拡大する

Leon Neal/Getty Images

同社のアプローチは、血液試料と頬のスワブから多量の高品質なDNAを得られればうまくいった。しかし、法医学的試料は小さく分解が進んでいることが多い。Armentroutが2014年にGreytakを雇ったとき、会社の最初の目標は、商業用ジェノタイピングアレイで法医学的試料から情報が得られるかどうかを調べることだった。パラボン社が最初の試料分析を発注したとき、発注先の研究室の管理者から絶対にうまくいかないだろうと電話がかかってきた。チップには200ngのDNAが必要だったからだ。

「法医学の世界では、200ngといったら、トラック1台分に相当する量ですよ」と、Armentroutは言う。パラボン社はたった1ngしか試料を送っていなかった。ArmentroutやGreytakをはじめ、これに関わった人々は皆、うまくいったことを知って驚いた。パラボン社によれば、現在は1ng未満のDNAで、家系をたどったり、顔を再建したりするのに十分なSNPを塩基配列解読できるという。Greytakは、このようにわずかな量のDNAを使って塩基配列解読を行うと、試料が分解され過ぎていたり、希釈され過ぎていたりするために、遺伝暗号が部分的に欠落してしまうことが多いと言う。同社はそれに応えて、専用のアルゴリズムを構築して、その数学的モデルでこのような欠落箇所を予測することにした。Greytakは、やや品質の劣るDNAは、確実度の低い予測を出してしまうことがあるが、そうした問題は稀だと言う。

パラボン社の目標は野心的だった。警察にただ容疑者の髪の色は薄く目はグリーンだと伝えるだけでなく、DNA試料からその人の家系の総合的解析と合成された顔のスケッチを提供したいと考えた。この手順は「スナップショット」と名付けられ、2014年12月にリリースされた。2018年以来、警察は同社の遺伝系図学とフェノタイピング法の助けを借りて120件以上の事件を解決しているとパラボン社は述べている。

他の会社もDNAフェノタイピング戦略を開発してきた。例えば、SNPを使用して身体的な外観を予測することを専門としていた、今は消滅したアイデンティタス社(Identitas)や、DNA塩基配列解読の巨大企業イルミナ(Illumina;米国カリフォルニア州サンディエゴ)などだ。イルミナ社は法医学部門を2017年に独立させてベロジェン(Verogen;同じくカリフォルニア州サンディエゴ)という新しい会社を立ち上げた。

また、いくつかの大学の研究室もDNAフェノタイピングの研究を行っている。エラスムス大学医療センター(オランダ・ロッテルダム)では、Manfred Kayser(アイデンティタス社の元顧問)が、2011年にDNAから目の色を予測するアイリスプレックス(IrisPlex)を開発した3。それ以来、彼のチームは、もっと多くの遺伝子変化を捉えて、髪の色や手触りなどの認証可能な特性を加えるために、さらに多くのSNPを加えている。いったんKayserの技術が科学論文で検証されると、オランダ警察はその技術を使用し始めた。最も有名なのは2012年の例だ。16歳のMarianne Vaatstraがレイプされて殺された事件は、おそらく遺体が発見された場所近くの難民施設の居住者の犯行によるものではないことが、この技術によって示されたのである。

Kayserは、パラボン社のように異なった特徴をつなぎ合わせて人の顔を再構築しようとはしていない。代わりに彼は、警察の捜査の手掛かりとして、個々の特色(例えば、とび色の髪や薄茶色の目)を使用する。彼は、スナップショットは査読付きの学術論文として評価されていない技術であるため、問題が多いと考えている。

「私たちが顔について知っていることは、非常に限られています。それなのに、パラボン社はDNAから顔を予測できると言う。彼らがどのようにしてそれを行っているのか、そしてその妥当性をどのように評価しているのかを論文で発表していないことは非常に良くないことです」とKayserは言う。科学者たちは特定の遺伝子のバリアントと身体的な特徴との関係に関して何百もの論文を発表してきたが、これらの個々の特色がどのように独特な人間の顔になるのかはまだ分かっていないのだとKayserは言う。

DNAフェノタイピングの研究を行っているペンシルべニア州立大学(米国ユニバーシティーパーク)の遺伝学者Mark Shriverは、容貌に対する家系の影響は非常に強いので、パラボン社のデータは一連の平均的で一般的な顔を作成しているにすぎず、その後で同社が鼻をちょいとつまんで味を付けているだけではないかと疑っている。パラボン社が機械学習システムで使用しているデータとアルゴリズムを見ずには、「私たちは、顔の外観を推定する彼らの能力が偶然よりも優れているのか、あるいは私たちが家系に関して知っていることに基づく近似にすぎないのかは定かでありません」と、Shriverは言う。

Armentroutは、自社のデータベースのSNPと顔との関連は、パラボン社の数学的モデルにとって十分な品質であり、そして警察の満足度が、彼が必要とする全ての証拠なのだと言う。また、パラボン社が論文発表をしないからといって、方法に欠陥があるわけではないと主張する。しかし、Shriverは、犯人が逮捕されたからといって、パラボン社が主張するように、スナップショットがうまく働いていることを意味するわけではないと言う。彼はまた、警察にはスナップショット・プロファイルが彼らの容疑者に合致することを厳密に示す方法がないとも言う。

法医学の未来

パラボン社がDNAフェノタイピングを自社のポートフォリオに入れる一方、ベロジェン社や民間のDNA検査会社ファミリーツリーDNA社(FamilyTreeDNA;米国テキサス州ヒューストン)なども、法遺伝系図学の手法を使ったやり方を模索し始めた。2019年12月に、ベロジェン社はGEDMatchを買収したと発表し、現在、自社の145万のDNAプロファイルのうち28万を警察の捜索に提供している。ベロジェン社の最高経営責任者のBrett Williamsは、GEDMatchは法遺伝系図学の要であると認識しており、同社のアクセスを保護したいと考えていると述べる。「あなたにはプライバシーを守る権利があります。そして同時に、殺害やレイプの被害者にならないという権利もあるのです」と、Williamsは言う。しかし、2020年7月に、GEDMatchはハッキングされて、ユーザーのオプトアウト設定が数時間無効になり、ユーザーの同意なしに彼らのデータが警察の検索に利用された可能性があった。ベロジェン社は、「ユーザーのデータが、起こり得る攻撃に対し保護されていることが絶対に確実になるまで」GEDMatchを停止すると声明を発表した。

公式ルートを通じてユーザーのプロファイルにアクセスしようとする試みもあった。米国フロリダ州オーランドの刑事が、2019年10月に、容疑者が残したDNAから親類を見つけるという試みのために全てのGEDMatchプロファイルを使用する捜査令状を入手したと発表した。系図会社のアンセストリーは2020年2月に、ペンシルべニアの捜査令状に立ち向かって勝利した。Williamsは、ベロジェン社が将来受け取るどんな令状とも戦うと述べている。差し当たり、米国司法省は暫定的なガイドラインを発表して、レイプや殺人などの重大な凶悪犯罪のみに、そして他の手掛かりがなくなってしまった場合にのみ、警察が使用できるようにした。重要なことに、ガイドラインでは、系図のみでは容疑者を逮捕できないと明記している。決定的な「合致」を提供するには、従来の法遺伝学的手法を使用しなければならない。

ミーニョ大学(ポルトガル・ブラガ)の社会学者Helena Machadoは、遺伝系図やDNAフェノタイピングを警察が使用することに反対していないが、系図と犯罪を結び付ける研究は、特定の家族や民族集団に対する偏見につながる可能性があると懸念を示している。「特定の家族は犯罪を犯す傾向が高いという考え方を強めることになるかもしれません」と彼女は言う。遺伝学と犯罪との結び付きを強調し過ぎると、法律違反につながる社会的、経済的要因に焦点を合わせなくなる可能性が高くなるだろう。

一方、ArmentroutとKayserはどちらも、DNA技術は目撃者の証言を裏付けるための具体的な証拠を提供することによって警察の偏見を減らすのに役立つかもしれないし、DNAフェノタイピングは容疑者候補の外見に関する詳細を警察に提供することによって人種によるプロファイリングを減少させるだろうと述べる。

しかし、アムステルダム大学(オランダ)の社会学者Amade Mʼcharekは、この考え方は無邪気過ぎると言う。特に、人種的マイノリティーに対する警察の暴力行為の発生を見る限りにおいて。「個人的に知らない場合、私たちが見るのは人種のみということが多いのです」と彼女は言う。

Mʼcharekの懸念は根拠のないものではない。これらの技術がマイノリティー集団のメンバーを標的とした差別に既に使用されているとMoreauは言う。米国国土安全保障省は、2020年1月に移民税関捜査局(ICE)が、移民抑留者からDNAを集めて、その結果得られた塩基配列を連邦捜査局の公式の法医学DNAデータベースであるCODIS(Combined DNA Index System)にアップロードするパイロットプログラムを始めたと発表した。このイニシアチブは、国土安全保障省が亡命を申請している家族に血縁関係があるかどうかを検査する「迅速DNA技術」を使用するようになるだろうという2019年の発表に連動するものだ(ICEにコメントを求めたが回答はなかった)。

中国の北西部では当局者が、遺伝的家系を使用してウイグル少数民族グループのメンバーを特定している。2017年7月に、全民健康体検プログラムの一環として、中国政府は新疆ウイグル自治区の12〜65歳の住民全員の虹彩スキャン、指紋、およびDNAを集め始めた。このプログラムは人権団体に批判されてきた。非政府組織ヒューマン・ライツ・ウオッチの新疆からの報告によれば、これまで100万人以上のウイグル人が強制収容所に入れられているという。「もしも当局にこのように重要な情報とこのように強力な個人に対する影響力を持たせたなら、社会がどのような形になっていくか、あなたは非常に心配になり始めるでしょう」と、Moreauは言う。「人々をコントロールしたいから、彼らをデータベースに入れるのです」。

Moreauは、何人かの中国人科学者が、ちょうどスナップショットと同じように、ウイグル人のDNAを顔写真に変える研究を行っていると言う。パラボン社は、中国の研究には関わっていないと述べている。

ユタ州の事件に対する議論にもかかわらず、いや、もしかするとそのせいで、Rogersは法医学における遺伝子技術の未来に楽観的だ。「いずれ、しかもそう遠くない未来に、人々は遺伝系図学を警察が使用することを受け入れ、恐れなくなると、私は考えています」と彼は言う。

Taggartはというと、GEDMatchを使用したことを後悔していない。彼が絞り込んだ容疑者は罪を認め、今もなお拘留中である。そしてTaggartは、彼の町はおかげで安全だと確信している。「Curtis Rogersは私たちの命を救うためにこれを行っているのだと信じています」。

(翻訳:古川奈々子)

Carrie Arnoldは、米国バージニア州リッチモンド周辺を拠点とする科学ジャーナリスト。

参考文献

  1. Stern, S. A. et al. Preprint at https://arxiv.org/abs/1910.08833 (2020).
  2. Nimmo, F. et al. Nature 540, 94–96 (2016).
  3. Walsh, S. et al. Forensic Sci. Int. Genet. 7, 98–115 (2011).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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