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太陽系の試料を持ち帰る探査機たち

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2020.201104

原文:Nature (2020-08-06) | doi: 10.1038/d41586-020-02185-9 | How space missions snatch pieces of other worlds and bring them back to Earth

Alexandra Witze

人類が地球に持ち帰ってきた月や小惑星、彗星、それから太陽風の中の岩石や微粒子は、太陽系に関する我々の理解を大きく変えてきた。

小惑星ベンヌの試料も、2023年に地球に持ち帰られる予定だ。ベンヌ着地に成功したNASAの探査機「オシリス・レックス」は2020年10月21日に試料採取を開始した。 | 拡大する

NASA/Goddard/University of Arizona/Lockheed Martin

NASAは今、惑星科学者たちの長年の夢である火星からのサンプルリターンに世界で初めて挑もうとしている。夢の実現に向けた第一歩として2020年7月30日に打ち上げられた火星探査車「パーサビアランス」は、順調にいけば2021年2月に火星に到着し、その地表を走り回って試料を採取、保管する。そしていつの日か、火星にやってきた別の探査機がこの試料を回収し、地球に向けて出発する。つまりパーサビアランスが採取する岩石は、地球に持ち帰る最初の火星試料となる。

火星の岩石試料は、月や小惑星など太陽系天体から持ち帰った貴重な試料のコレクションに加えられる。これらの試料は太陽系に関する科学的研究のあり方を大きく変えてきた。

科学者が惑星探査ミッションに頼ることなく他の惑星の岩石を直接調べようとしたら、地球に落ちてきた隕石を分析するしかない。しかし、ロンドン大学ロイヤル・ホロウェイ校(英国エガム)の惑星科学者Queenie Hoi Shan Chanは、隕石が落ちてくることなどめったにないと言う。

それ故、各国の宇宙機関は幾多の困難を乗り越えて、月や火星などのかけらを採取しに行く。研究者たちは、小さな探査機には搭載できない装置や技術を完備した実験室で試料を調べたいのだとChanは言う。

最初の、そして最大規模の試料は月からもたらされた。1969年〜72年にかけてNASAのアポロ計画に従事した12人の宇宙飛行士たちは、合計382kgの月の石を持ち帰った(「太陽系の試料を採取する」参照)。月の石の研究は、その後の太陽系の科学的理解を書き換えた。

太陽系の試料を採取する
各国の宇宙機関は、月や小惑星や彗星の他、太陽風の中にも探査機を送り込んで岩石や微粒子を採取し、地球に持ち帰っている。こうした物質は太陽系やその天体に関する私たちの理解を大きく変容させた。サンプルリターン・ミッションの次なるステップとして、NASAの探査車パーサビアランスは、新しいフロンティアである火星に向かっている。

1. 月
1969~72年:NASA のアポロ計画が382kgの月の石を採取。
1970年:ソ連のルナ16号が101gの月の石を採取。
1972年:ルナ20号、55g。
1976年:ルナ24号、170g。
今後:中国の嫦娥5号、NASAのアルテミス計画。
2. 火星
今後:日本の火星衛星探査計画(Martian Moons eXploration:MMX)は、早ければ2029年にも衛星フォボスの物質を持ち帰る。NASAの探査車パーサビアランスは30本の筒状の容器に火星の岩石と土を詰め、2031年までに別の探査機がそれを回収して地球に持ち帰る。
3. 小惑星
2010年:日本の探査機「はやぶさ」が小惑星イトカワから1500粒以上の微粒子を持ち帰った。
2019年:「はやぶさ2」が小惑星リュウグウのサンプルを採取し、地球に向けて出発した。
今後:NASAの探査機「オシリス・レックス」が小惑星ベンヌから試料を採取。
4. 太陽風
2001~04年:NASAの太陽探査機「ジェネシス(Genesis)」が1850粒以上の太陽風粒子を採取。
5. ビルト2彗星
2004年:NASAの探査機「スターダスト」がビルト第2彗星の尾から1万粒以上の微粒子を採取。 | 拡大する

ワシントン大学(米国シアトル)の天文学者Donald Brownleeは、「アポロ11号が月面に着陸した当時は、月は低温で形成されたと考えられていました。けれどもやがて、その推測は大間違いだったことが分かりました」と言う。月が誕生したのは今から45億年以上も前だが、月の石を調べることで、当時の月が高温で、溶岩の海に覆われていたことが明らかになったのだ。

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JSC/NASA

ソ連が1970年から76年にかけて月に無人探査機を送り込んだ3回の「ルナ(Luna)」ミッションも、月の石を少量持ち帰っている。また、中国が2020年末に打ち上げを予定している無人探査機「嫦娥5号」も、月から試料を持ち帰る予定だ。

小惑星から物質を持ち帰った宇宙機関は、現時点では日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)だけである。2010年、JAXAの小惑星探査機「はやぶさ」は、ジャガイモ型の小惑星イトカワから1500粒以上の貴重な微粒子を持ち帰った。これらの物質の研究から、地球に落ちてくる隕石の中で最も一般的なタイプの「普通コンドライト」の母天体が、ケイ酸塩を豊富に含むイトカワのようなS型小惑星であることなどが裏付けられた。間もなく、小惑星の試料があと2つ、地球に到着する。2020年12月にはJAXAの2回目の小惑星ミッション「はやぶさ2」が、炭素を豊富に含むC型小惑星リュウグウから物質を持ち帰る予定なのだ。また、現在ダイヤモンド型の小惑星ベンヌを周回しているNASAの小惑星探査機「オシリス・レックス(OSIRIS-REx)」は、2020年10月に試料採取に挑み、2023年に地球に帰還する予定だ。

NASAは彗星からも物質を採取している。彗星探査機「スターダスト(Stardust)」は2004年に短周期彗星ビルト第2彗星(81P/Wild 2)の尾の中を駆け抜けながら試料を採取したが、この探査機が持ち帰った試料を地球で分析したところ、意外な結果が出た。

そもそもNASAの科学者たちがこのミッションを「スターダスト」と名付けたのは、彗星の核の氷の中には何十億年も前に他の恒星からきた塵が閉じ込められていると考えていたからだ。このミッションの主任研究員だったBrownleeは、「この仮説も大間違いでした」と言う。彗星の塵は太陽の近くでかなりの高温になったときに形成されたものであることが分かったのだ。これは、高温の物質が初期の太陽系のすみずみまで運ばれて、何らかの仕組みにより彗星の氷の核に取り込まれたことを意味する。

火星からのサンプルリターンは、これまでのどのミッションよりも大きな挑戦である。火星は月よりも遠くにある上、彗星や小惑星よりも重力が大きいため、試料を回収した探査機が表面から脱出して地球に帰還するのはより困難なことなのだ。

NASAはパーサビアランスが火星のイェゼロ・クレーター内の着陸地点の岩石と土を掘削し、それらを少なくとも30本の筒状の容器に詰めることを期待している。長期計画では、NASAと欧州宇宙機関(ESA)が容器を回収して火星周回軌道に打ち上げる第2の探査機と、火星周回軌道で容器を受け取って地球に持ち帰る第3の探査機が必要だ。試料が地球に戻る予定は2031年である。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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