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一方向だけの超伝導を実現

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2020.201134

原文:Nature (2020-08-20) | doi: 10.1038/d41586-020-02380-8 | One-way supercurrent achieved in an electrically polar film

井手上敏也(いでうえ・としや)岩佐義宏(いわさ・よしひろ)

ある方向の電流を流すと超伝導状態になるが、その逆方向の電流を流すと超伝導状態にならない(常伝導になる)薄膜が作られた。これは、電力消費が極めて低い電子工学素子の実現につながるかもしれない。

双方向の電流を一方向の電流に変換する整流は、現代の電子工学で不可欠なプロセスだ。整流を実現する電子工学素子はダイオードと呼ばれ、交流を直流に変えたり、超過電圧から電気回路を守ったり、電磁波を検出したりするために広く使われている。抵抗ゼロで流れる超伝導電流にこの概念を広げることは、基礎科学の観点と技術的観点の両方で魅力的な課題だ。京都大学化学研究所(京都府宇治市)の安藤冬希らは、一方向にのみ電気抵抗がゼロになる超伝導ダイオード効果とその磁場による制御を、空間反転対称性が破れた、極性構造(電気的な偏りがある構造)を持つ薄膜で実現し、Nature 2020年8月20日号373ページで報告した1。安藤らの研究結果は、エネルギー損失のない電荷輸送を一方向に限ることが可能であることを示した。

整流は、従来のダイオードではpn接合などのヘテロ接合(2種の半導体の間の界面)を用いて実現される(図1a)。pn接合の場合、半導体の1つはp型であり、これは正に帯電した、正孔(ホール)と呼ばれる電子の空席を余分に含んでいる。もう1つの半導体はn型で、負に帯電した電子を余分に含んでいる。電流が容易に流れるのは、界面の1つの側からもう1つの側へだけだ2。こうした構造は、今日の多くの素子の基礎的要素だが、接合での電気抵抗はゼロにならないため、この方法で超伝導ダイオード効果を実現することは難しい。

空間反転対称性が破れた導体は、一様で接合がなくても固有の整流効果を示す(図1a)。この効果は現在、こうした材料の基本的な特徴であり、空間反転対称性が破れた固体の特徴的な電子状態、磁気構造、相互作用効果、電子の幾何学的あるいはトポロジカルな性質を反映して現れた物理的性質と理解されている。この固有の整流効果が、時間反転対称性の破れとともに起こる場合、磁気カイラル異方性と呼ばれる。この現象は、2001年に初めて報告されて以来3、さまざまな量子材料と界面系で研究されてきた4-7。磁気カイラル異方性の重要な点は、適切な対称性条件の下でなら、原理的には超伝導相を含め、物質のいかなる量子相でも起こり得ることだ。さらに、整流された電流の方向は、磁場や磁化の方向を逆にすることによって反転させることができる。

2017年、空間反転対称性が破れた二次元超伝導体での磁気カイラル異方性が報告された4。この超伝導体における整流効果は、クーパー対(超伝導状態を担う電子対)の非従来型の対形成対称性など、エキゾチックな超伝導状態を反映したものだと提案されている。従って、磁気カイラル異方性は、空間反転対称性が破れた超伝導体の実験での強力なプローブ(探針)になる可能性がある4。また、三角形の磁石などの微細構造を持つ超伝導薄膜では、量子渦(超伝導体を貫く磁束)の運動による比較的大きな整流効果が検出されている5。しかし、一方向にだけ抵抗ゼロの状態が保たれる、理想的な超伝導整流器は実現しておらず、その実現が待ち望まれていた。

安藤らは、ニオブ、バナジウム、タンタルを順に繰り返し積み重ねた層で構成される、超格子と呼ばれる人工薄膜を作った。この超格子は、薄膜の積層方向の鏡映対称性が破れているため、極性構造を持つ。安藤らは、一様で接合のない薄膜の面内の電気輸送を調べた。界面6や極性結晶7に関する以前の研究では、磁場を電流と極性軸の両方に垂直にかけたとき、固有の整流効果が面内で観測された。安藤らは、同様の配置を使い、彼らの薄膜で理想的な超伝導ダイオード効果を検出した(図1b)。

安藤らの薄膜は比較的厚い(120nm)ので、三次元の超伝導体と見なすことができる。この薄膜は、4.4K未満の温度に冷却されると、常伝導状態と超伝導状態の間の鋭い転移を示す。この鋭い超伝導転移は、電流が2つの状態間で完全に切り替わり、理想的な超伝導の整流性を実現するために必要だ。さらに、磁場の方向を逆にすることにより、整流された電流の方向を反転させることができる。この性質は現実的な応用に役立つ(図1b)。

図1 整流のさまざまなタイプ
a 整流は、電流を1つの方向には自由に流れるようにし、反対方向にはわずかしか流れない(あるいは全く流れない)ようにする過程だ。この過程は、pn接合で実現できる。pn接合は、p型とn型と呼ばれる2つの型の半導体の間の界面だ。一方、整流は、接合がなく、空間反転対称性が破れた導体でも実現できる。
b 安藤らは、3種の金属を積み重ねた層からなる、極性構造を持つ薄膜を作った1。彼らは、薄膜の極性軸に垂直な磁場をかけ、磁場と極性軸の両方に垂直な、ある値の電流は、一方向にだけ超伝導状態になることを観測した(超伝導状態が壊れる電流値に方向によって差がある)。彼らは、この整流された超伝導電流の方向は、磁場の方向を逆にすることによって反転させることができることを見いだした。 | 拡大する

安藤らの研究結果は、空間反転対称性が破れた超伝導体が、超高感度で電磁場を検出する素子や電力消費が極めて低い素子の作製に大きな可能性を持つことを示している。今回の発見は、さらに興味深い、予想しなかった素子機能への道も開く可能性がある。超格子を用いている点も利点であり、超格子の構造を調節することにより、超伝導ダイオード効果を制御できると考えられる。例えば、適切な構成元素を選び、薄膜の厚さや積み重ねる層の数を最適化することにより、安藤らの薄膜と比べてより応用に適した、超伝導転移温度が高い試料や、整流された電流の反対方向への抵抗が大きい試料を得ることが可能かもしれない。また、整流される電流の方向は、層を積み重ねる順序を逆にすることによって反転させることができる可能性がある。

今後の重要な課題は、この超格子における超伝導状態と超伝導ダイオード効果の微視的メカニズムを明らかにし、完全に理解することだ。安藤らは、ラシュバ効果と呼ばれる、極性構造を持つ系でのよく理解されている相互作用を調べ、超伝導状態における、非従来型の対形成対称性による影響の可能性を議論している。しかし、薄膜の振る舞いには、量子渦の運動や電子散乱過程の寄与があるかもしれない。こうした課題は残っているが、安藤らの研究が、超伝導研究の新たな時代への扉を開いたことは間違いない。

(翻訳:新庄直樹)

井手上敏也・岩佐義宏は、東京大学量子相エレクトロニクス研究センターと 同大学大学院工学系研究科に所属。

参考文献

  1. Ando, F. et al. Nature 584, 373–376 (2020).
  2. Sze, S. M. Semiconductor Devices: Physics and Technology (Wiley, 1981).
  3. Rikken, G. L. J. A., Fölling, J. & Wyder, P. Phys. Rev. Lett. 87, 236602 (2001).
  4. Wakatsuki, R. et al. Sci. Adv. 3, e1602390 (2017).
  5. Villegas, J. E. et al. Science 302, 1188–1191 (2003).
  6. Rikken, G. L. J. A. & Wyder, P. Phys. Rev. Lett. 94, 016601 (2005).
  7. Ideue, T. et al. Nature Phys. 13, 578–583 (2017).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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