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メガコンステレーションの天文観測への影響と対策を示した報告書

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 11 | doi : 10.1038/ndigest.2020.201102

原文:Nature (2020-08-26) | doi: 10.1038/d41586-020-02480-5 | How satellite ‘megaconstellations’ will photobomb astronomy images

Alexandra Witze

大規模な衛星コンステレーションが天文学に及ぼす影響について、これまでで最も詳細な報告書が発表された。報告書では、衛星コンステレーションの天文観測への悪影響は不可避であると結論付けられており、緩和戦略が提示されている。

人工衛星のメガコンステレーションは天文写真に明るい光の筋を残す。NOIRLabの天文学者によると、この写真にはスターリンク衛星による光の筋が少なくとも19本写り込んでいるという。 | 拡大する

CTIO/NOIRLab/NSF/AURA/DECam DELVE Survey

近年、アマゾン社やスペースX社などの民間企業は、地球周回軌道に多くの通信衛星を打ち上げて、「メガコンステレーション」と呼ばれる巨大な衛星網を形成しようとしている。衛星網が地上からの天文観測に及ぼす影響をこれまでで最も詳細に評価した報告書は、メガコンステレーションは天文学者が収集するデータを汚染し、私たちが見上げる夜空を大きく変えることになるだろうと結論付けている。

望遠鏡で空を眺めていると、太陽光を反射した人工衛星が明るい光の筋のように見えることがある。こうした光の筋は天文観測の妨げとなり、基礎物理学や宇宙論の研究や、系外惑星の探索、地球を脅かす小惑星の監視などに影響を及ぼす。米国天文学会とNOIRLab[全米科学財団(NSF)から資金提供を受けている米国の天文台の統括組織]が2020年8月25日に発表した報告書は、「重大な干渉の結果、一部の現象が発見されなくなるのは確実だと考えられる」としている。

この影響はある程度小さくすることができる。例えば、天文学者の側で、衛星が通過する時間帯を避けて観測スケジュールを組んだり、衛星運用企業と協力して太陽光を反射しにくい衛星を開発したりするなどの対策を取るのだ。けれども報告書は、太陽光がよく当たる高高度衛星は特に問題があると指摘している。

カリフォルニア大学デービス校(米国)の物理学者Tony Tysonは、「夜中に衛星コンステレーションから逃れられる場所などありません」と言う。

影響は避けられない

世界中の人々にブロードバンド・インターネットサービスを提供するため、今後数年で数万基の人工衛星が打ち上げられる予定になっている。航空宇宙企業であるスペースX社(米国カリフォルニア州ホーソーン)は、配備を計画している1万2000基のスターリンク衛星のうち700基以上を既に打ち上げている。同様の事業を目指す他の企業にはワンウェブ社(OneWeb;英国ロンドン)とアマゾン社がある。前者は、4万8000基からなる衛星網を目指して74基の衛星を打ち上げた。後者は、3236基の衛星を打ち上げるカイパー計画(Project Kuiper)について、2020年7月に米国政府から認可を受けた。

スペースX社、ワンウェブ社、アマゾン社はいずれも、衛星の明るさを緩和する方法について天文学者たちと話し合いを持ってきた。科学者たちがこの問題に気付いたのは、スペースX社がスターリンク衛星の第一陣を2019年6月に打ち上げた後だった。天文学者たちはそれ以来、問題がどの程度深刻なものになるのか、自分たちに何ができるのかを見極めようとしている。今回の報告書は、衛星コンステレーションの問題の大きさについて、これまでで最も技術的な評価を行ったものである。報告書には、2020年6月に天文学者、衛星運用企業、アマチュア天文家などを集めて開かれたワークショップの成果が紹介されている。

NOIRLabの天文学者で、報告書作成チームの共同議長を務めたConnie Walkerは、地上の可視光望遠鏡や赤外線望遠鏡への影響をゼロにするためには、打ち上げる衛星の数をゼロにするしかないと言う。

メガコンステレーションの多くは既に認可を得ており、一部は打ち上げが始まっているため、天文学者たちはこうした明るい光の筋を回避する方法を見つけようと試行錯誤している。最も影響を受けるのは広視野サーベイだ。中でもTysonが主任研究員を務めるべラ・C・ルービン天文台の観測プロジェクトが受ける影響は非常に大きい。2022年の稼働を予定しているこの天文台では、宇宙が時間の経過とともにどのように変化するかを解明するため、観測可能な空の全域をカバーする広視野画像を、数日ごとに10年にわたって撮影する。

地上からの観測にとって光の筋が最悪の状態になるのは、衛星が太陽光を受けていて地球の影に入っていない日没と日の出の前後である。これは、地球近傍小惑星の探索など、この時間帯に行われる研究に悪影響を及ぼす。2020年初めに発表されたシミュレーション1は、ルービン天文台で日没と日の出の前後に行う露光の30〜40%が影響を受ける可能性があることを詳細に説明し、このたびの報告書の結論に採用されている。

報告書によると、写り込みの問題は、地上600km以上の高高度を周回する衛星で特に深刻になるという。こうした衛星は地球の影の外にとどまり、場所によっては一晩中見えていることもあるからだ。ワンウェブ社が計画しているメガコンステレーションは高度1200kmを周回するもので、このカテゴリーに該当する。

写り込みを減らす

ワンウェブ社の代表者たちは、この問題を緩和する方法について話し合いを始めるために、米国天文学会と会合を持ってきた。しかし同社は2020年3月に経営破綻し、英国宇宙局などからなるコンソーシアムによって買収されたため、現在は英国宇宙局と英国王立天文学会の間で話し合いが進められている。アマゾン社も、天文学界の代表者たちと何をするべきか話し合っている。

人工衛星の明るさや暗さについての国内規制や国際規制は存在しない。報告書は、天文学者と衛星運用企業が協力して、衛星の明るさを評価・低減する方法を開発する努力を続けるよう推奨している。

スペースX社は、多数の衛星の打ち上げを最初に始めたこともあり、この取り組みの先頭を走っている。最新のスターリンク衛星は2020年9月3日、約60基ずつの打ち上げが予定されている。約1万2000基のスターリンク衛星が全て打ち上げられてコンステレーションが完成すると、星がよく見える地域では、日没前後に数百基のスターリンク衛星が肉眼で見えるかもしれない2

スペースX社が衛星を見えにくくするために最初に取った措置の1つは、打ち上げ後すぐに衛星の向きを変えて、反射した太陽光が地上に届きにくくすることだった。また、2020年1月にはスターリンク衛星の1基を黒く塗装して打ち上げて、その効果を検証している。しかし、スペースX社の衛星管理部長Patricia Cooperは、最近のウェビナーで、黒い塗装は衛星を熱的に「高温」にし、インターネット運用に支障を来すと述べている。スターリンク衛星が最終的な位置に到達したときに太陽光を反射する主な部位はアンテナである。そこでスペースX社は、2020年4月から、アンテナに太陽光が当たらないようにするための日除けを付けた衛星の打ち上げを開始した。

日除け付きの「バイザーサット(VisorSat)」スターリンク衛星のうち、高度550kmの最終軌道に到達したものはまだ1基だけである。アマチュア天文家らは、日除け付きの衛星はやや暗いように見えると報告している。しかし、天文学者たちはまだ、この変更に大きな効果があることを裏付けるさらなる証拠を待っている状態だと、ワシントン大学(米国シアトル)の天文学者Meredith Rawlsは話す。一方スペースX社は、今では全てのスターリンク衛星に日除けを付けて打ち上げている。

衛星が頭上を通過する時間を避けて観測スケジュールを組んだり、画像の汚染をソフトウエアを使って除去したりすれば、衛星コンステレーションによる光の筋を少しは避けられるかもしれない。しかしTysonは、前者の方法では、特定の時刻での衛星の位置について衛星運用企業から詳細な情報を得る必要があるし、後者の方法では、除去されたピクセルと共に失われた重要な科学的知識を復元することはできなくなると指摘する3

衛星のメガコンステレーションは、地上の電波望遠鏡による観測を妨害する恐れがあるだけでなく、宇宙空間の混雑も助長する。NOIRLabと米国天文学会は、こうしたメガコンステレーションに関する方針や規制の問題を評価するためのワークショップの開催を2021年に計画している。

また、米国政府に大きな影響力を持つ諮問グループ「JASON」(米国の科学者や技術者からなる組織で、機密性のある問題について米国政府に助言を行う)も、NSFのために、衛星メガコンステレーションと天文学に関する報告書の作成に取り掛かっている。

(翻訳:三枝小夜子)

参考文献

  1. Hainaut, O. R. & Williams, A. P. Astron. Astrophys. 636, A121 (2020).
  2. McDowell, J. C. Astrophys. J. Lett. 892, L36 (2020).
  3. Tyson, J. A. et al. Preprint at https://arxiv.org/abs/2006.12417 (2020).

キーワード

Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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