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老化細胞を標的とするように設計されたT細胞

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2020.201037

原文:Nature (2020-07-02) | doi: 10.1038/d41586-020-01759-x | T cells engineered to target senescence

Verena Wagner & Jesús Gil

老化は細胞の加齢の特徴であり、多くの疾患に関与している。老化細胞を標的とする免疫細胞によって老化細胞を除去する新しい方法は、治療選択肢を改善できる可能性がある。

老化は細胞のストレス応答の1種で、状況によっては有害になることがあるため、老化細胞を標的とする治療法を開発する取り組みが進行中である。このほどスローン・ケタリング記念がんセンター(米国ニューヨーク)のCorina Amorら1は、マウスにおいて老化細胞を選択的に除去する方法を開発し、Nature 2020年7月2日号127ページで報告した。

加齢した細胞、損傷を受けた細胞あるいは前がん状態の細胞は、老化に入ると、細胞周期が永続的な停止状態になり、分裂が防止される。老化細胞は、因子群からなる複雑なカクテルを分泌して、老化関連分泌表現型(SASP)と呼ばれる応答を引き起こす。これにより、免疫系のT細胞とNK細胞が誘導され、老化細胞の除去が促進される。このような条件下では、老化は一過性であり、個体に利益がもたらされる2

しかし、老化細胞がいつまでも残存すると、慢性炎症が促進されて、アテローム性動脈硬化症やがん、線維症(組織瘢痕化の1種)などの加齢関連疾患が引き起こされることがある。そのため老化細胞の除去には、有望な治療戦略として注目が集まり始めている。この戦略によって多くの疾患の転帰が改善できる可能性があり、マウスにおける研究では寿命を延ばすことが報告された3。老化細胞を標的とするために可能な方法の1つは、老化細胞を選択的に死滅させる薬剤(老化細胞除去薬と呼ばれる)を用いる方法である(2019年5月号「明らかになってきた細胞の老化像」参照)。Amorらは、正常環境にある場合は免疫細胞が老化細胞の除去に関与しているという事実から着想を得て、異なる手法を採った4

Amorらは、抗がん治療に現在使われている「CAR T細胞」として知られている技術を採用した。この治療法では、患者の体内からT細胞を取り出して、T細胞にがん細胞を標的とする能力を高める改変を加えた後に体内に戻す。このような改変を受けたT細胞は、キメラ抗原受容体(CAR)と呼ばれる分子を発現している。CARは、がん細胞の表面に存在するタンパク質の特定の断片(抗原と呼ばれる)を認識して結合するように設計されている。CAR T細胞は、この相互作用が起こると活性化されて、腫瘍細胞を殺傷するようになる5。CAR T細胞が健康な細胞を殺してしまうと重篤な副作用につながる可能性があるため、腫瘍細胞のみに発現している抗原を特定することが、この技術の重要な課題である。

Amorらは、老化細胞に特異的な抗原を見つけるために、ヒトとマウスの老化細胞に見られる膜貫通タンパク質の発現を解析した。特定された最も有望な8候補のうちの1つは、ウロキナーゼ型プラスミノーゲンアクチベーター受容体(uPAR)であった。ヒト組織におけるタンパク質やRNAの発現に関する既知のデータを調べると、uPARは、中枢神経系や心臓、肝臓をはじめとするヒトの体のほとんどの器官で検出されないか、低レベルでのみ存在していることが明らかになった。しかしuPARは、in vitroおよびin vivoの両方で老化細胞に高発現していることをAmorらは見いだした。興味深いことに、膜貫通領域を欠損する可溶型uPAR(suPAR)は、SASP応答の際に分泌される因子である。suPARの存在は、糖尿病6や腎疾患7など、老化が関与する慢性疾患の一部において顕著な特徴とされる。

Amorらは、uPARが老化細胞の普遍的なマーカーであることを特定した後、uPARを標的とするようにCAR T細胞を改変した(図1)。Amorらは、前がん状態(正常な細胞よりもがんになりやすい状態)の細胞に老化を起こせること、また、多くの抗がん療法が腫瘍細胞に老化を引き起こし分裂を停止させるという事実を考えて、これらのCAR T細胞ががん治療においてどれほどの効果があるかを調べた。すると、肝がんおよび肺がんのマウスモデルにおいてuPARを標的とするCAR T細胞での治療は、老化した前悪性状態および悪性の細胞を除去することが報告された。抗がん療法は、抗がん療法に続けて老化細胞を標的とする治療を行うことで改善される可能性があると2018年に提案されていた8が、Amorらのマウスでの研究から、老化細胞を除去するCAR T細胞を用いた彼らの手法が抗がん治療の有効性を高めることが裏付けられた。

図1 CAR T細胞を用いて老化細胞を除去できる
a 機能不全の細胞は一般的に老化と呼ばれる非分裂状態に入る。このような老化細胞は、老化関連分泌表現型(SASP)と呼ばれる応答を示す。この応答はさまざまな分子の放出に関連していて、免疫細胞を誘導し、次にこの免疫細胞が老化細胞を死滅させる。
b この過程が正常に機能せず、老化細胞がいつまでも残存すると、老化細胞は、がんや肝線維症(細胞外マトリックス物質の沈着に関連する組織瘢痕化)などの疾患に関与する可能性がある。
c Amorら1は老化細胞を選択的に除去する方法を報告している。Amorらは、老化細胞の表面に発現するタンパク質(uPAR)を特定し、T細胞と呼ばれる免疫細胞に改変を加えて、uPARを認識する受容体を発現させた。このタイプの受容体は、キメラ抗原受容体(CAR)と呼ばれている。T細胞のCAR がuPARを認識すると、uPARを発現する老化細胞が殺傷される。Amorらは、このような老化細胞を除去するCAR T細胞が、がんや肝線維症のマウスモデルにおいて疾患と闘うのに役立つと報告している。 | 拡大する

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老化細胞を除去するCAR T細胞を用いる手法に関心が集まる理由の一部は、老化が関与する多くの疾患の治療法となり得ることである。実際にAmorらは、マウスに老化細胞を除去するCAR T細胞を投与すると、重度の脂肪性肝疾患である非アルコール性脂肪性肝炎マウスモデルにおいて、肝線維症の転帰が改善されることを示している。

ナビトクラックスは、前臨床試験で広く使用された老化細胞除去薬であるが、毒性を示す可能性があり、その使用が制限されている。これが、老化細胞を標的とする新しい除去薬や他の方法を特定する取り組みにつながっている9。Amorらは、老化細胞を除去するCAR T細胞を用いれば、老化細胞除去薬に関連する副作用の一部を取り除くことや、有効性を拡大することができるかもしれないと考えている。しかし、老化細胞を除去するCAR T細胞は、必ずしも問題がないわけではない。CAR T細胞を治療に使用した場合の一般的な合併症は、サイトカイン放出症候群(サイトカインストームとしても知られる)と呼ばれていて、激しいT細胞応答によって発熱が引き起こされ、血圧や呼吸にも影響を及ぼす10。Amorらは、老化細胞を除去するCAR T細胞の投与量が多い場合にサイトカイン放出症候群が引き起こされることを観察したが、投与量を減らすことで、この問題を回避しながら治療効果を維持した。

腫瘍細胞を攻撃するT細胞。 | 拡大する

抗がん療法にCAR T細胞を用いる際の制限は他にもある。がん細胞は時間の経過とともに分裂するので、腫瘍の増殖を制御するには、CAR T細胞の持続的な活性が必要である。老化細胞は増殖しないため、活性の持続性は老化細胞を標的とする場合には問題にならないかもしれない。しかし、多くの固形腫瘍は、免疫抑制性の組織微小環境に関連しており、これがCAR T細胞を疲弊と呼ばれる機能不全の状態にする可能性がある。腫瘍形成の際に老化細胞は免疫抑制性微小環境を促進することができる11。Amorらは、今回の研究では細胞老化を介する免疫抑制を観察しなかったが、それがこの手法の弱点かもしれない。老化細胞が免疫系の機能をどのように妨げるかについては、より深い理解が必要である。

老化細胞を除去するCAR T細胞は患者の治療に使用できるだろうか? CAR T細胞のクリニックでの使用は高額なため、この治療を行うか検討するための基準は慎重に選択する必要がある。Amorらが用いた、マウスuPARを標的とするCAR T細胞のように、ヒトuPARを標的とするCAR T細胞が安全で有効であるかどうかを判断することも重要と考えられる。その他には、おそらくこの方法は、老化細胞の表面にある他のタンパク質(DPP4や酸化ビメンチン12,13など)を標的として老化細胞を除去するCAR T細胞を用いることで改善される可能性がある 。また、単一細胞レベルの分解能でヒト遺伝子の発現をマッピングする研究でも大きな進歩があったため、老化細胞を除去するCAR T細胞の設計において使用可能な標的がさらに明らかになる可能性がある。老化細胞を標的とするCAR T細胞を用いて、2つの有望な治療戦略を統合することは、特定の疾患と闘うための強力な組み合わせになり得る。

(翻訳:三谷祐貴子)

Verena Wagner & Jesús Gilは、MRCロンドン医科学研究所およびロンドン大学インペリアルカレッジ(英国)に所属。

参考文献

  1. Amor, C. et al. Nature 583, 127–132 (2020).
  2. Gorgoulis, V. et al. Cell 179, 813–827 (2019).
  3. Baker, D. J. et al. Nature 530, 184–189 (2016).
  4. Kang, T.-W. et al. Nature 479, 547–551 (2011).
  5. Lim, W. A. & June, C. H. Cell 168, 724–740 (2017).
  6. Curovic, V. R. et al. Diabetes Care 42, 1112–1119 (2019).
  7. Quaglia, M., Musetti, C. & Cantaluppi, V. N. Engl. J. Med. 374, 890–891 (2016).
  8. Wang, L. & Bernards, R. Front. Med. 12, 490–495 (2018).
  9. Ovadya, Y. & Krizhanovsky, V. J. Clin. Invest. 128, 1247–1254 (2018).
  10. Brudno, J. N. & Kochenderfer, J. N. Blood 127, 3321–3330 (2016).
  11. Eggert, T. et al. Cancer Cell 30, 533–547 (2016).
  12. Kim, K. M. et al. Genes Dev. 31, 1529–1534 (2017).
  13. Frescas, D. et al. Proc. Natl Acad. Sci. USA 114, E1668–E1677 (2017).

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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