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紙切れで山火事と闘う

コロラド州のパイク国有林を襲う山火事。 Credit: MILEHIGHTRAVELER/E+/GETTY

近年、山火事で世界各地が大打撃を受け、その激しさはなおもひどくなっている。今回、中国人民大学の化学者Yapei Wangが率いる研究チームは被害の軽減を願い、より早く、労力をかけずにこうした火災を検知できる安価なセンサーを開発したという。

現在の火災検知法は人間の注意力に頼るところが大きく、効果的な対応が遅れる場合がある。ほとんどの山火事は一般市民から通報されており、それ以外は徒歩での定期巡回や監視塔での発見による。上空を通過する航空機や衛星が異変を見つけることもあるが、「炎はまず地上に現れます」とWangは言う。「空から火が見えたときには、既に手遅れなのです」。

イオン液体を利用

Wangによると、これに対して新センサーは木の幹の根元付近に設置でき、急激な温度上昇が生じると近くの受信機に無線信号を送るという。この熱はセンサー自体を駆動するエネルギーにもなるため、電池交換の必要がない。カギとなるのは「イオン液体」という溶融塩だ。温度が急変するとイオン液体の内部で電子が移動し、生じた電気エネルギーによって電極が信号を送り出す。Wangらは、この物質を通常の紙の上に印刷し、1個わずか40セントのセンサーを作った。この成果は、2020年6月に、ACS Applied Materials & Interfaces に掲載された。

マイアミ大学(米国)の地理学者Jessica McCarty(この研究には加わっていない)は、この種のセンサーは原野と都市部が接しているサンディエゴのような場所で役立つだろうという。私有地まで延びる谷で火災が発生した場合、こうした装置があれば「家のオーナーは消防当局が火災を検知する前にそれを知ることができます」。

だが、消火活動に携わるさまざまな機関の連携を改善することの方がもっと重要だと、ネバダ大学リノ校(米国)の地震学者Graham Kent(同じくこの研究には加わっていない)は言う。Kentはカリフォルニアとネバダ、オレゴンの各州でカメラとクラウドソーシングによる情報提供によって山火事を監視するネットワーク「アラートワイルドファイア」の責任者を務めている。「初動から消火に至る全過程はバレエの舞台のようなもので、きちんとした振りつけが必要です」とKentは言う。火災の検知から確認、出動、消火活動まで、人員と資材を最適な時間と場所に配分する必要がある。「検知はステップ1にすぎません。ステップ2から98をしくじれば、どんな検知技術があっても無駄になるのです」。

Wangは、研究チームとしての次のステップは装置の信号伝送距離を現在の100m(実用には不十分な可能性がある)から拡張するとともに、装置を防護する覆いを開発することだと言う。McCartyは、装置の効果を実地でテストする必要もあると指摘している。

(翻訳協力:鐘田和彦)

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 10

DOI: 10.1038/ndigest.2020.201017a