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新型コロナウイルス研究注目の論文(9月)

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2020.201012

原文:Nature (2020-05-22) | doi: 10.1038/d41586-020-00502-w | Coronavirus research updates

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)とその感染症(COVID-19)に関する文献で重要なものを Natureが精査し、まとめた(2020年9月)。8月分はこちら

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koto_feja/iSotck/Getty

9月30日

高齢者に有望な最先端ワクチン

COVID-19の最も有力な候補ワクチンの1つを接種した高齢者では、SARS-CoV-2に対する抗体のレベルが高くなった。

エモリー大学医学部(米国ジョージア州アトランタ)のEvan Andersonらは、バイオテクノロジー企業のモデルナ(Moderna;米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)と米国立アレルギー感染症研究所が共同で開発したワクチンについて、56歳以上の40人で試験した(E. J. Anderson et al. N. Engl. J. Med. https://doi.org/fbxj; 2020)。このワクチンは、SARS-CoV-2タンパク質の改変版をコードするRNA断片からなる。

参加者には接種後、侵入してきた病原体を排除できる中和抗体を含む数種類の抗体が見いだされた。2回目のワクチン接種後、参加者の抗体レベルはCOVID-19から回復した対照群と同程度となり、副作用はいずれも概して軽度〜中等度であった。

9月28日

医療従事者の無症候性再感染が検査で判明

インドの病院で、SARS-CoV-2検査で陽性となった2人の医療従事者が数カ月後に再感染したが、どちらも無症状だった。

この2人は25歳の男性と28歳の女性で、COVID-19病棟で働いていた。2人は2020年5月にSARS-CoV-2検査で陽性となったが、どちらも無症状だった(V. Gupta et al. Clin. Inf. Dis. https://doi.org/d97d; 2020)。その後の検査で陰性になったことを確認し、2人は職場に復帰した。ところがどちらも、最初に陽性になってから約3カ月半後に再び陽性となった。両名とも症状はなかったが、ウイルス濃度は5月よりも高かった。

ゲノミクス・統合生物学研究所(インド・ニューデリー)のVinod Scariaらによるゲノム解析から、2人が2回目に感染したSARS-CoV-2は最初に感染したウイルスとは遺伝的に異なることが明らかになった。これは、ウイルスが2人の体内に残留していたのではなく、新たに感染したことを示している。

今回の結果は、無症状の再感染が過小報告されがちであることを示唆していると著者らは述べている。

9月25日

I型インターフェロンの不全がCOVID-19の重症化と関連

SARS-CoV-2感染により生命を脅かされた約1000人の患者を対象とする調査によると、基礎疾患のない若者を含むCOVID-19の重症例のいくつかは、I型インターフェロンと呼ばれる免疫シグナル分子の機能不全と関連している可能性があるという。

I型インターフェロンは、インフルエンザなどのウイルスに対する防御手段として極めて重要である。ロックフェラー大学(米国ニューヨーク)のJean-Laurent Casanovaらは、COVID-19重症患者のDNAを分析して、I型インターフェロンの産生の引き金となる遺伝子の特定の変異を探した(Q. Zhang et al. Science https://doi.org/d95p; 2020)。分析の結果、研究参加者の3.5%がそうした変異を持っていて、I型インターフェロンを作れないことが明らかになった。

2つ目の重症患者研究では、Casanovaとパリ大学(フランス)のPaul Bastardらが自己抗体を調べた(P. Bastard et al. Science https://doi.org/d95q; 2020)。その結果、COVID-19重症患者の10%以上がI型インターフェロン活性を標的とする自己抗体を持っていたのに対し、一般集団ではその割合が0.3%であることが分かった。この自己抗体がI型インターフェロン活性を失わせることが実験室での試験で確認された。

研究者らは、インターフェロンがCOVID-19の治療薬として利用できる可能性を示唆している。

COVID-19が猛威をふるうブラジルのマナウスの墓地では、COVID-19による死者の墓を作るために整地が行われている(右)。 | 拡大する

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9月24日

感染レベルの極端な高さが、都市での流行の鎮静化に役立った可能性

人口200万人の都市マナウス(ブラジル・アマゾナス州)では、人口の3分の2までもがSARS-CoV-2に感染した可能性がある。感染レベルの高さは、ウイルスの広まりを抑えるのに役立った可能性がある。

サンパウロ大学(ブラジル)のEster Sabinoらは、2020年2月〜8月にマナウスの血液バンクで採取された6000以上の血液検体の中からSARS-CoV-2に対する抗体を探した(L. F. Buss et al. preprint at medRxiv https://doi.org/ghcm6h; 2020)。著者らは、抗体検査で陽性となったドナーの割合から、8月初旬までに人口の約66%が感染したと推定している。なお、マナウスでの流行がピークを迎えたのは、その数カ月前の5月である。

著者らは、ウイルスに対する抗体を持つドナーの割合の高さは、マナウスが「集団免疫」を達成した可能性があることを示唆していると述べている。

研究チームによると、この見積もりでは、抗体検査における偽陽性や偽陰性など、いくつかのバイアスの原因が考慮されているという。なお、この論文はまだ査読を受けていない。

9月22日

免疫反応の協調がCOVID-19の制御に役立つ可能性

SARS-CoV-2に感染した65歳以上の人では免疫反応が無秩序に起こる傾向があり、無秩序な免疫反応はCOVID-19の重症化と関連している。このことは、高齢者がSARS-CoV-2に感染すると重症化しやすい理由を説明するのに役立つ可能性がある。

特定の外来物質を標的とする適応免疫は、抗体、CD4+T細胞、CD8+T細胞という3つの主要な要素からなる。ラホヤ免疫研究所(米国カリフォルニア州)のAlessandro SetteとShane Crottyは、軽症者から死亡者まで24人のCOVID-19患者の適応免疫反応を調べた(C.R. Moderbacher et al. Cell https://doi.org/ghbwh7; 2020)。

研究チームは、適応免疫系の3要素の全てが同時に速やかに産生された患者に比べて、そうでなかった患者は重症化しやすいことを見いだした。無秩序な反応は特に高齢者に多く見られた。コロナウイルスに対しては、抗体とT細胞の両方が重要な武器になっていることを示唆しているのかもしれない。

9月21日

フライトでの機内感染を示す初めての遺伝学的証拠

遺伝学的証拠は、米国から香港へのフライトを利用した夫婦の少なくとも一方が、フライト中に2人の客室乗務員にSARS-CoV-2を感染させたことを強く示唆している。

香港大学のLeo Poonとロンドン大学衛生熱帯医学大学院(英国)のDeborah Watson-Jonesが率いる研究チームは、2020年3月上旬のフライトで一緒だった4人の患者について調べた(E. M. Choi et al. Emerg. Infect. Dis. https://doi.org/d9jn; 2020)。4人のうち2人はビジネスクラスを利用する夫婦だった。他の2人は客室乗務員で、1人はビジネスクラスに乗務していたが、もう1人が乗務した客室については公表されていない。2人の乗客はフライト前にカナダと米国を旅しており、香港に到着してすぐにSARS-CoV-2検査で陽性となった。客室乗務員たちもその後まもなく検査で陽性となった。

研究チームは、4人のウイルスのゲノムが全て同一であり、そのウイルスは北米のいくつかのSARS-CoV-2検体と遺伝的に近縁であり、香港で流行しているSARS-CoV-2検体とは近縁ではないことを見いだした。このことは、乗客のうち少なくとも1人がフライト中に乗務員にウイルスを感染させたことを示唆していると著者らは言う。著者らによると、機内感染はこれまでにも報告されていたが、遺伝学的証拠によって裏付けられたのは今回が初めてであるという。

米国、日本、香港などでは、バーでの集まりが引き金となった、スーパースプレッディング現象が発生している。 | 拡大する

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9月18日

香港のスーパースプレッディングと結び付けられたミュージシャンと僧侶

ウイルスの初期の拡散について分析した結果、香港でのSARS-CoV-2感染者の19%が、この地域の人から人へのウイルス感染の80%を引き起こしたと推定されることが明らかになった。この分析からは、家庭内感染よりも社会的な場面での感染の方が多かったことも判明している。

香港大学のPeng Wuらは2020年1月下旬〜4月下旬に香港で発生した1000件以上のコロナウイルス感染を調査した結果、1人の感染者が6人以上にウイルスを感染させた「スーパースプレッディング」現象が複数あったことを示す証拠を発見した(D. C. Adam et al.Nature Medicine. https://doi.org/d9c4; 2020)。106人が感染した最大のクラスターの引き金は、香港の4カ所のバーで演奏したミュージシャンたちだったと考えられている。19人が感染した別のクラスターは寺院に関連したもので、感染していたが無症状だった1人の僧侶から広まったことが分かった。

研究チームは、感染者の70%近くは誰にも感染させていないことも明らかにした。また、2次感染以降では、家庭内感染よりも結婚式やレストランでの会食などの社会的な場面での感染の方が多いことも分かった。

COVID-19から回復した人々から提供される血漿には、この疾患の治療に役立つ可能性のある抗体が含まれている。 | 拡大する

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9月17日

風邪コロナウイルスに対する免疫は短命

ボランティアの抗体レベルをモニターする研究から、風邪を引き起こすコロナウイルスへの自然免疫は感染後数カ月しか持続しない可能性があることが明らかになった。ボランティアの中には30年以上この研究に協力している人もいる。

以前の研究から、風邪コロナウイルスへの免疫反応により再感染から守られるのはほんの数カ月だが、2回目に感染したときには症状は軽くなる場合が多いことが分かっていた。アムステルダム大学(オランダ)のLia van der Hoekらは、1980年代半ばから数カ月ごとに10人のボランティアから採血し、血液検体中のコロナウイルス抗体を調べている(A. W. D. Edridgeet al.Nature Medicine. https://doi.org/ghbm79; 2020)。

研究チームは抗体濃度の上昇を感染の指標とした。コロナウイルスへの感染は6月〜9月が最も少なく、著者らはSARS-CoV-2もこの季節的なパターンをとる可能性があると示唆している。著者らはまた、早ければ初感染から6カ月後、多くは12カ月後に再感染が起きていることも発見した。

9月15日

COVID-19治療薬「カクテル」設計の画期的な指針

新しい手法は、SARS-CoV-2のタンパク質が抗体による攻撃を回避するために用いる全ての変異をピンポイントで特定することができる。この手法は、COVID-19に対する抗体治療の開発に役立つ可能性がある。

免疫系は、侵入者を撃退するために抗体と呼ばれる分子を産生する。SARS-CoV-2のスパイクタンパク質の重要な領域に結合する抗体はウイルス粒子を不活化することができ、こうした抗体は治療薬として魅力的である。しかし、ウイルスは時間の経過とともに変異を蓄積することがあり、その中には抗体の結合を阻害し、ウイルス粒子が免疫反応から「逃れる」ことを可能にするものもある。

バンダービルト大学医療センター(米国テネシー州ナッシュビル)のJames Croweとフレッド・ハッチンソンがん研究センター(米国ワシントン州シアトル)のJesse Bloomらは、10種類のヒト抗体の結合を阻害する可能性のあるスパイクタンパク質の変異について、これまでで最も詳細なマップを作成した(A. J. Greaney et al. Preprint at bioRxiv https://doi.org/d8zm; 2020)。さらに研究チームは、この情報を用いて、それぞれ2つの抗体からなる3種類の抗体カクテルを設計した。

SARS-CoV-2に対する抗体カクテルを実験室で試験したところ、ウイルスは抗体との結合を逃れるような突然変異を生じなかった。なお、この論文はまだ査読を受けていない。

9月14日

米国の託児所に預けられた子どもから家族へのSARS-CoV-2感染

ユタ州でのアウトブレイクの分析から、託児所でSARS-CoV-2に感染した12人の子どもが、託児所以外での濃厚接触者12人以上にウイルスを広めたことが明らかになった。そのうちの1人の女性は、おそらく彼女の子どもから感染し、入院を余儀なくされた。

米国疾病管理予防センター(CDC;ジョージア州アトランタ)のCuc Tranらは、ソルトレイク郡の3カ所の託児所で発生したアウトブレイクを調査した(Morb. Mortal. Wkly Rept. www.cdc.gov/mmwr/volumes/69/wr/mm6937e3.htm?s_cid=mm6937e3_w; 2020)。いずれの託児所においても、最初に感染が確認されたのは1人の職員であった。そのうちの2人は、家族がCOVID-19の症状を示していたにもかかわらず出勤していた。

感染した12人の子どもの年齢は生後8カ月〜10歳で、全員が軽症または無症状だった。この子どもたちの濃厚接触者のうち検査で陽性になったのは、母親6人と兄弟姉妹3人だった。生後8カ月の乳児1人は、父親と母親の両方に感染させていた。全ての濃厚接触者が検査を受けたわけではないため、この託児所に関連した感染には見落としがあるかもしれないと著者らは述べている。

9月10日

意外! SARS-CoV-2の興味深いタンパク質を新たに多数発見

SARS-CoV-2ゲノムがコードする未知のタンパク質が新たに20種類以上発見された。これらのタンパク質が感染の際に果たす役割は、まだよく分かっていない。

これまで、SARS-CoV-2のRNAゲノムには、ウイルス粒子が細胞に感染するのを助けるスパイクタンパク質や、細胞内で活性化する各種のウイルスタンパク質など、29種類のタンパク質を作るための指令が含まれていることが知られていた。しかし、SARS-CoV-2のタンパク質がこの29種類以外にあるかどうかは分かっていなかった。

さらなるタンパク質を特定するため、ワイツマン科学研究所(イスラエル・レホボト)のNoam Stern-Ginossarらは、感染した細胞中のリボソームというタンパク質製造工場に結合したSARS-CoV-2のRNAの塩基配列を決定した(Y. Finkel et al. Nature https://doi.org/d8pb; 2020)。その結果、全く新しいものから、既知のタンパク質の短縮バージョンや伸長バージョンまで、これまで知られていなかった23種類のタンパク質が発見された。

新たに発見されたタンパク質のいくつかは既知のウイルス分子の産生を制御している可能性があるが、多くのタンパク質の役割は不明である。

9月8日

COVID-19の重篤な合併症を発症した子どもに見られる、特異な免疫プロファイル

新型コロナウイルスに感染した子どもの大半は、COVID-19の兆候がほとんど見られない。しかし、重症化して多臓器不全に陥ったり、死に至ったりしたケースもあることが、少数だが報告されている。この稀で重篤な疾患は小児多臓器系炎症性症候群(multisystem inflammatory syndrome in children:MIS-C)と呼ばれ、科学者たちはその生物学的機序の解明に着手している。

医師たちはこれまでに数百の症例をMIS-Cと診断しているが、この疾患は川崎病という小児疾患と似ているところがある。カロリンスカ研究所(スウェーデン・ストックホルム)のPetter Brodinらは、MIS-Cの生物学的プロファイルを解明するため、MIS-Cの子ども13人と、川崎病の子ども28人と、軽症COVID-19の子ども41人を調べた(C. R. Consiglio et al. Cell https://doi.org/d8fh; 2020)。その結果、MIS-Cの子どもは川崎病の子どもに比べて、炎症や自己免疫疾患に関わるIL-17Aという免疫物質の濃度が低いことが明らかになった。

MIS-Cの子どもたちは、研究対象となった他の子どもたちとは違って、風邪を引き起こす2種類のコロナウイルスに対する抗体を持っていなかった。著者らは、このことが彼らの疾患の原因に関与しているのかもしれないと言う。

9月4日

ステロイド治療と死亡率の低さを結び付ける新しい強力な証拠

5つの大陸のCOVID-19の入院患者の分析によると、副腎皮質ステロイドを投与された重症患者は、投与されなかった重症患者に比べて死亡する可能性が低いようだ。

これまでの知見から、デキサメタゾンというステロイドが人工呼吸器を使用しているCOVID-19患者の死亡率を下げることが分かっていた。ブリストル大学(英国)のJonathan Sterneらは今回、ステロイド全般の効果を調べるため、COVID-19の重症患者に対するステロイドの使用について調べる7つの臨床試験からのデータを集めてメタアナリシスを行った(REACT Working Group J. Am. Med. Assoc. https://doi.org/d7z8; 2020)。これらの臨床試験には12カ国で1700人以上が参加している。

研究チームは、ステロイドとプラセボのどちらかの投与を無作為に割り付けられた参加者の28日後の状態を分析した。その結果、ステロイドを投与された人の死亡リスクは32%で、プラセボを投与された人では40%だった。著者らは、COVID-19の重症患者の標準治療にステロイドの投与を含めるべきだとしている。

9月2日

抗体は減少せずに数カ月間持続する

アイスランドで行われた大規模な調査により、SARS-CoV-2に対する抗体は感染から4カ月たっても体内に残存していることが分かった。これは、「SARS-CoV-2に対する抗体は短期間で消失してしまう」というこれまでの証拠とは相反する発見である。

病原体が体内に侵入すると、免疫系は侵入者を撃退するために抗体というタンパク質を産生する。なお、SARS-CoV-2に対する抗体がある人が再感染から守られるかどうか、また、その抗体がどの程度の期間持続するかはまだ明らかになっていない。

アムジェン社の子会社であるデコード・ジェネティクス(deCODE Genetics;アイスランド・レイキャビク)のKari Stefanssonらは、約3万人の血液中のSARS-CoV-2抗体濃度を測定した(D. F. Gudbjartsson et al. N. Engl. J. Med. https://doi.org/gg9hbt; 2020)。参加者には、ウイルス陽性と判定され、COVID-19から回復した人が1200人以上含まれている。調査の結果、COVID-19から回復した人の約90%がウイルスに対する抗体を持っていることが明らかになった。抗体濃度は、診断から2カ月にわたって上昇した後に一定になり、研究期間中は同じ濃度を維持していた。

調査結果はウイルスが人口の0.9%にしか感染していないことも示しており、著者らは、アイスランドは「第二波の感染に対して脆弱」であると警告している。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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