冥王星の「裏側」が見えてきた!
冥王星への驚異の接近通過を2015年に成功させた、NASAの探査機「ニューホライズンズ」。冥王星の「裏側」は低解像度でしか撮影できなかったものの、その画像の解析が進み、液体の水の兆候や、不可解な巨大な氷の刃、そして、極寒の惑星の誕生を巡る新しい理論が見えてきた。
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Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2020.201020
原文:Nature (2020-07-30) | doi: 10.1038/d41586-020-02082-1 | Pluto’s dark side spills its secrets — including hints of a hidden ocean
2015年に冥王星の横を猛スピードで通過したNASAの探査機「ニューホライズンズ」は、私たちの想像をはるかに超えるダイナミックな世界を見せてくれた。冥王星には、ノルウェーの入り組んだ海岸に似た窒素の氷の断崖があり、高層ビルほどの高さのメタンの氷の巨大な刃がそそり立っている。グランドキャニオンより深い亀裂が走っているかと思えば、エベレストより高い氷の火山もある。探査機のカメラが彼方にある冥王星の表面の巨大なハート模様を捉えると、地球上の無数のファンが悩殺された(2015年6月号「ドーンとニューホライズンズの旅」、9月号「冥王星に広がる驚きの地形と深まる謎」参照)。
ニューホライズンズ・ミッションの副プロジェクト・サイエンティストであるサウスウェスト研究所(米国コロラド州ボールダー)の惑星科学者Leslie Youngは、「冥王星が科学のワンダーランドだったらいいとは思っていましたが、こんなに美しくなくてもよかったのです」と打ち明ける。
科学者たちが最初の冥王星画像を見て衝撃的を受けてから約5年になるが、今もまだ、初めて目にする画像が出てくる。
ニューホライズンズが冥王星に到達したときの速度は時速5万2000kmという猛スピードだったので、その時点で太陽に照らされていた側の半球(「表側」と呼ばれている)しかクローズアップ撮影はできなかった。他の部分は、当時は影に覆われていた。「表側」のクローズアップ画像の精査を終えた科学者たちは、探査機が接近通過の何日も前に撮影した残りの半球の分析に取り掛かっている。彼らはその半球を「裏側」あるいは「暗黒面」と呼んでいる。
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接近時に撮影された画像が約75mの小さな地形まで見えるのに比べると、「裏側」の画像は不明瞭だが、それでも2〜30kmの解像度で地形を明らかにすることができる。2kmの解像度なら、地球を周回するハッブル宇宙望遠鏡が撮影した写真の解像度の250倍だ。ジョンズホプキンス大学(米国メリーランド州ボルティモア)の惑星科学者で、ニューホライズンズのプロジェクト・サイエンティストでもあるHarold Weaverは、「表側に比べれば解像度は低いですが、分析しがいのある、非常に興味深いデータです」と言う。「あと30〜40年は、これ以上のデータは手に入りません」。なお、これは別の探査機が近いうちに冥王星に送られると仮定しての話である。
分析するための画像を何百枚も手にした科学者たちは、この活動的な天体について新しい見方をするようになり1、冥王星の形成に関するぼんやりした詳細や、氷の地殻の下に海が隠れている可能性や、大気中の化合物が凍結して表面地形を変化させる複雑なプロセスなどについて重要な洞察を提供している。これらのデータは、生命は極寒の冥王星でも生きられるかもしれないという議論さえ裏付けた。
しかし、画像からはいくつかの謎も出てきた。例えば、摩天楼のような氷の刃は、以前は「表側」でしか確認されていなかったが、今では冥王星をぐるりと取り巻いていると考えられている。これにより氷の刃の起源は冥王星最大の謎の1つとなった。
マサチューセッツ工科大学(米国ケンブリッジ)の惑星科学者で、ニューホライズンズの共同研究者でもあるRichard Binzelは、「冥王星は、新たな驚きを絶えずもたらしてくれる贈り物です」と語る。
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始まりは小さな光の点
1930年にローウェル天文台(米国アリゾナ州フラッグスタッフ)の若き天文学者クライド・トンボー(Clyde Tombaugh)が冥王星を発見したとき、それは地上の最大級の望遠鏡で辛うじて見える程度の小さな光の点だった。冥王星について次に大きな発見があったのは、発見から半世紀以上経過した1988年のことだった。この年、たまたま冥王星が遠方の恒星の手前を横切る配置になったことが、天文学者に幸運をもたらした。
恒星からの光が冥王星の大気中を通過してきたことで、冥王星の大気に、窒素、一酸化炭素、メタンなどの分子が含まれていることが分かったのだ。1996年にはハッブル宇宙望遠鏡の助けを借りて、冥王星の表面の詳細を500kmの解像度で見ることが可能になった。画像は鮮明ではなかったが、冥王星が、地球を除く太陽系の他のどの惑星よりも大規模なコントラストを持っていることが明らかになった(冥王星は現在は準惑星とされているが、当時は惑星に分類されていた)。
それは、冥王星がダイナミックな天体である可能性を示唆する、思わせぶりなヒントだった。2015年7月にニューホライズンズが冥王星の「表側」の赤道のすぐ北にハート形の地形を発見したことにより、その可能性はすぐに裏付けられた。ハートの右心室にあたる部分にはスプートニク平原がある。スプートニク平原は氷に覆われた盆地で、巨大な氷河が渦を巻いて流れている。科学者たちは今では、スプートニク平原が冥王星の活動に途方もなく大きな影響を及ぼしていることを知っている。朝、太陽の光が凍った平原を暖めると、氷が昇華して蒸気となって立ち上り、1日の終わりに再び地表に降りてくる。さらにこのハートは冥王星を横倒しにした可能性もある。
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冥王星の「表側」の最初の画像が地球に到着してからすぐに、カリフォルニア大学サンタクルーズ校(米国)の惑星科学者Francis Nimmoらは、スプートニク平原が奇妙な場所にあることに気付いた。スプートニク平原は、冥王星の最大の衛星カロンのほぼ正反対の位置にあるのだ。単なる偶然かもしれないが、偶然である可能性はわずか5%にすぎない。モデル研究からは、この盆地が形成されたときに、巨大な裂け目の中に地下の海水が湧き出してきたことが示唆された。その後、冥王星の大気中の窒素ガスが、極寒の盆地の中で凝結して氷になった。このようにして集まった水と氷の重さによって冥王星の自転軸が傾き、現在のような横倒しの状態になったという2。
冥王星の地下に海があるという説は以前からあったが、「裏側」の画像はこの説を補強するのに役立った。最も強力な証拠のいくつかは、スプートニク平原のちょうど裏側にある、隆起や亀裂や平原がごちゃごちゃと入り交じっている「カオス地形」から得られた(「合ってきた焦点」参照)。
ニューホライズンズが撮影した画像に基づくモザイク写真に見る冥王星の「表側」と「裏側」。 | 拡大する
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カオス地形と地下の海の組み合わせは、火星や水星、木星の衛星エウロパなどでも確認されている。科学者たちは、小惑星や彗星の衝突により惑星や衛星の内部を地震波が貫いて駆け巡り、裏側の1点に集まると、冥王星の「裏側」にあるような亀裂が表面にできると考えている。
パデュー大学(米国インディアナ州ウェストラファイエット)で惑星地質学を専攻する大学院生のAdeene Dentonは、カオス地形の起源を検証するため、冥王星に小惑星が衝突したときの衝撃波の全体への伝わり方をシミュレーションした。2020年3月の月・惑星科学会議のバーチャル総会で発表されたこの論文は、カオス地形がそうした衝突によって形成された可能性を立証したが、ただし書きが1つある。カオス地形ができるのは、冥王星の地下に水深150kmの液体の水があった場合に限られるのだ。
冥王星の「裏側」の地質図を作成したSETI研究所(米国カリフォルニア州マウンテンビュー)の惑星科学者Oliver Whiteは、この研究には関与していないが、画像で見る冥王星のカオス地形は太陽系の他の惑星や衛星のカオス地形に似ているように見えるが、画像の解像度が低いことを忘れてはならないと指摘する。他の科学者もWhiteの指摘に同意している。ニューホライズンズの地質学チームの副リーダーであるセントルイス・ワシントン大学(米国ミズーリ州)の惑星科学者William McKinnonは、「いつの日か再び冥王星を訪れない限り、はっきりした答えは出ないでしょう」と言う。
亀裂から見えてくること
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しかし冥王星には、「裏側」で見つかった多数の亀裂など、地下に隠された海の存在を裏付け、その形成の仕組みさえ明らかにする地質学的に奇妙な点がいくつかある。
冥王星の海に関する理論を構築してきた科学者たちは、以前から、冥王星の海は冥王星形成時に凍結した状態で始まったのではないかと推測してきた。その後、冥王星の岩石質のコアに含まれる放射性元素の崩壊により熱が発生したことで、海が溶けたという。このシナリオでは、氷が溶けて収縮し、冷蔵庫に入れたままにしたリンゴに皺が寄ってくるように、冥王星の表面にさざ波のような皺ができることになるとNimmoは言う。水が再び凍結して氷になると膨張し、表面に亀裂が入る。このシナリオが正しいなら、冥王星の表面の画像には古い皺と新しい亀裂が写っているはずだ。しかし、ニューホライズンズの画像が捉えたのは亀裂だけで、冥王星の海が液体として始まり、時間の経過とともに部分的に凍結したことを示唆している。
特に、冥王星の「裏側」の画像では、「表側」の近くまで伸びる巨大な亀裂が確認されている。亀裂は北極を通って「裏側」の南極に向かい、冥王星をぐるりと1周しているように見える1。冥王星の亀裂は、地球のアフリカ大陸を二分する東アフリカ地溝帯に似ている。ただし、地球の地溝帯が大陸移動の印であるのに対し、冥王星の亀裂は、おそらく凍結してどんどん膨張してゆく海の傷跡だ。亀裂は非常に古いので、液体の海が冥王星の形成直後から冷え始めたのは明らかだとNimmoは言う。
もしそれが本当ならば、冥王星の海には生命が棲めるかもしれない。「表側」の海から湧き出したと思われる水は赤い色をしており、有機分子を含んでいることが分かる。冥王星のような天体ではあり得ないと思われるかもしれないが、原始大気を模した気体に太陽風や宇宙線に似た放射線を照射すると、赤茶色の複雑な有機物が生成することが実験により確認されている3。また、アンモニアが存在するなら、RNAやDNAに含まれる塩基など、生命にとって重要な分子を形成することができる。
NASAエイムズ研究センター(米国カリフォルニア州モフェットフィールド)の惑星科学者であり、ニューホライズンズ・ミッションで冥王星の表面組成を探るチームの副リーダーであるDale Cruikshankらは、2019年にAstrobiologyに掲載された論文4で、冥王星の「表側」の氷が赤く、アンモニアを含んでいることを明らかにした。これは、冥王星に有機分子が豊富に存在し得ることを示す決定的なサインである。この理論は多くの惑星科学者を惹きつけたが、冥王星で生命が誕生したことを意味するものではなく、冥王星に生命が持ち込まれれば生き残る可能性があるという意味だと、Cruikshankは言う。サウスウェスト研究所の惑星科学者で、このミッションの副プロジェクト・サイエンティストであるCathy Olkinは、「宇宙生物学の専門誌であるAstrobiologyに冥王星に関する記事が掲載されるなんて、ニューホライズンズが冥王星に到達する前なら全く想像できなかったでしょう」と言う。
冥王星の「裏側」の画像の分析結果は、この説を裏付けている。冥王星の赤道には、おそらく有機物からなる赤い帯が伸びている。赤い帯の位置は、太陽光が最も当たりやすく、気候が最も穏やかな領域と一致している1。サウスウェスト研究所の惑星科学者で、このミッションの主任研究者でもあるAlan Sternは、「宇宙生物学者によれば、生命を支えるためには、液体の水、有機物、そしてエネルギー源が必要です」と言う。「液体の水については存在する可能性がかなり高く、ここに来てますます強くなっています。そして今、有機物が存在する証拠が得られました。これで3つの項目のうち2つにチェックが入りました。非常に重要な前進です」。
林立する氷の刃の秘密
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冥王星の「裏側」の測定は、冥王星に生命が存在できる可能性を探るのに役立っただけでなく、多くの謎ももたらした。
ニューホライズンズの画像が最初に地球に到達したとき、科学者たちは「表側」の東の端に、超高層ビルサイズの巨大な氷の塔からなる奇妙な地形があることに気付いた1。これらの尾根は、わずか数kmの等間隔で並んでいたにもかかわらず、空に向かってナイフのように鋭くそびえ立ち、中には高さ1kmのものもあった。実に、ニューヨークのエンパイアステートビルの約3倍の高さである。そんな尾根が30kmも続くことがあるのだ。「探索しようと思ったら悪夢のような場所です」とWhiteは言う。
しかし、科学者たちが冥王星の「裏側」を垣間見るまでは、刃状領域は地図上の1点にすぎなかった。最新の地図では、個々の尾根を見るには解像度が足りないためぼやけているものの、刃状領域がぐるりと「裏側」に回り込み、以前は見落とされていた「表側」の西端に出てきていることがはっきり分かる1。「裏側」では、刃状領域は「表側」の3.5倍も大きい領域をカバーしており、冥王星の最大の謎の1つとなっている。
「刃状領域がこれだけ広範囲にわたっていて、例外的だが興味深い地形として脚注で紹介するようなものではないことが分かった今、この領域を理解することは今まで以上に重要になりました」とSternは言う。
スペクトルデータから、刃状領域がメタンの氷からなり、赤道の周りを(少なくとも平原と山々の上を)帯状に取り巻いていることが明らかになった。しかし、これらが形成された過程は謎のままだ。地球上で霜ができるときと同じように、冥王星の大気中に含まれるメタンが凝結してできたものかもしれない。あるいは、古いメタンの氷の層が照り付ける太陽の光によって侵食された名残かもしれない。
一部の研究者は後者の説明に注目している。その理由は、鋭く尖った氷の尾根が、地球のアンデス山脈の高地で形成されるペニテンテという構造物に似ているからだ。もっとも、スケールは大違いだ。ペニテンテの高さは数メートルしかなく、高高度領域で形成される。ペニテンテは太陽に向かって傾いており、太陽放射が最も強い赤道沿いに発達しているため、科学者たちは、ペニテンテの形成には光が関与していると推測している。太陽光は昇華を促し、刃状の尾根の間に谷を刻むと考えられる。
冥王星の地形についての同様の理論は、NASAエイムズ研究センターの惑星科学者で、ニューホライズンズの共同研究者であるJeffrey Mooreらによって2017年に提唱された5。しかし、同じくエイムズ研究センターに所属する論文共著者のTanguy Bertrandは、このプロセスによって刃状領域の特徴の全てを説明するのは困難だと主張している。構造物のいくつかは、予想通り太陽が冥王星の空を横切る経路に合わせて南北方向を向いているが、それ以外のものは、北東–南西方向または東西方向を向いている。これは、太陽光による侵食説への反証となる。けれども他の仮説でも説明がつかない。例えば、大気中のメタンの凝結でできたとする説にも、明るい霜がないなどの問題があるとBertrandは言う。
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はっきりしているのは、冥王星の気象を綿密に研究しない限り、その氷の刃(と風景全般)を理解することはできないということだ。Bertrandらが2019年に発表した気候モデル6は、高高度でメタンが蓄積し、低層大気では窒素が蓄積することを示して、スプートニク平原の盆地に窒素の氷が多く、刃状領域にメタンの氷が多い理由を説明した。
これは地球とは違う。地球では低い所にある海を水が満たし、最も高い山々の頂上を氷が覆っている。風は斜面を駆け上がり、低地の水を高地に運ぶことができる。しかし、冥王星ではそのような移動は起こらない。冥王星の大気は地表よりも温度が高いため、斜面を駆け下りる風の方が多い。つまり、低い所にある窒素が最も高い山々の頂上へと運ばれることはなく、高い所にあるメタンは地表の低い所に到達する前に高山で凝結してしまうのだ。
さらに、刃状の尾根は、長い歳月をかけて成長してきた古い地形のように見える。凝結するにしても昇華するにしても、氷の刃がこれほど高くなるには数千万年かかるだけでなく、その位置は広い範囲の緯度にまたがっている。過去の気候の変動によって、刃状領域の場所がどのように移動したか、ひいてはどのように形成されたかまで説明できるかもしれないが、解明が必要な詳細はたくさんある。
その1つが、冥王星の奇妙な季節だ。地球の季節のサイクルは、地球の公転軌道ではなく、自転軸の傾きによって生じている。それぞれの半球が太陽に向かって傾いたり太陽を避けるように傾いたりして、太陽の光の当たり方が変化するのだ。これに対して冥王星の季節は、冥王星の自転軸の傾きと楕円形の公転軌道の変化という2つのパラメーターによって生じている。冥王星は年に一度、太陽系外縁部の極寒の領域まで遠ざかり、太陽の方に戻ってくる(最も太陽に近づくときには、太陽からの距離はほぼ半分になる)。どちらのパラメーターも時間の経過とともに変化するため、90万年に一度、太陽の近くにあるときに特定の半球が太陽の方を向くことになる。2つの効果が相まって、その半球に「スーパーシーズン」を作り出す。Bertrandは、この効果が刃状領域の形成される緯度をずらしているのではないかと推測している。しかし、軌道パラメーターの計算で1000万年以上昔のことを推定するのは困難なため、確実なことは言えない。
これは今後の研究につながる可能性のある未解決問題だ。より詳細な地図が完成した今、一部の科学者たちは、冥王星の過去からさらなる詳細を明らかにしようとしている。Binzelは、冥王星の現在の季節をよりよく理解するために、冥王星の「表側」の画像を注意深く調べている。表側のさまざまな領域を比較することで、私たちが50年後に次の探査機を冥王星に送り込んだときにどのような変化が起きているか予想しようというのだ。「冥王星予報といったところです」と彼は言う。「私がそれを見られるかどうかは分かりませんが、人類が冥王星を再訪したときのためにメッセージを残しておくのは面白いでしょう?」。
Binzelは、人類が再び冥王星に探査機を送ることを確信している。実際、ニューホライズンズが残していった問題の多さを考えると、再挑戦はほぼ避けられないと多くの人が述べている。NASAは最近、科学者たちに、冥王星全域の詳細な地図を作成し、その時間変化も観察できる周回機の実現可能性を探る機会を与えた。サウスウェスト研究所の惑星科学者で、この研究を主導しているCarly Howettは、研究が実際のミッションになるのはまだまだ先のことだと釘を刺す。NASAがミッションの実施を決めたとしても、打ち上げはおそらく2030年代、ひょっとすると2040年代になるかもしれない。打ち上げから冥王星到着までは15年の長旅だ。
それまでの間、科学者たちは、手元にあるデータを基に、よりよい気候モデルを作り続けるだろう。実験室では、冥王星の大気と、あるかもしれない海の化学作用のシミュレーションを試みるだろう。そして、NASAは、ハッブル宇宙望遠鏡の後継機として2021年に打ち上げるジェイムズ・ウェッブ宇宙望遠鏡を冥王星に向けるだろう。解像度はそれほど高くないものの、より長い波長を用いることができるので、新しい発見があるはずだ。
Sternも、「非常に面白い科学が行われるでしょう」と期待している。
(翻訳:三枝小夜子)
Shannon Hallは、米国コロラド州在住のフリーランスの科学ジャーナリスト。
参考文献
- Stern, S. A. et al. Preprint at https://arxiv.org/abs/1910.08833 (2020).
- Nimmo, F. et al. Nature 540, 94–96 (2016).
- Miller, S. L. Science 117, 528–529 (1953).
- Cruikshank, D. P. et al. Astrobiology 19, 831–848 (2019).
- Moore, J. M. et al. Icarus 300, 129–144 (2018).
- Bertrand, T. et al. Icarus 329, 148–165 (2019).