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ブラジルの博物館で相次ぐ火災、改革を求める声

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 10 | doi : 10.1038/ndigest.2020.201008

原文:Nature (2020-07-01) | doi: 10.1038/d41586-020-01990-6 | Second Brazilian museum fire in two years reignites calls for reform

Emiliano Rodríguez Mega

リオデジャネイロの国立博物館の火災から2年も経たないうちにミナス・ジェライス連邦大学の自然史博物館でも火災が発生した。研究者たちは、極めて貴重な標本や遺物を失う痛みに再度苦しんでいる。

ミナス・ジェライス連邦大学(ブラジル)の火災では、植物や動物、ヒトの標本の保管に使われていた数部屋が焼失した。 | 拡大する

ROGERIO PATEO/NAV/DAA UFMG

2020年6月15日、ブラジル南東部のミナス・ジェライス州にある博物館で火災が発生し、その一部が焼失した。研究者たちは今、焼け跡の灰を丹念に選り分けている。ブラジル各地の博物館に火災の恐れがあることは、以前から再三警告されていた。おまけに、リオデジャネイロにある有名な国立博物館が大火事により全焼してからまだ2年も経っていない。

今回の火災によって研究コミュニティーの傷口が再び開かれ、ブラジルの文化的・科学的遺産を保護する必要性をめぐる国民的な議論が活発化している。

ミナス・ジェライス連邦大学(UFMG;ベロオリゾンテ)の地理学者で、同大学の自然史博物館・植物園のディレクターを1年近く務めるMariana Lacerdaは、月曜日の朝に不穏な電話を受けた。自然史博物館・植物園の建物が燃えているというのだ。彼女が現場に到着したとき、数千点の遺物や骨格や剥製などを収蔵する平屋の建物からはまだ煙が出ていた。収蔵品の多くは何十年も前に収集されたものだった。

化石や大型の考古学的遺物でいっぱいの2つの貯蔵庫は煤と煙にまみれていた。民芸品、先住民族の遺物、生物学的標本などを保管する3つ目の貯蔵庫の一部も燃えていた。さらに、昆虫、貝殻、鳥類、哺乳類、人骨、古代植物の化石などの重要な標本コレクションを収蔵していた2つの貯蔵庫も、全焼に近い燃え方だった。

燃えてしまった収蔵品について「修復できる見込みはほとんどありません」と、Lacerdaは言う。「長い時間をかけて作り上げられてきたものが、ほんの1時間あまりで破壊されてしまいました」。

1975年からこの博物館で働いている考古学者のAndré Prousの落胆は激しい。彼は同僚と共に、栽培植物や野生植物の標本の他に、ブラジル最古の人骨を含め、さまざまな時代の人骨を収集してきた。彼は2018年の国立博物館の火災の際にも、自分のライフワークの一部が失われるのを見ていた。1970年代に収集に協力した古代の頭蓋骨が焼失してしまったのだ。

「今は、悲しみと同じくらい恐怖を感じています。今後も同じような災害が起きて、ブラジルの科学的遺産が破壊されてしまうのではないかと不安なのです」とProusは言う。彼が発掘した石器、陶器、発掘調査に関する文書の一部は焼失を免れた。

歴史的な損失

ブラジル博物館協会(ブラジリア)の博物館運営理事であるCarolina Vilas Boasは、ブラジルの博物館は何度も火災に遭っていて、しばしば取り返しのつかない損害を負っていると説明する。ブラジルでは文化的または科学的に重要な建物の火災がこれまでに12件以上発生しており、その多くが過去10年以内に発生している(「火災の歴史」参照)。しかし、報告が不完全である可能性が高いため、被害の全容を把握するのは困難だとVilas Boasは言う。

歴史ある施設を火災で失った国はブラジルだけではないが、ブラジルの博物館の防火対策がお粗末なのは事実だと彼女は言う。多くの場合、防火設備はあるのだが、予算が少な過ぎて適切に維持できないのだ。「火災のリスクを緩和しようと多くの対策が取られています」と彼女は言うが、繰り返し起こる経済危機のために長期的な計画を立てられずにいる。

UFMGの構造工学者であるRicardo Hallal Fakuryは、「リソースの不足は、コレクションの貯蔵庫の火災とは無関係です」と言う。彼は、現在捜査が進められていることを理由に、火災の原因について憶測を述べることはなかったが、火災が発生した建物には煙探知機が設置されており、大部分が不燃性材料でできていたと指摘する。

連邦政府からの圧力

パラナ連邦大学(ブラジル・クリチバ)の昆虫学者で、ブラジル動物学会(同左)の会長でもあるLuciane Marinoniは、ベロオリゾンテの悲劇は、研究用コレクションの保護に向けた国や州のレベルの政策を求める議論を大きくしたと言う。こうした議論は、ブラジルの科学者たちの間では何十年も前からあった。「研究コミュニティーは今回の火災に動揺しています。私たちは連邦政府と共にこの問題を解決しようと努力を重ねてきたのに、なかなかうまくいかないのです」。

もっとも、保護政策がないわけではない。南部のパラナ州は2017年に、生物学的コレクションを承認するための基準と指針を策定し、責任の所在を明確にし、コレクションの拡大と維持管理に関する目的と目標を定めた。研究者たちは2019年、この政策を根拠にパラナ州政府を説得し、同州のコレクションに今後3年間で200万レアル(約3900万円)を割り当てさせることができた。大きな金額ではないが、手堅い出だしだとMarinoniは言う。「コレクションは暗闇から抜け出しつつあります」。

ベロオリゾンテでは、科学者たちが火災の後始末をしている。しかし今回は、復旧作業の進め方についての指針がある。

国立博物館の研究者たちはLacerdaとチームを組み、救える可能性のある物の回収について助言をしている。彼らは、2018年の火災後に開発したプロトコルを、復旧の手伝いを買って出たUFMGの教授や学生たちと共有している。国立博物館の館長である古生物学者のAlexander Kellnerは、「残念なことに、私たちは今やこの問題の専門家です」と言う。「私たちには経験があります。避けるべき間違いを知っていて、行動の仕方も分かっていて、方法論も持っています」。

火災の歴史

2010年以降、ブラジルの科学史の一翼を担う6カ所以上の博物館が火災に見舞われた。その他の文化施設にも被害が出ている。

2010
ブタンタン研究所(サンパウロ)
博物館に収蔵されていたラテンアメリカ最大規模のヘビのコレクションの90%近くと、クモ類コレクションの一部が火災によって焼失した。新しいヘビの標本はまだ3分の1程度しか揃っていない。
2012
コマンダンテ・フェラス南極観測基地
発電機のある機械室で出火した火災により、研究基地の約7割が焼失し、2人が死亡した。
2013
自然科学博物館(ベロオリゾンテ)
教皇庁立ミナス・ジェライスカトリック大学が所有するこの博物館では1月に火災が発生した。
2015
ポルトガル語博物館(サンパウロ)
12月に大規模な火災が発生して博物館の建物が焼け、消防士1名が死亡した。現在、再建中である。
2018
国立博物館(リオデジャネイロ)
9月に火災が発生し、ブラジルの歴史における最も貴重な記録の多くが失われた。修復と再建の努力が続けられている。
2020
自然史博物館・植物園(ベロオリゾンテ)
ミナス・ジェライス連邦大学が所有する博物館の一部が火災により破壊され、収蔵されていた動物標本や考古学標本が損傷した。当局はまだ損害の全容を把握できていない。

(翻訳:三枝小夜子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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