Nature 創刊150周年:科学的根拠による真理の探究
1869年11月4日にNature の創刊号が世界に向けて出版された。最新の発見や発明のニュースを科学者と一般読者に同じように伝えることがNature の野望だったが、これは知的に大胆な野望であり、商業的なリスクもあった。
Nature は、想定読者を幅広く設定していたが、特に科学者に好まれた。Nature の1週間というスケジュールは研究知見を素早く伝えることを可能にし、学会誌の発行や学会紀要のゆったりしたスケジュールとは対照的だった。そして、大学が成長するにつれて、英国ロンドンのNature のオフィスには科学者からの「投書」が増えていった。執筆者が読者でもあったため、Nature は発見を発表する場となった。それ以来Nature は、科学者と社会の役に立つべく努力を重ねてきた。
Nature 創刊150周年記念号(2019年11月7日号)では、本誌で発表された数々の注目すべき発見と、Nature としての意見表明の重要部分を常に占めてきたアジェンダ設定型ジャーナリズムと論評を振り返っている。また、記念号の表紙は、Nature アーカイブのデータを解析して明らかになった学際的範囲をとてつもない花火として表現したもので、印刷版の表紙の他、ビデオ映像やオンラインでのインタラクティブ映像としても公開している。
1世紀半もあれば、私たちの自然界に関する理解が、次々と発表される新しい科学的証拠によって変化する過程を確かめることができる。人類の起源を例にとると、1925年2月のNature で、レイモンド・ダートが、南アフリカでのアウストラロピテクス・アフリカヌスの発見を発表した。人類と類人猿のつながりが化石によって初めて明らかになったことで、センセーションが巻き起こり、チャールズ・ダーウィンが提唱したように人類がアフリカの共通祖先から進化したことを裏付ける根拠となった。それまでは、人類発祥の地は英国やインドネシアだと考えられていた。
それから約80年後の2004年には、ホモ・フロレシエンシス(ホビット)の化石が発見され、ヒト属が驚くほど多様であることが明らかになった。その後、人類の来歴と人類の進化に関するさらなる新事実が次々と明らかになり、古代ゲノミクスの進歩につながった。この手法により、ヒトと他のヒト族(ネアンデルタール人とデニソワ人)が3万~6万年前まで共存し、子孫を残していたことも明らかになった。
また、20世紀初頭の物理学における注目すべき研究の進展を報告する論文のいくつかがNature で発表された。その中には、電子と陽子に加えて中性子という新たな粒子が存在するという1932年のジェームズ・チャドウィックの提唱が含まれている。今日では、素粒子物理学の標準模型の予測によって、数々の基本粒子が発見されている。また天の川銀河以外の銀河で太陽類似恒星を周回する惑星が初めて見つかったことが、Nature に掲載された。論文を発表したミシェル・メイヤーとディディエ・ケロズは、2019年にノーベル物理学賞を受賞した。
Nature に掲載された最も忘れ難い論文は、1953年4月に発表されたDNAの構造に関する一連の論文であることは、ほぼ間違いないだろう。ここには、フランシス・クリックとジェームズ・ワトソンの論文に加え、モーリス・ウィルキンズとロザリンド・フランクリンの論文も含まれる。DNAが二重らせん構造をとるという発見により、生物学はすっかり変わった。その40年後、公的資金を受けた研究グループである国際ヒトゲノムシーケンス決定コンソーシアムが、初めてのヒトゲノムの概要配列を本誌で発表したことを、私たちは誇らしく思う。この研究者集団の業績がなかったら、医学や農業、環境保全、刑事司法は今とは大きく異なっていただろう。
責任ある科学
過去1世紀半の間に科学は進歩し、特に内燃機関から合成農薬に至る工業的規模の技術に関する発見と革新的な発明が並行して前進した。こうした技術の多くは、数億人の生活の質を向上させたが、同時に環境破壊を引き起こし、倫理・安全面の重大な懸念が生じている。
研究者が早くから警鐘を鳴らし、是正措置が間に合った事例もあった。例えば、1974年6月に化学者のマリオ・モリーナとシャーウッド・ローランドが、クロロフルオロカーボン(フロン類)由来の塩素が大気中のオゾンを破壊していることを解明した。その10年後、物理学者のジョセフ・ファーマンは、南極上空のオゾン濃度が予想を下回っていることを明らかにした。オゾンホールの発見である。
こうした研究知見が、1989年のモントリオール議定書(オゾン層破壊物質の削減を定めた国際協定)につながった。これは、差し迫った環境災害が科学的証拠によって示された時に人々がどのように団結して行動を起こすことができるかを示す好例となった。気候変動についても、研究者たちが1970年以降、温室効果ガスの排出が地球を温暖化させることを限りなく強烈に警告しているが、残念ながら同様の結果には至っていない。
近年、発見と発明のペースが加速しているため、研究者や学術出版社が社会に対する責任を認めて、果たすことが明らかに必要で、かつてなく強く求められているかもしれない。私たちは公開性を高め、研究結果が再現可能なことを保証し、常に誠実に行動しなければならない。また、Nature とNature を利用する研究者は、研究成果の影響を受けることが想定される社会とも協力し、後の世代の人々に配慮する義務を負っている。
改善の余地
過去を振り返ると、Nature は、今日では遵守の責任を負っている基準を守っていなかった時代があった。ジョスリン・ベル=バーネルがパルサーの発見という功績があったにもかかわらず、ノーベル物理学賞を受賞できなかった時に私たちは声を上げるべきだった。そして、私たちのミッション・ステートメントにおいて、「scientific men」という文言を「scientists」に置き換えたのが2007年というのは遅過ぎた。
Nature が、科学出版の基礎である組織化された査読を導入したのは1966年になってからだったが、その後は遅れを取り戻すために努力した。2006年に公開査読制度の試験運用を行い、現在は、ダブルブラインド査読の選択肢や、査読者の氏名を公開する選択肢も用意している。
変化が長く待たれていたもう1つの領域でも、変化が起こりつつある。学術誌に登場する人々の多様化である。初期のNature では、論文著者の大部分は1〜2人で、ほとんどが北半球出身の男性だった。今では、単独著者の論文はほとんどないどころか共著者が数千人に達することもあり、チームで行う研究が増えている現代の傾向を反映している。依然として著者の大部分は、研究資金が集中している欧州と北米の研究機関に所属しているが、Nature に掲載される論文の著者の出身地は地理的に多様化している。
しかし、世界の大きな部分、特にアフリカを出身地とする研究者の論文は数が少ない。これは、科学と帝国が往々にして共生関係で動くという、ばつの悪い歴史的現実に由来する広範な不平等性を反映している。私たちは、Nature がそうした時代の最盛期に設立されたことを認識している。変化には時間が必要だが、私たちは、変化をもたらすために一層の努力を重ねることを約束する。
将来の展望
学問分野の境界が不明確になり、研究が学際的、分野横断的になるにつれて、Nature は、従来の自然科学が中心の学術論文誌から社会科学、臨床・トランスレーショナル科学、応用科学・工学を包含するようになった。私たちは、未来に目を向けて、学界の透明性と公開性の向上に寄与したいと考えている。研究者が協調して研究を行う方法が増え、研究論文を公開する方法がさらに変化する可能性が非常に高いからだ。
未来の予測が難しいことは周知の事実だ。ウィリアム・ギブソンが1984年に発表した小説『ニューロマンサー(Neuromancer)』では、今日の幹細胞治療の一種と精巧な人工知能を予見したが、携帯電話を予想することはできなかった。1990年初頭においてさえ、「電子出版」と呼ばれ始めていたものにより、当時大量生産されていた学術誌の印刷版の未来が脅かされることを予測できた人は比較的少なかった。現時点で私たちが想像できない変化こそが、最もエキサイティングで劇的な変化となるのだ。
現在、毎年850編以上の研究論文と3000本以上のNews、Opinion、Analysisが掲載されるNature には毎月400万人の読者がオンラインでアクセスしている。その創刊に携わった人々は想像もしていなかったことだろう。研究者と研究者がもたらした驚くべき発見が現在のNature を作り上げたのであり、全てが皆さんのおかげなのだ。
その他の点では、今のNature は創刊当時と全く変わっておらず、今後も、私たちのミッションである科学の擁護、世界の研究コミュニティーに対する貢献、全世界での科学的成果の伝達を継続する。また私たちは、研究、政策、産業の各部門で責任を負う立場にある者に説明責任を果たさせるように力を尽くし、また、人と地球に対する研究の意図せぬ有害な影響の低減を主導し続ける。
真理を探究するために科学的根拠を集約、整理することを研究、科学、知識、学問と言い表すことができるが、いずれにせよ、Nature が保持する価値観は、かつてなく重要性を増している。
翻訳:菊川要
Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 1
DOI: 10.1038/ndigest.2020.200144
原文
Nature at 150: evidence in pursuit of truth- Nature (2019-11-07) | DOI: 10.1038/d41586-019-03304-x
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