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神経興奮は寿命を短くする

Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 1 | doi : 10.1038/ndigest.2020.200138

原文:Nature (2019-10-17) | doi: 10.1038/d41586-019-02958-x | Moderation of neural excitation promotes longevity

Nektarios Tavernarakis

神経系から発せられる信号は強力な寿命調節因子である。今回、全体的な神経興奮も寿命の重要な決定要因であるらしいことが明らかになった。

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JUAN GAERTNER/SPL/GETTY

私たちはなぜ、どのようにして年を取るのか、また、ごく少数の人々しか100歳を超えて生き延びることができないのはなぜか、という疑問は、何千年もの間人々の心を捉えてきた。そしてここ数十年で、老化の速度は、内因性、外因性の合図に対し非常に敏感であること、さらに、これらの合図が、多数の遺伝的経路によって、最終的に老化に影響を与える細胞過程および全身的過程を調節するように作用することが示されてきた1

このほど、この長い物語における新展開について、ハーバード大学医学系大学院(米国マサチューセッツ州ケンブリッジ)のJoseph M. Zulloら2が明らかにし、Nature 2019年10月17日号の359ページで報告している。神経系と老化との間に予想外のつながりがあることが分かったのだ。彼らは、全体的なニューロンの興奮が寿命の主要な決定要因であり、短命の人ではニューロンの興奮は高く、長命な人では低いことを示している。Zulloらはまた、この作用に関与するいくつかの分子についても説明しており、それをよく知られている寿命の調節因子〔ホルモンのインスリンまたはインスリン様増殖因子1(IGF1)によるシグナル伝達〕に結び付けた。

老化は、まだ完全に解明されてはいない複雑なやり方で神経系に影響する3-5。さらに、この関係は、あまり直観的とはいえないかもしれないが、逆方向にも働いている。神経系からの信号は生物個体全体の老化速度を調節できるのである6-10。しかしながら、無脊椎動物から哺乳動物に至る生物種で神経系が寿命に影響を及ぼすことが知られているものの、その基本的な分子機構は不明である。

Zulloらの研究は、死亡する前に認知障害を全く示していなかった高齢者の脳組織を調べることから始められた。彼らは、前頭皮質の遺伝子発現プロファイルを解析して、興味深い相関関係を明らかにした。神経興奮とニューロン間のシナプス結合の機能に関わる遺伝子は長命の人では発現が低下しているが、抑制性神経伝達に必要な遺伝子の発現は低下していなかった。

これはどのような仕組みによるのか? Zulloらは、発現が低下していた遺伝子はおそらく転写調節因子タンパク質RESTの標的であることを見いだした。RESTは神経興奮とシナプス機能に関係する遺伝子群の一般的な調節因子である11。これまでの研究12,13では、RESTが、神経ネットワークの過剰興奮を防いでネットワークを定常状態に維持し、酸化的ストレスに抵抗して長期間ニューロンを保護することに関与していることが示唆されている(例えばマウスで、Rest遺伝子を除去すると大脳皮質で神経活動が増加して抑制性神経伝達の阻害剤の影響を受けやすくなり、さらに神経興奮が増悪して、てんかんの引き金となる)。今回の新しい研究結果は、ヒトの長寿命を、REST活動の増加と神経興奮の減少に直接関連付けるものだ。

この関連は、老化過程の1つの推論にすぎないのか、あるいは因果関係があるのか? それを明らかにするために、Zulloらは線虫の一種Caenorhabditis elegans に目を向けた。C. elegansは寿命を調節する種々のメカニズムを解明するのに非常に役立つ扱いやすい試験台である14。彼らは、線虫の神経活動は加齢に伴って増加することを発見した。さらに、全体的な神経興奮とシナプスの神経伝達、または神経ペプチド分子によるシグナル伝達のどちらかを抑制すると、C. elegansの寿命は延びた。実際、興奮性神経伝達を減らして全体的な神経活動を抑えるだけで、線虫の寿命を延ばすことができたのだ。対照的に、抑制性神経伝達を阻害すると、神経活動が増加して寿命は短くなる。従って、全体的な神経興奮は、線虫とヒトにおいて寿命の重要な調節因子の1つである。

線虫でこの過程をより深く調べるために、Zulloらは、哺乳類のRESTに相当するSPR-3とSPR-4タンパク質に研究の焦点を合わせた15。今回の研究から、栄養物の存在に対する細胞応答の主要な要素である、インスリン/IGF1シグナル伝達との関連が明らかにされ始めた。インスリン/IGF1シグナル伝達の低下は線虫の長寿命に関連しているのだ。

Zulloらは、神経活動の減少による寿命延長には、DAF-16が必要であることを見いだした。転写調節因子であるDAF-16は、C. elegansにおいてインスリン/IGF1シグナル伝達の低下に関係する寿命延長にも必要とされる。その上、ニューロンのSPR-3とSPR-4は、インスリン/IGF1シグナル伝達の低下という条件下で見られる寿命延長に重要である。ニューロンの興奮に必要な遺伝子は、SPR3/4に依存するやり方でインスリン/IGF1シグナル伝達低下によって発現が抑えられている。さらに、インスリン受容体DAF-2に変異を持つ線虫は、SPR-3とSPR-4によって引き起こされDAF-16の活性化に必要とされる、神経興奮の低下が起きている。同様に、SPR-3とSPR-4は、酸化的ストレス条件下でDAF-16を活性化させるのに必要である。重要なことに、DAF-2変異を持つ動物におけるSPR-3/4枯渇は、より高レベルの神経興奮を回復させ、その異常な長寿命を短縮させる。

まとめると、C. elegansにおけるこれらの研究結果は、ストレスとインスリン/IGF1シグナル伝達がSPR-3とSPR-4に収束し、神経活動を調節することを示している。次に、これが、神経興奮とインスリン/IGF1シグナル伝達を統合するもう1つの収束ポイントであるDAF-16に影響を及ぼし、ストレス耐性と長寿命を促進する(図1a)。DAF-16が神経興奮の低下によって活性化される正確な仕組みはまだ分かっていない。

同様のシグナル伝達経路が哺乳動物でも働いているように思われる(図1b)。Zulloらは、ヒトでは、細胞核でのRESTの発現とレベルがFOXO1(マウスのDAF-16に相当する)のものと相関していることを発見した。さらに、RESTとFOXO1は両方ともヒトの前頭前皮質のニューロンに存在している。Zulloらは、培養されたマウス皮質ニューロンで神経興奮を抑制するとFOXO1の発現と核でのレベルが増加することを示した。マウスの核FOXO1の加齢に依存する上昇にはRESTが必要である。線虫と哺乳動物の間の類似から、REST–FOXO1(または、SPR-3/4–DAF-16)軸が、神経系機能が老化に影響を及ぼすメカニズムの主要な部分であることが示唆される。その上、全体的な神経興奮の減少は、インスリン/IGF1シグナル伝達低下によって引き起こされる寿命延長の主要因である。

図1 線虫と哺乳動物において、寿命は神経興奮によって調節される
a Zulloら2は、線虫Caenorhabditis elegansでタンパク質のSPR-3とSPR-4が神経興奮とシナプス間の伝達に関わる遺伝子の発現を抑えることを示している。従って、SPR-3とSPR-4は、神経興奮を抑える働きをする。転写調節因子DAF-16(通常、神経興奮により抑制される)が、その後に活性化されて寿命延長と酸化的ストレスへの耐性を促す。酸化的ストレスとインスリンまたはインスリン様増殖因子1(IGF1)を介するシグナル伝達はともに、寿命に影響することが知られている。今回の新しい研究結果から、これは部分的にはSPR-3/4に対するそれらの作用と神経興奮を介するものだということが示唆される。
b Zulloらはまた、ヒトとマウスで、SPR-3およびSPR-4に相当するRESTが、大脳皮質で神経興奮に関わる遺伝子の発現を抑えることも見いだした。その後の神経興奮の緩和は、DAF-16に相当するFOXO1を活性化させる。RESTの発現は長命のヒトの大脳皮質で増加しているが、神経興奮に関わる遺伝子の発現は低下している。 | 拡大する

これらの研究結果は先行研究に新しい光を当てる。例えば、ある種の抗けいれん薬はC. elegansで寿命を延長させることが分かっている16。これもまた、寿命の調節に全体的な神経活動が関わっていることを示唆するものだ。しかし、これらの化合物は複雑な方法で作用するので、それらの抗老化効果は神経系だけに依存しているわけではないかもしれない。さらに、いくつかの抗けいれん薬は、RESTを介する神経興奮の鎮静とは異なり、DAF-16とは独立に機能して、DAF-2変異の動物の寿命をさらに延長させる。

別の研究で、やはりC. elegansにおいて、栄養物に対する動物の応答に関与する神経伝達物質分子であるセロトニンによるシグナル伝達の抑制と、寿命との関連が示唆されている17。その研究では、セロトニン受容体を阻害する抗うつ剤が、寿命を延長させることが示された。おそらく、食事制限(一般に寿命を延長することが知られている)を模擬することによるのだろう。食事制限が、RESTを介して全体的な神経興奮を抑制するインスリン/IGF1シグナル伝達低下に関連しているなら、REST(またはSPR-3/4)も栄養ストレス下での寿命延長に寄与している可能性はあるのだろうか? Zulloらは、その可能性は低いと考えている。なぜなら成体期後半のC. elegansで神経興奮を抑制すると、線虫が食餌を中止した後でさえ、さらに寿命が延長するからだ。しかし、食物摂取の中止は常に知覚されるカロリー制限状態と同等ではないとすれば、この分子軸には何らかの役割がある可能性はある。

Zulloらの研究結果は、全体的な神経興奮と老化との関連についての手掛かりを提供するだけでなく、インスリン/IGF1経路を介して神経活動と代謝を統合する、これまで認識されていなかったルートも示している。この統合は、生物体の生理を微調整して、健康状態を最適に保ち、生存を促進するために、適切な行動的適応を調整しているのかもしれない。さらに、全体的な神経興奮における変化を和らげて、神経ネットワーク活動の適切なバランスを維持することによって、RESTはヒトで加齢に関連した神経障害を予防し、寿命を延長させているのかもしれない。実際、神経の過剰興奮とアルツハイマー病を結び付ける証拠が増えている18-20。従って、神経の興奮性を制御するRESTなどの分子は、老齢期の衰えや疾患と戦うことを目的とする治療介入の標的となる可能性がある。

(翻訳:古川奈々子)

Nektarios Tavernarakisは、クレタ大学FORTH-IMBBおよび医学系大学院(ギリシャ・イクラリオン)に所属。

参考文献

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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