新分野を拓いたNature 論文10選
Nature (2019-11-04) | Collection: 10 extraordinary Nature papers
DNAの構造
遺伝物質の正体がまだ議論の的となっていた1950年代初頭。ジェームズ・ワトソン(James Watson)とフランシス・クリック(Francis Crick)は、二本鎖DNAがらせん構造であること、またこの構造は、DNAが遺伝物質として複製機構を有する可能性を示唆していることをNature で報告した。彼らの発見により遺伝物質の正体は確定し、生物学は大変貌を遂げた。
アウストラロピテクスの化石が人類進化論にもたらした洞察
アフリカで発見された化石が「アウストラロピテクス」という未知の属のものであると報告する論文が1925年にNature に掲載された。この発見は、進化系統樹の上でヒトの祖先と類人猿が分岐した直後のヒトの進化についての考え方に革命を起こした。
太陽に似た恒星の周りで 初めて見つかった系外惑星
1995年、天文学者であるミシェル・マイヨール(Michel Mayor)とディディエ・ケロー(Didier Queloz)は、主星からの距離が太陽から水星までの距離よりも短い、木星ほどの質量の灼熱の惑星「ペガスス座51番b」を発見し、Nature で報告した。この発見は惑星形成理論を修正し、系外惑星探査の新時代を切り拓いた。
神経科学研究に 不可欠な道具となった画期的方法
パッチクランプ法は、エルビン・ネーアー(Erwin Neher)とベルト・ザックマン(Bert Sakmann)により開発され、1976年に Nature で発表された。開発当初の目的は、細胞膜の中のチャネル・タンパク質を通して流れるイオン電流を記録することであったが、今では神経科学研究に不可欠な手法となっている。
炭素が引き起こしたナノ革命
1985年、ハロルド・クロトー(Harold Kroto)らはケージ状炭素分子C60を発見し、Nature で報告した。この発見は、グラフェンやカーボンナノチューブなどの物質の作製に道を開き、ナノテクノロジーという領域を開花させる画期的な出来事となった。
モノクローナル抗体の登場と進歩
特異性が分かっている抗体を産生する上、分裂し続ける細胞の単一クローンを作り出すにはどうすればよいか。この問題は、ジョルジュ・ケーラー(Georges J. F. Köhler)とセーサル・ミルスタイン(César Milstein)が1975年にNature で発表した論文により解決された。生物学的に重要なこの発見は、臨床においても自己免疫疾患やがんの治療を成功に導いた。
鋳型ミセルを使って誕生した ナノ多孔性材料
1992年、ミセルを鋳型として使ってさまざまな多孔性材料を合成する単純な方法がNature で報告された。そうした多孔性材料は、生物医学から石油化学処理に至る多様な分野での応用が期待されている。
奇妙な粒子の検出
1947年、ジョージ・ロチェスター( George Rochester)とクリフォード・バトラー(Clifford Butler)は、それまで見たことのない粒子を発見したことをNature で報告した。この粒子は、現在はK中間子と呼ばれている。彼らの研究に続いてクォークとして知られる素粒子が発見され、やがて素粒子物理学の標準模型が確立した。
細胞のアイデンティティーの 再プログラム化
1958年、ジョン・ガードン(John Gurdon)、トム・エルスデール(Tom Elsdale)およびマイケル・フィッシュバーグ(Michael Fischberg)の3氏は、細胞の分化が可逆的であることを発見し、Nature で報告した。この論文は、細胞のアイデンティティー決定の仕組みを説明した理論に疑問を投げ掛け、細胞のアイデンティティーを再プログラム化する現在の手法の基盤を築き、新しい再生療法に対する期待をもたらした。
南極大陸上空の オゾンホールの発見
ジョゼフ・ファーマン(Joseph C. Farman)らは1985年に、南極大陸のハリー基地とファラデー基地の上空の成層圏のオゾン濃度が、南半球の春の間にそれまでの定常値から大幅に低下したことをNature で報告した。この予想外の「穴」の発見は、科学に革命を起こし、20世紀で最も成功した国際環境政策の1つの制定を後押しした。
翻訳:三枝小夜子 / 船田晶子 / 古川奈々子 / 藤野正美 / 三谷祐貴子 / 編集部
Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 1
DOI: 10.1038/ndigest.2020.200117