復活する英国の河川
英国スウィンドンを流れる河川。 Credit: STUART BLACK / ROBERTHARDING/GETTY
川は地球の動脈と静脈だ。栄養を運んで老廃物を流し去り、陸の生息環境を健全に保っている。その点で英国の川は不健康である。河川の何と86%が水質基準を満たしておらず、野生生物と人間の健康を脅かしている。
だが最近の研究で希望が見えた。テムズ川のある支流では、廃水処理設備が改善したおかげで過去30年間に無脊椎動物の生物多様性が増した、と英国生態・水文学センターのチームが明らかにし、2019年8月のEnvironmental Toxicology & Chemistry に報告した。 この論文の責任著者で環境科学者Andrew Johnsonは、「廃水流入が全くない川と同じくらいの水準に達し始めています」と言う。
濾過法から活性汚泥処理に
甲殻類や昆虫、蠕虫などの無脊椎動物は水界生態系で重要な役割を担っている。川底を掘り返し水を濾過して環境を整え、捕食者であると同時に被食者でもある。また、環境の変化に素早く反応し、生態系の健全性を示すバロメーターとなっている。
生態学・水文学センターのチームは、英国南西部スウィンドンの大きな廃水処理場の下流に当たるレイ川の12km区間で英国環境庁が1977~2017年に収集したデータを解析した。この結果、1991年6月以降は無脊椎動物の種類と個体数が着実に増えていることが分かった。
このタイミングは1991年の「EU都市廃水処理指令」と一致する。この指令によって、廃水処理の方法が濾過法から微生物で汚物を分解する「活性汚泥法」に変わった。この結果、川に流れ込む有機物と有毒なアンモニアが劇的に減り、無脊椎動物の多様性が徐々に改善したと研究チームは結論付けた。「20年間ジャンクフードを食べ続けた後に健康な食生活に切り替えたようなもので、すぐには回復しません」とJohnsonは言う。
ブルネル大学(英国)の生態毒性学者John Sumpterは、この生物多様性の増加はもっと大きな生物の多様性も増した可能性が高い他、おそらく他の場所にも当てはまるだろうと言う。ただし、そうした改善を示す研究報告例はほとんどない。「解析に必要となる長期データを保有している国が非常に少ないのが大きな障害になっているのです」と言う。
今回の新研究は「英国の都市河川が産業革命以降のひどい汚染から回復しつつあることをうかがわせます」とカーディフ大学(英国)の生態学者Steve Ormerodは言う。だが、農業に伴う水質汚染の広がりを指摘して、完全な回復にはさらなる努力とさらに厳しい規制が必要だろうと付け加える。「英国の河川は基本的に、都市では改善していますが、地方では悪化しているのです」。
それでもJohnsonは、レイ川の結果が改善への道筋を示しているとみる。「そしておそらく、野生生物は、私たちが考えているよりもずっとたくましいのです」と言う。
翻訳:粟木瑞穂
Nature ダイジェスト Vol. 17 No. 1
DOI: 10.1038/ndigest.2020.200129a
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