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米国政府が胎児組織利用の研究を大幅に制限

Nature ダイジェスト Vol. 16 No. 9 | doi : 10.1038/ndigest.2019.190910

原文:Nature (2019-06-05) | doi: 10.1038/d41586-019-01783-6 | Trump administration halts fetal-tissue research by government scientists

トランプ政権は、連邦政府機関の研究者らによる胎児組織研究を禁止し、政府が資金提供する研究について倫理面の審査を求める方針を打ち出した。

米国立衛生研究所(NIH;メリーランド州ベセスダ)。 | 拡大する

Ricky Carioti/The Washington Post via Getty Images

米国のドナルド・トランプ政権は、政府機関の研究者による胎児組織研究を打ち切り、米国立衛生研究所(NIH)から胎児組織を使う研究の助成金を得ようとする学術研究者に厳しい制限を課そうとしている。

トランプ政権は2019年6月5日、人工妊娠中絶由来の胎児組織を使った研究を支援するNIH助成金の申請を個々に評価するための倫理諮問委員会を設置することを明らかにした。ただし、政府はすでに、胎児組織を使ってHIV治療法を研究するカリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF;米国)の研究室との契約を更新しないことを決めている。

米国保健福祉省(HHS)は、「受胎から自然死に至るまでの人命の尊厳を守り高めることは、トランプ政権の最優先事項の1つだ」とする声明を発表した。

この声明は、胎児組織を使った科学研究の制限を長年求めてきた中絶反対派の活動に追随するように出されたものだ。もちろん研究者らはそうした動きに対して、胎児組織の利用は一部の健康問題を研究するための唯一の方法だとして警鐘を鳴らしてきた。胎児組織は、感染症やヒトの発生、眼の疾患といった多様なテーマの研究に使われている(2016年3月号「胎児組織研究に関する真実」参照)。

「今回の決定により、研究は後退するでしょう」と、南カリフォルニア大学(米国ロサンゼルス)の幹細胞生物学者Andrew McMahonは言う。彼は現在、ヒト幹細胞から腎臓を作る方法を研究している。McMahonによると、自然の発生をうまく模倣できたかを判断するには、作成した原型的な臓器を胎児組織の腎臓と比較する以外に方法がないのだという。生物医学研究ではマウスをヒトの代理生物として使うことが多いが、McMahonの研究で使うには、マウスの腎臓はヒトの腎臓と違い過ぎているのだ。

HHSは2018年9月以降、その傘下にあるNIHや米国食品医薬品局(FDA)などの機関が資金提供する全ての胎児組織研究を審理している。HHSは、ヒト胎児組織を使って改変した免疫細胞でHIVを治療する方法をマウスで試験するUCSFの研究について、助成の契約をしていたが、この契約の満期は2019年3月だった。その後HHSは、契約を6月5日まで延長することに合意したが、契約はそこまでで打ち切りとなった。

これを受けて、UCSF学長のSam Hawgoodは声明を出し、その中で、トランプ政権のこの決定は「政治的動機による近視眼的なものであり、健全な科学に基づいたものではない」としている。「HIV感染症の治療法開発のため、胎児組織を利用することでしか開発できない特別設計のモデルを使用するというNIHとの30年来のパートナーシップは、今回のHHSの措置により終わりを迎えます」。

トランプ政権のこの方針によって、NIHの研究者らは、現在保有中の胎児組織の在庫が尽きた時点で、胎児組織を使った研究を否応なく中止することになる。HHSによれば、この制限は国の3つの研究プロジェクトに影響してくるだろうという。

他の大学や研究機関が現在NIHから助成金を受けて行っている約200件の研究プロジェクトは、この政府方針の影響を受けないだろう。しかしHHSによれば、助成金の新たな申請や更新は倫理諮問委員会に提出する必要があり、委員会は「議会を通った法律に従い、倫理規定に照らし合わせて、その研究企画案を審査し、NIHが当該研究プロジェクトに助成金を出すべきかどうかを勧告する」ことになるという。

問題のこの法律は、倫理諮問委員会のメンバーを14〜20名とし、その3分の1から2分の1は「生物医学研究または行動学研究において十分な業績」のある研究者とするよう求めている。HHSの長官であるアレックス・アザール(Alex Azar)により任命される委員会のメンバーには、神学者、倫理学者、法律家、医師も各1名ずつ含む必要がある。

カリフォルニア大学サンディエゴ校(米国)の神経科学者Lawrence Goldsteinは、この厳し過ぎる審査が追加されたことで、連邦政府の胎児組織研究への資金提供は実質的に止まるのではないかと話す。「これは全て、誰が任命され、委員会が政治的にどの程度偏向したものになるかにかかっています。今後数年で更新の時期を迎える非常に重要な研究プロジェクトをいくつか知っていますが、政治的に偏向した委員会が価値ある研究を潰してしまうのではないかと心配しています。委員の顔ぶれがある程度妥当なものであれば、いくらか希望が持てるのですが」と彼は言う。

(翻訳:船田晶子)

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Nature ダイジェスト Online edition: ISSN 2424-0702 Print edition: ISSN 2189-7778

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